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第286話 死神との遭遇。

 不夜城新宿にパトカーと救急車のサイレンが鳴り響いた。だが、通行人の誰もが気にも留めず、楽しそうに会話をしながら歩いていた――


「しっかし、相変わらず、サイレンはうるさいし、危ない連中ばっかりだな」


「治安が悪いと嘆くどころか、ほら、あれを見てご覧よ」


 真人間が指差すビルの大きなバナーに『今夜、事件が起きる! エキサイティング・シティー新宿歌舞伎町。目撃者になるのは、あなただっ!』と書いてあった――


「目撃者ねぇ……」


「でも、映画の目撃者は可愛かったですよね」


「そうなんですよ。めっちゃ可愛かったっ!」


「まさか、ああいう展開になるとは思いませんでしたよ」


「えぇっ! 私はそうだと思ったよ」


「へぇ。詳しいんですね」


「だって、私、実家に居る時は毎週欠かさず観ていたもん」


「実家に居る時? 今は観ていないんですか?」


「うん。家出したからさ……」


「家出っ!」


「うん……暫く観ていなかったから、映画を観て話が分からなかったらどうしようって思っていたけど、楽しかった」


「そうだったんですね……すみません。変な事聞いて。気を悪くしないで下さいね」


「ううん、大丈夫。今夜はありがとう、ピースケちゃん」


「いやぁ、礼には及びませんよ。僕の方こそ、ふたりが居てくれたお陰で華やかな感じがして、気分が盛り上がって良かったです。新宿最高っ!」


「おい、ピースケ。盛り上がったの気分だけか?」


「えっ、モッコリなんかしていませんよっ! もう、オジサンは直ぐ下ネタだから。おふたりとも気にしないで下さいね」


 レイト・ショーを観てお別れの約束のはずだったが、ミホはこのまま下北沢の居酒屋に行こうとグズった。たが、警戒するユカは名残り惜しそうなミホの手を引っ張って帰ろうとした。するとその時、怪しい男達が声を掛けて来た――


「よう。誰かと思えばユカじゃん」


「こんな所で再会するとはな。探したぜ」


「さぁ、来てもらおうか」


「嫌よっ! もう、お金なら返したでしょう。付き纏わないでっ! ミホ、行くよ」


「待てよ。付き纏うだと? おい、お前の借金は元金は減ってないんだぜ。この間のは利息だけだ」


「そんな……」


 ひとりの男がユカの腕を掴んで捻り、無理矢理連れて行こうとした。すると、真人間達は深入りしてはいけないと心に言い聞かせて我慢をしていたが、未成年で童貞のピースケは正義感を抑える事が出来なかった――


「何ですか、あなた達。嫌がっているでしょう? 手を離しなさいっ!」


「何だい坊や? 大人の話に首を突っ込むんじゃねぇよ」


「大人なら、マナーを守って下さい。乱暴な真似は止めて下さい」


「あぁ? 誰も乱暴なマネなんかしてねぇだろ? 乱暴ってのはこう云う事か?」



 ‶ ドスッ! バキッ! パ――――ンッ! ″



 ピースケが痛い目に合されると、真人間達の表情は一変した――


「おい、片目片耳を閉じろとは言われたけど……」


「両目両耳を閉じろとは言われてないぜ……」


「そうだ。こんな事をされて黙っている俺達じゃないぜっ!」



 真人間達は男達に抵抗した。だが、迎え撃つ武闘派の男達は催涙スプレーとスタンガンで一瞬で制圧した――


「お前ら、あんまりナメた真似すんな」


「今日はコレで勘弁してやる」


「分かったな。これ以上は命を落とすぜ」



 ミホは蹲るピースケに駆け寄り抱き起した。真人間達がやられて万事休すと思ったピースケは助けを求めて辺りを見回した。すると、真直ぐ向かってくる男の足が目に入った。見上げると、そこに居たのは死神だった――


「あぁっ! こんな時に迎えが来るなんて……ミホさん、ゴメン。お世話になった皆さん……サヨナラ」


 死神はピースケに気が付いて声を掛けた――


「おや? あなたは確か、喜多美神社の方ですね?」


「は、はい。間違い有りません。覚悟は出来ております」


「覚悟とは?」


「僕の命も此処までなんですよね? こんなに早くお迎えが来るとは思いませんでした。でも、青春も味わったし思い残す事は有りません」


「いいえ。何か勘違いをされている様ですねぇ」


「ねぇっ! おじさん、助けて。あの人達にユカちんが連れられて行ってしまうよっ!」


「ふーむ。分かりました」


 死神はユカと揉めている男達に声を掛けた――


「今晩は。何か問題でも?」


「何だお前は?」


「あなた達が殴った者の関係者……まぁ、友達みたいなものですかね」


「ほう、関係者だと云うのなら、この落とし前を付ける気が有るんだな?」


「フッ。良く分かりませんねぇ。とにかく、その娘を解放して貰えませんか?」


「良いだろう。簡単な話だ。この女の借金、五百万円。耳を揃えて返して貰おうか?」


「分かりました」



 死神は手に持ったトートバッグから帯封の掛かった札束を五つ取り出して渡した――



「それならコレで。サッサと手を離しなさい」


「あぁ、分かった……」



 男達はビビッていた。だが、それは五百万を差し出した死神では無く、現金の入っていたトートバッグに見覚えが有ったからだった――



「何か忘れていませんか?」


「あぁ、コレが、借用書だ。あんたも人が悪いなぁ。吉本さんの身内の者なら最初にそう言えば良い物を。知らなかったんだ、悪く思うなよな。あばよ」


 ユカは解放されたが、死神の手の内に借用書が有る以上、何を要求されるか怯えていた――


「はい。どうぞ」


「……えっ?」


「これはあなたのでしょう?」


「はい。でも……良いんですか?」


「勿論です。それから、おふたりともお金に困っている様ですから、コレをお持ちなさい」


 死神はミホとユカにトートバッグごと渡すと、ピースケと真人間達に声を掛けた――



「それでは私はコレで失礼します。皆さん、お身体をお大事に。それから、めぐみさんによろしくお伝え下さい。では Good Night!」



 死神が去って行った後、全員で下北沢の居酒屋に行き豪快に飲んだのは言うまでも無い。皆がご機嫌で酔っぱらう中、ピースケだけは酔えなかった。何故なら、首に縄を掛けられている吉本の姿が見えていたからだった――







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