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ピースケ、冥府に恐怖!

 突然、現れた死神にめぐみはほころんでいた。そして、死神も微笑んでいた――


「死神さん。やりますねぇ、憎いよこの――ぉ、漢だねぇ」


「いえ、どうにか尻尾を捕まえたので。お陰様で、やっとです」


「そんな謙遜しなくても――ぉ。でも、謙虚さって大事ですよねっ!」


「いいえ、まだまだです」



 めぐみは一瞬、死神の眼光が鋭くなったのを見逃さなかった。死神も又、それを悟り話題を変えた――



「ところで、ピースケ君。先程から顔色が良くありませんね?」


「死神さん。ピースケちゃんは、あなたが地上で活動している事を不審に思っているんですよ」


「あぁ、なるほど。それは理解出来ます。本来、私は姿を見られてはいけないはずですから」


「でも、働き方改革で地上で活動出来る様になったと聞きましたけど?」


「はい。その通りです。ですが……お嬢さん、ピースケ君。この事は他言無用。どうか、内密にお願い致します」


「あっ! 隠密行動って事なんですね?」


「しっ! 声が大きいです」


「あっ! ゴメンナサイ……」


 ピースケは正式な許可が出ているのに『内密に』と云う死神の態度に不信感を深めていた――


「あの、ちょっとお聞きしますけど、きちんと天の国から許可を得ているなら、隠密行動などする必要が無いのではありませんか?」


「ピースケちゃん、何絡んでいるのよ。死神さん、気分を悪くなさらないで下さいねっ」


「勿論です。大丈夫ですよ。気にしませんから」


「流石。大人ですね――ぇ」


「お嬢さん、さして用も無さそうですから……私はコレで失礼します」


「あっ。無駄に呼び出しちゃってゴメンナサイです……」


「良いんですよ。困った事が有ったら何時でも私を呼んで下さい」


「有難う御座います。まだ昼休みなので、そこまで送って行きますねっ!」


「そうですか。それなら、お嬢さん。お話でもしながら歩きましょうか?」


「はいっ! うふふふっ」


「それではピースケ君。さようなら」


「…………」


「さぁ、こんな子は放っておいて。行きましょう」



 ピースケは何時に無くほころんでいるめぐみの姿を見て死神に嫉妬をしていた。そして、ふたりが仲良く参道を歩いて行くのを見送った――



「さっきの事なんですけど?」


「はい」


「まだまだ……と仰っていましたよね?」


「えぇ」


「あの日、私が運命を変えてしまったのは八人。残り七人と?」


「いえ。時間が経てば人数も変わってしまうものです。一刻も早く連行しなければなりません」


「どう云う事ですか?」


「残りの七人が仲間を増やしているのです」


「えぇっ! でも、そんな悪党が観光バスになんか乗るのかしら?」


「不思議に感じるのも無理も有りません。それでは、お嬢さんが運命を変えてしまった人間達の正体をお教えしましょう。奴らは人の生き血を啜りながら天罰を逃れ、のうのうと生きているのです」


「天罰を逃れるとは?」


「はい。分かり易く言えば、搾取と分配です」


「つまり、悪事を働きながら、良い事もしていると?」


「えぇ。無論、不公平極まりない分配ですがね」


「天の国の審判では裁く事が出来ないのですか?」


「えぇ。その為、天国主大神アメクニヌシノオオカミ様は密かに諜報活動を行っておりました。その結果、無自覚ではない確信犯を特定しリスト・アップしていたのです」


「と云う事は、そのリストが……」


「はい。運命の日に消えてしまったのです。お嬢さんが運命を変えてしまった事で、奴らは存在しなかったはずの未来を手に入れ、今ものうのうと生きているのです。断じて許せません」


「何か……私、大変な事をしでかしてしまったのですね……」


「えぇ、運命を変えると云う事は本当に大変な事です」



 めぐみは肩を落として落ち込んだ――



「しかし、お嬢さん。どうか御安心下さい。天国主大神アメクニヌシノオオカミ様は、お嬢さんの変えた運命に賭けたのです」


「私の変えた運命に……?」


「そうです、その先の未来に」


「…………」


「見送りは此処までで結構です。それではお嬢さん、また会いましょう」

 


 そう言うと、死神はふわっと煙のように消えてしまった――



「ふぅ……この先の未来に、一体どんな運命が待っているのだろう? もう後には引けない、戻る事は出来ないよ」



 社務所に戻ると、死神と楽しそうにデート気分のめぐみが気に入らなかったピースケが不貞腐れていた――


「片付けは終わった?」


「えっ? もう、とっくに終わってます」


「そう。ご苦労さん、後は三時のお茶の準備だけね」


「それも終わってますけど、何か?」


「『何か?』って、準備が出来ているなら、良いわよ……」


「あーぁ、どうせ僕は『こんな子』ですからねぇ、御心配頂き、誠に有難う御座いまぁ――す」


「あっ。何よ、その態度。感じ悪いわねぇ」


「感じ悪いのは、めぐみ姐さんの方でしょう? 死神とベタベタしてっ!」


「ベタベタなんてしていませんよぉ―――だっ!」


「くっ、和樹兄貴と云う人が有りながら、死神と小声で『隠密ごっこ』を楽しんでいる事がベタベタじゃなければ何なんですかねっ!」


「だからぁ『隠密行動の指令』が有ったって事なのよっ! 分からない子ねぇ」


「えぇ、えぇ『こんな子』ですから、分かりませんねっ! あんな派手な隠密行動なんて、有り得ませんよっ!」


「ピースケちゃん。地味だろうと派手だろうと。隠密は隠密だぞ」


「内密だなんて。本当は、八百万の神々にバレれたら都合が悪いからじゃないんですかねっ! 皆に言い触らしてやるっ!」


「あー、ピースケちゃん。それを言っちゃぁ、お終いよ。死神さんは天国主大神アメクニヌシノオオカミ様の密命を受けて行動しているの。吹聴したら……」


「吹聴したら……?」


「死神さんが、正式にピースケちゃんをお迎えに来るよ」


「えっ……?」


「冥府? 行った事無いでしょ? 行ってみる? 凄いんだからぁ」


「……凄いって、どんな風に?」


「悶え苦しみ、死んだと思った、その瞬間っ!」


「そ、その瞬間???」


「蘇っちゃうんだなぁ、コレが。あっ、クリアして次のステージじゃないよ? お母さんが掃除機かけて、電源抜いてリセットしちゃってセーブ無しっ! で、最初からって感じ。正に正に地獄よねぇ。冥府の責め苦は、終わりなき無間地獄とはよく言ったものよ」


 ピースケは自分の知らない事には酷く臆病だった。そして、天国主大神アメクニヌシノオオカミ様の密命を受けて行動しているのが本当だとしたら、死神の隠密行動の妨害、即ち天国主大神アメクニヌシノオオカミ様に対する背反行為だと自覚し、冥府に連行される自分の姿を想像してガタガタと震えていた――







お読み頂き有難う御座います。


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