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殺しのライセンスは誰の物?

 銀色の髪に抜けるような白い肌、鋭利なナイフで削り落としたような鼻筋、濡れた艶やかな唇、涼し気な目元には血の通わない冷たい瞳がキラッと光り、繊細な指先に綺麗に手入れされた爪が男の色気を際立たせていた。勝負勘と度胸を併せ持ちながらも上品な所作で堂々としている死神にカジノに来ていた女達は釘付けになった――




「ねぇ。あの人の指輪を外せるのは誰かしらねぇ?」


「そうねぇ、此処に居る女の中では……私以外には居ないわ」


「まぁ。随分と自信が有る事」


「だって、そうでしょう? あんな有閑マダムや、そこに居る小便臭いキャバ嬢では、この私の相手にもならないわ」


 馬鹿にされたキャバ嬢と有閑マダムが睨み返して反論した――


「あーら、そうかしら? 男なんてどれもこれも一緒よ。結局、若い女が一番なのよ。オ・バ・サ・ン!」


「ふんっ! 生意気な女」


「あなた達お止めなさい。あのお方は紳士ですよ。あなたはラブホ? あなたはシティ・ホテル? 私なら湯河原の別荘に御招待しますけど」


「幾らお金をチラつかせたって、女は四十歳を過ぎれば魅力は無くなるのよ」


「教養の高い大人の殿方は金持ちの年増が好きな事を御存知無いのね。クルーザーで水遊びをしたり、プライベート・ジェットで海外のカジノに行く事も提案出来ますわ。あなた達とは人生経験と財力が違いますから。おほほほほ」


「それなら今夜、彼とベッド・インするのは誰か賭けましょうよ」


「よろしくてよ。おーっほっほっほっほ」


 

 ゲームに退屈していた女達は勝手気ままな賭けを始めていたが、ふたりがサシの勝負をするために席を離れると、死神を独り占めにした吉本に嫉妬した。そして、別室に案内された吉本と死神の勝負の時間が始まった――



「さてと、で? 何で勝負する?」


「そうですねぇ……何が良いでしょうか? トランプも飽きましたからねぇ」


「それならサイコロでどうだ?」


「良いですね。しかし、此処はあなたの息の掛かったカジノでしょう?」


「何だい、疑っているのか? イカサマなんてセコイ真似はしやしねぇよ」


「それならコレでどうですか?」


 死神は懐から黒い革の袋を取り出した――


「何だい、そりゃぁ?」


「そうですねぇ。どう説明したら良い物か……つまりコレは、この袋の中からサイコロの様な物取り出して勝負を決める物です」


「ほう。そりゃあ、面白ぇな」


「えぇ。イカサマのしようが無いゲームですから」


 サシの勝負は逃げ道無し。死神にジワジワと追い詰められても吉本は平常心を失わなかった。何故なら、密室で行われた勝負の行方がどうなろうと、結局、最後は死神の身包みを剥がして自分が勝つ手筈がついていたからだった――


「私が提案したゲームですからお先にどうぞ」


「先攻が有利って事だな。良いだろう」


「さぁ、どうぞ」


 吉本は革の袋に手を入れて、感触を確かめながら幾つか有る玉の様な物の中からひとつを選び取り出した――


「ん? 何だいこのボールは?」


「言霊ですよ」


「言霊?」


「そうです。あなたの魂が吐き出した言霊です」


「お前ぇ、何を言ってるんだ。こんな物で勝負が付くかよっ!」



 吉本が激怒して床に叩き付けると、ボールは粉々に砕けて封印していた言霊が再生された――



 ‶ なぁ、遅かれ早かれ人間、何時かは死ぬんだ。ただそれだけの事だ あばよっ! ″



「お、お前は、何者だっ!」


「私ですか? 私は冥府よりの使者。人は私の事を死神と呼ぶそうですがね」


「死神? ふざけた事を……」


「ふざけてなどいません」


「はっはっは。なら、その死神がこの俺をどうしようって言うんだい?」


「フッ。どうしましょうかねぇ……」


 死神は冷酷な眼差しで吉本を舐め回す様に見ていた――


「お前ぇ、誰に雇われたんだ?」


「雇われてなどいませんよ。私は死神だと申し上げましたよ」


「とぼけるな。まぁ、誰の仕業か大方見当は付くがな。どうだい、取引をしようじゃねぇか? お前の望むだけの待遇を用意してやる」


「待遇とは?」


「金なら欲しいだけやる。欲しい物は何でも手に入れられる。どうだ?」


「フッフ。お断り致します。現在の私の待遇は地上に於いて『殺しのライセンス』を持つ唯一神ですから」


「そうかい。お前ぇの様な度胸の良い奴は殺すには惜しい。もっぺん考え直して見ちゃあどうだい?」


「考え直す事など、何もありませんねぇ」


「これだけ言ってやってんのになぁ……おいっ! 殺しのライセンスなんてぇモンはなぁ、この俺だって持っているんだっ!」



 吉本は既にテーブルの下の緊急ボタンを押していて、外には拳銃を持った男達が待ち構えていた。そして、ドアのロックの解除を合図に雪崩れ込むと、死神に向けて一斉に発砲した――



‶ ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ズダァ――――ンッ! ″



 カジノに銃声が響き渡ると、客達は悲鳴を上げて出口に向かい、カジノはパニック状態になった――



「そ、そんな馬鹿な……」



 発砲した男達も放心状態になっていた。銃弾は死神の身体をすり抜けて、全て吉本に命中していた――



「ご苦労様。間もなく警察が来ます。どうぞ、そちらにお掛けになってお待ち下さい」



 死神は支配人と男達にそう言うと、天の国に報告をした――



天国主大神アメクニヌシノオオカミ様に御報告致します。死亡時刻、午後八時四十八分。吉本を連行します。死亡証明書の発行をお願い致します」



 一瞬の閃光の後、目の前のテーブルに矢文が刺さった。手に取って開くと、それは死亡証明書だった。死神が逮捕者の欄にサインをすると、吉本の亡骸から魂を抜き出した――



「吉本さん。冥府まで御同行を願います」



 死神は静かに吉本の首に縄を駆けて連行した。その一部始終を見ていた支配人も男達も怯えて震えていたが、テーブルの陰に誰か居る事に気が付いた――



「これはこれは。先程、隣りに居たお嬢様では有りませんか。大丈夫ですか? お怪我は有りませんか?」


「は、はい……」



 失禁して座り込む哀れな女の姿に死神はふと思い立ち、金庫を開けて大量の現金を取り出すと、用意されていた幾つかのトートバッグに振り分けた。そして、その中のひとつを女に渡した――



「今日の所はコレでご勘弁を。さぁ、警察が来る前に此処を出ましょう」





 死神は吉本の魂と、お嬢様をエスコートする様にカジノを出て行った――









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