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七海、父ちゃんに飽きる?

 ピースケはめぐみに謝罪して仲直りをした。そして、一日の仕事を終えると帰路に就いた――



「ただいま」


「おう、ピースケ。お務め御苦労。ゆっくり風呂にでも入って、身体を休めるが良い。アッハッハ」


「『アッハッハ』とか言ってるし……」


「どうした? 何か嫌な事でも有ったのか?」


「どうしたも、こうしたも、無いですよ」



 ピースケは事の顛末を話した――



「おい、ピースケ。めぐみさんが死神と仲良くしている事に嫉妬をするなんて……情けない奴だ、恥を知れっ!」


「じゃあ、和樹兄貴は平気なんですか? めぐみ姐さんは形式的とはいえ、もう既に死神と契りを結んでいるんですよ?」 


「それならば、もう手遅れではないか。漢は諦めが肝心だ。めぐみさんが死神と共に生きて行くと云うのならば、陰ながら支えて行くのが筋と云うものだ」


「そうじゃなくって! 形式的な契りのはずが、このままじゃ『本当の契りになってしまいますよ?』って言っているんですよっ! めぐみ姐さんが死神の物になるなんて、僕は嫌です」


「めぐみさんが、それで良いと云うのなら、それで良いではないか」


「呆れた。和樹兄貴、本当に取られちゃっても良いんですか?」


「良いも悪いも無い。分からん奴だっ! めぐみさんの判断を信じてやる事が出来無いのか?」


「だって……」


「くどい! ピースケ。心の中の雑念を払うには。この木剣を千回振るのだ。それでも払えぬのなら一万回でも振ってみよ。必ずや雑念を断ち切る事が出来るぞっ! アッハッハッハ」


「やれやれ。和樹兄貴……言っておきますけど、気合と精神論では恋は成就出来ませんよ、恋の花は実らぬまま枯れてしまいますよ?」


「恋が花なら、無理に咲かすものでは無いと云う事よのぅ……」


「風流な感じを気取ってもダメなんですよっ! 結局、嫁取りは戦いなのですっ! 漢と漢が鎬を削る熱い合戦なんですっ! もう、知りませんからねっ!」


「おい、ピースケっ……」



 ピースケは自分の部屋に閉じ籠った。そして、頭を冷やして考え直すと、激しい熱量で訴える自分が可笑しくなっていた――



「和樹兄貴。さっきは生意気な事を言って御免なさい。考えてみれば『エネルギーと時間を無駄に消費して、得る物無し』僕にはどうでも良い事。余計な心配している自分が『馬鹿だったんだなぁ』って悟ったのです。今は反省をしています。僕は自分を疎かにしていました。でも、死神とめぐみ姐さんを見ていたら、何故か居ても立っても居られなくなってしまったのです……」


「あぁ。分かった。お前の気持ちは……良く分かったぁ」


「ん? 兄貴……?」


 ケロッとしたピースケとは正反対に『嫁取りとは、漢と漢が鎬を削る熱い合戦』と聞いた和樹の瞳は燃えて燦然と輝き、決然と立ち上がるやワナワナと武者震いをしていた――




「お肌のお肌の曲がり角――ぉ、保湿だ保湿だスキンケアぁ、洗おうか、洗おうよ……あれっ? 部屋の電気が付いているよ」


 めぐみは自転車を停めて階段を静かに登り、そっとドアノブに手を掛けた――



「めぐみお姉ちゃんお帰りっ!」


「あ。やっぱり七海ちゃんかぁ……ただいま」


「お? もしかしてもしかすると、もう、既に男に合いカギを渡しったって事?」


「渡さないよぉ……」


「まぁ、めぐみ姉ちゃんには、あっシしか居ねぇって事よな」


「何嬉しそうに笑ってんのよ」


「別に」


「別にって、せっかく家族水入らずで仲良く暮らせる様になったのに、こんな所に来ちゃ駄目よ。サッサとお帰り」


「えぇ―――っ! 良いじゃんよ―――ぉ、たまのお泊りくらい、大目に見てくれっちゅーのっ!」


「あれあれ? 七海ちゃん。様子が変ねぇ……何か有った? 正直に云うてMe」


「『云うてMe』って言われても……」


「あーぁ、めぐみお姉ちゃんに隠し事するんだぁ。ふーん」


「いや、その、つまり……何つーの? お父ちゃんに飽きちゃったんよねぇ。あっシ」


「は―――――ぁ!? ちょ、おま、ふざけんなっ! 二度とは会えない父ちゃんを、蘇らせてぇ、引き合わせ、家族三人、不自由無く、仲良く暮らせと、財産まで、渡して与えて見送ったぁ、あの日の事を、あっ、忘れたたぁ……」


「めぐみお姉ちゃん、その、古典芸能的なの要らね――しっ。ついこの間の事なんだから、忘れねぇっつーの」


「ついこの間なら、何で飽きるのよっ! 飽きるの早過ぎでしょう? この罰当たり者がっ!」


「そうなんよぉ……でもさぁ。父ちゃんは失った時間を取り戻そうと必死なんよ」


「そりゃ、そうでしょうよ。あんた、それが気に入らないの? 親の心子知らずねぇ」


「めぐみお姉ちゃん、聞いてくれる? 父ちゃんにとってあっシは子供なんよ」


「うん。知ってる」


「ちげぇ―――よっ! あっしはもう大人の女。ロスト・バージン・カウント・ダウンだお」


「大人の女が処女な分け有るか―――いっ!」


「あのね。父ちゃんが大きな箱を抱えて帰って来たんよ。何だと思う?」


「知るかっ!」


「あっシが子供の頃、大好きだったキャンディとアイスと駄菓子」


「あら、泣かせるじゃないの。親心ねぇ」


「ちげぇ―――よっ! 駄菓子、箱買いだお? あっシはもう、ちびっ子じゃ無ぇっつーのっ! 食い切れねぇよ? 夕飯入んないよ? どぉーすんだ?」


「『どぉーすんだ?』てっ、親孝行だと思って、無理をしてでも食べてあげれば良いじゃないの」


「そうよな。親心だからな。ハイ、無理をしましたぁ、食べ切りましたぁ。翌日どーなるか云うてMe」


「『云うてMe』って言われても……まさか」


「そのまさかなんよねぇ。飽きたっつーかさぁ。ウザいんよね」


「親に向かってウザいとは聞き捨てならないよっ!」


「だって、一緒にお風呂に入ろうとするんよ。どう?」


「うわぁ――――ぁ。マジで?」


「シャンプーハットちゃんにアヒルちゃんをセットで、シャボンを大量購入だお?」


「何だか、プレイの匂いがして来たよ……」


「な?」


「ふーむ。でも、そんな事はさぁ、言えば済む事でしょう? あんた、まだ何か隠しているでしょう?」


「…………」


「ん? えぇ?」


「父ちゃんと……母ちゃんが、イチャ付いているの……耐えられないんよ――ぉ!」


 七海は顔を真っ赤にしてめぐみに抱き着いた――


「お――――っとぉ、そりゃ、気不味いなぁ」


「アパートの部屋。壁が薄いからさ。もう声を押し殺しても……な?」


「な? って?」


「ギシギシ、ズンズン、パンパン、パンパン、パパパパパーンっ! よ」


「あ――ねぇ」



 めぐみは、幾ら七海が大人の女と言い張っても結局は子供であり、両親の合体は気不味い事を察した。そして、良仁がまるで網走刑務所から出所したばかりの様にガッツいている事を理解した――







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