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サシの勝負は逃げられません。

 死神はバカラをする事をディーラーに伝えると会釈をして席を立った。するとルーレットで勝ったチップをバニー・ガールがワゴンで運んで来た――


「吉本様、あの男です。此方へ来ますよ」


「鴨が葱背負って何とやらってか……クックック」


 支配人は死神の席を用意して案内をした――


「どうぞ、此方へ。ギャンブラーはやはりルーレットよりバカラです」


「いえ。バカラは初めてなので勝てる自信は有りません。ですが、せっかくルーレットで勝ったのですから、それを元手にバカラに興じるのも悪くないと思いましてねぇ……」


「そうですか。初めてですか……」


 支配人はニヤリと笑い、打ち消すように説明をした――


「それでは御説明させて頂きます、バカラは最もエキサイティングなギャンブルであり『金持ちが最後に辿り着く遊び』と言われています。『バカラ』というのはイタリア語で『ゼロ』を意味し、それが転じて『破産』の意味でも使われる言葉です。バカラは、その危険性を十分理解した上で遊ぶべきゲームです。ご理解頂けますね?」


「もちろん」


「結構です。お客様には運が付いていますよ。どうぞごゆっくり」


「ありがとう」


 ‶ place your bet ”


 ディラーの掛け声でゲームが始まると、死神はBANKERに賭けたりPLAYERに賭けたり、勝ったり負けたりしながら、のらりくらりとゲームを進めていた。そして、頃合いを見て勝負した――


「あんた、勝負度胸が良いねぇ……こりゃ面白ぇ」


 ビッグ・バカラに興じる客達は、死神がスクイーズを終えてカードを開き、ナチュラルで勝った事に喜んだ――



 ‶ おお――――――っ! ナチュラル8だっ! ″



 客たちの歓声とざわめきの中、ゲームは進行した。死神がその全てをTIEに掛けると、吉本はバンカーに最高額を賭け、周囲は水を打ったように静まり返り固唾を飲んで勝負の行方を見守っていた。そして、吉本がスクイーズをした――


「何っ……?! そんな馬鹿な……」


 吉本がスクイーズを終えてカードを開くと、堰を切ったような歓声が上がった――


「おおぉ――――――っ! 凄いぞっ! TIEだよっ!」


「勝ったっ! あなた、凄い強運の持ち主ね。この後、御一緒したいわ。うふふ」


「こんな大勝負をこの目で見たのは初めてだ、あんた、凄いよ」



 ‶ ザワザワザワ、ガヤガヤガヤ、ザワザワザワ、ガヤガヤガヤ ″



「さてと、私はコレで失礼しましょう。チップをお願いします」


 支配人は蒼褪めた顔で力無く答えた――


「コミッションは差し引いてありますが、高額ゆえ精算までお時間を頂戴します。今しばらく、彼方のバーでお掛けになってお待ち下さい」


 現金の用意に時間が掛かる事は分っていた。そして、案の定、吉本が声を掛けて来た――


「いやぁ、あんた強いねぇ。大したものだ。見ない顔だけど、この辺の人かい?」


「えぇ。直ぐ近くです」


「そうかい。もし、急ぎでなかったら……この俺と、もう一番どうだい?」


「えぇ。良いですとも。お誘いを断るのは縁起が悪いですからね」


「そう来なくっちゃ。ポーカーでもどうだい?」


「えぇ。良いですね。そうましょう」


 ふたりはテキサスホールデムでベットとレイズを繰り返しながらゲームを楽しんだが勝負は五分と五分、吉本は良いカモにするどころか、手を焼いていた――


「やっぱり、あんた強いねぇ。顔色ひとつ変えずハッタリを決める辺り……並の人間じゃねぇ」


「そんな事は有りませんよ。たまたま『運が付いた』だけです。ねぇ、支配人」


「は、はい」


 支配人の表情は緊張で強張っていた――


「どうしました? 支配人、顔色が良くありませんね」


「いえ、そんな……」


「顔色と云えば、吉本さん。あなたは何時も顔色が良いですね」


 楽しそうにゲームを眺める客達とは対照的に支配人と吉本の緊張は頂点に達した――


「あんた、どうして俺の名前を知っているんだい」


「どうしてとは?」


「とぼけるな」


 支配人は入り口のロックと拳銃の準備を合図した――


「おやおや。吉本さん、私とバス・ツアーで一緒になったのを覚えていませんか?」


「バス・ツアーだと? 確かに去年の四月にバス・ツアーに参加をしたが、あのツアーにあんたも居たのか?」


「えぇ。まぁ無理も有りません、吉本さんは随分お飲みになっていましたから、他の乗客の事など覚えていませんよねぇ」


「…………」


 吉本はあの日、身を隠すために愛車では無くあえてバス移動をしていた。死神が言う通り乗り込む前からかなり飲んでいたので、その事を知っている死神を本当に乗り合わせていた乗客だと信じた――


「そうかい。だが、どうして俺の事を覚えているんだい?」


「いやぁ。他の乗客も皆、心配していたのですよ。車窓から見える素晴らしい景色も見ないでお酒を飲んで寝ては勿体無いとね」


「はっはっは、勿体無いか。恥ずかしい所を見られちまったな」


そして、緊張が解けると支配人が死神の耳元で囁いた――


「お客様。此処で実名で話すのはマナー違反です。お控え下さい」


「おっと。これは私とした事が失礼をしました。紳士にあるまじき振る舞いでしたね。どうかお許し下さい」


 吉本は意に介さなかった。偽名を使うのが定石であり、本名などと言っても誰も信じないからだった。すると死神は支配人と吉本に提案をした――


「お詫びと云っては何ですが、どうでしょうサシで勝負をして今夜はお開きにしませんか?」


「ほほう。良いだろう」



 支配人はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、別室の準備を指示した――








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