呼ばれて飛び出た死神さん。
―― 一月二十九日 友引 壬午
喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――
「おざっすっ!」
「めぐみさん、お早う御座います」
「おはようございますぅ」
「あ……めぐみ姐さん、お早う御座います」
「あれ? ピースケちゃん、朝から元気無いわねぇ。さては昨日、遊び過ぎたのね。でも、大人は遊んだ次の日こそ元気でバリバリやらなくてはダメなのよっ!」
「……はい」
「もう、確りしなさいっ!」
「あのぉ、めぐみ姐さん、後でちょっとお話が……」
「えっ? またですかぁ?」
「いいえ、股の話じゃありません。風俗なんか言っていませんから……」
「いや、誰もそんな事は言っていないでしょ。朝から下ネタかよっ! 性病じゃなくて心の病なのね。分かったよ」
お昼休みにピースケは昨日の出来事を話した――
「えっ!? 死神さんに会ったんだ。新宿で?」
「はい」
「それで?」
「それでって……僕が悪い奴らに絡まれてボコられて。それから、真人間の皆もボコられたんですよ」
「あら? 意外ねぇ。本気出せば余裕でしょうに?」
「めぐみ姐さんの言い付けを守ろうとして、ためらいが有ったがために、先制攻撃が出来なかったんですよ。相手は催涙スプレーにスタンガンですよ。それで、身動きが取れなくなって……」
「ふーん。で?」
「そしたら、たまたま通り掛かった死神が僕達を助けてくれたんです。悪い奴らと喧嘩をするかと思いきや、紳士的に引き渡しの交渉をして、家出少女の借金を全額返済した上に、持っていたトートバッグに入っていた残りのお金を彼女達に全部渡して、風と共に去って行ったんです」
「マジで、超カッケーじゃんっ! なんつーかさぁ。紳士なんだよねぇ。死神さんやるぅっ!」
「『死神さんやるぅっ!』って。まぁ、めぐみ姐さんの気持も分かりますけど、その後、皆で居酒屋で飲んで話している時に気が付いたんですけど、僕にだけは首に縄を掛けて連れられている死者が見えたんですよっ! なんか……怖く無いですか?」
「はぁ? あんたは最弱と言っても神様なんだから見えて当然よ。真人間達にも家出少女にも見えなくて当然なの」
「あっ。そう云う事ですか?」
「そうよ、決まっているじゃない。でもさぁ、良かったね。真人間達も最近、流行りの私人逮捕系YOチューバーと紙一重だから心配していたのよ。家出少女達も借金を返済して悪い男達との縁も綺麗に切れて如何わしいバイトをしなくて済む。付き纏われたら大変だからねぇ。目出度し目出度し」
「いえ、後、もうひとつ気になる事が……」
「何よ?」
「はい。今朝のニュースで新宿の闇カジノで発泡事件が有ったと……」
「あぁ、そのニュースなら観たよ。一晩で数千万から億単位のお金が動いていたんだってね。まぁ、そんな闇カジノで誰が死のうと自業自得よ。新宿だからねって事で」
「そうじゃなくて、死神はその死んだ男を連れていたんですよっ! つまり、あのお金は闇カジノから強奪したお金って事なんですよ」
「最高かっ! 労働者から搾取したお金でギャンブルに耽る金持ち共を蹴散らし現金奪取。賭場開帳の輩共は死亡and逮捕、薄幸の家出少女は借金チャラで現金プレゼント。死神さんマジで漢よのぅ」
「めぐみ姐さん、死神が地上で必殺仕事人とネズミ小僧と大岡越前をひと纏めにした様な、そんな事をして良いと思っているんですか?」
「えっ? ダメなの?」
「いやっ、普通に考えてダメでしょう? 天の国の審判が有って、台帳に登録された人間を連れて行くのが死神なんですから」
「じゃあ、天の国に聞いてみるわよ」
めぐみはケータイを取り出すとアプリを開いた――
‶ ピロリロロン ピンッ! ようこそ、chatGPTへ。さぁ、新しい時代の扉を開けようっ! ″
‶ はぁ――い、Navigatorの『巫女twin’z』でぇ――――――すっ! ″
「あんた達に聞きたい事が有るんだけど、ピースケちゃんが死神さんが地上で活動するのは規則違反だって言うんだけど、許可は出ているのかしら?」
‶ 許可が出ていると言えばぁ、出ていますしぃ、出て無いと言えばぁ、出て無いんですねっ ″
「ちょっ、答えになって無いんですけど? どっちなのよ」
‶ はぁ――い、えっと、ですねっ。つまり、令和三年の働き方改革で大罪人はこれ迄通り天の国が天罰を与えますがぁ、微妙なライン? グレーゾーン? 功罪合わせ持つ輩に関してはぁ、冥府にも権限を与えたって事なんですねっ ″
「許可と権限の違いが微妙だけど、死神さんは任務を遂行しているって事で良いのね?」
‶ はぁ――い、えっと、ですねっ。その件に関してはぁ、神官から直接、話が有ると思いまぁ―――――す 以上っ! プッ、ツ―ツ-、ツ―ツ-”″
「あっ、切れちゃった。ピースケちゃん、死神さんは任務遂行中なんだって、分かった?」
「あぁ。えぇ、まぁ……微妙」
「まぁ、神官から直接、話が有るって事は、
「まぁ、神官から直接、話が有るって事は、ちゃんと許可が出ているって事なのよ」
「めぐみ姐さん。楽観的過ぎやしませんか? 例え嘘でも死神と契りを結んだ事実が八百万の神々にバレたら大問題になるかも知れないと云うのに……」
「脅かさないでよ。八百万の神々にブチブチ嫌味を言われるのは本当にキツイのよ。しかし、神官から連絡が来るのが何時になるのか分からないしなぁ。死神さんに会えれば判る事かも知れないけど……あぁ、死神さんに会いたいなぁ」
めぐみは何気なく呟いたが、胸の指輪は聞き逃さなかった――
‶ ぼわぁわぁわ、わぁ――――――――――――んっ! ″
「こんにちは、お嬢さん。お呼びですか?」
「あっ! 死神さん、どうして此処に?」
「その指輪に話し掛ければ何時でも参上致しますと申し上げましたよ」
「あっ、そうだった。すっかり忘れていました。うふふっ」
「あははは。おや? ピースケ君、昨晩は楽しかったですか?」
「あ、はい。お陰様で……」
めぐみが指輪に話し掛けると、死神が自動的に現れるシステムになっている事にピースケは驚き、硬直していた――
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