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青春の光と闇。

 分厚い絨毯を踏む感触と、蝶ネクタイの案内係が高揚感を煽った――


「いらっしゃいませ」


「予約したピースケです。人数が六名に変更になったのですが?」


「有難う御座います。今直ぐ席を確認して参ります」


「おい、ピースケ。随分、高そうなお店じゃないか?」


「大丈夫ですよ、お金は有りますから。この日のために働いているんですから妥協は出来ません」


 程なくして案内係が戻って来た――


「席の御用意が出来ましたので御案内致します」



 ピースケが予約したのは神戸牛の鉄板焼きのお店だった。案内されてカウンター席に着くと、鉄板の向こう側に大東京の夜景が広がっていた。ミホは思わず大きな声を上げた――



「うわぁっ! ユカちん見て、見て。凄い……綺麗だよっ!」


「ミホ、大きな声出さないで。恥ずかしいでしょ、すみません……」


「ユカさん、謝る事は有りませんよ。僕だって、そう思いますし感情を出す方が人として自然だと思いませんか? ねぇ、ミホさん」


「うん。エヘヘ」 


 ユカとミホには、未成年で童貞のピースケが少し頼もしく見えた。鉄板の前にシェフが現れて挨拶をすると、見事な手捌きで、次々と料理を提供した。日頃、ろくな物を口にしていないミホは、その雰囲気に酔いしれ舌鼓を打った――


「うーん、美味しい。ユカちん、こんな美味しい物、初めて食べたよ……」


 ミホには眼下の大東京の夜景が夢と希望の数だけ輝いている様に見えた。だが、ユカの眼には女が流した涙の数だけ輝いている様に物悲しく映っていた――




 丁度、真人間達が食事を済ませてレイト・ショーを観ている頃、もう一人の男が新宿に居た――


 ‶ コンッ、コンッ! ″


「ん?」 


 ‶ コンッ、コンッ! ″


「合言葉を言わねぇ……怪しいな」


 中の男はドアまで近付くと、同業者による荒らしと警察の手入れを恐れて、小さな覗き窓を開けて来客を確認した。すると、同業者でもなければ警察官でもない見慣れぬ男が立っていた――


「誰だ?」


「今晩は」


「此処は会員制だ。サッサと失せな」


「此方で遊ばせて貰えると聞いて来たのですが?」


「何かの間違いだ。消えろ」


「そうですか。困りましたねぇ、道を間違えたのか、建物を間違えたのか。それなら交番に行って聞いて来ましょう」


「おい待て。交番だと? 一体、お前は何処に行きたかったんだ?」


「フッ。とぼけなくても良いですよ。私の目的は闇カジノ。此処ですよ」


「何っ? お前、一体何者だ」


「御心配無く、私は紳士です。遊ばせて貰えればそれだけで良いのです」


「ふざけた事を……」


 中の男は咄嗟に腰の拳銃を抜くと、安全装置を解除した。そして、再び覗き窓から外を見ると男の姿は無かった――


「消えやがった……」


 確認の為、ドアを開けようとノブに手を掛けようとした瞬間、外の男はすぅーっとドアを通り抜けて、背後に回っていた――


「ひいっ! どうやって中に……」


「吉本に会いに来た。分かるな」


「吉本なんて知らねぇよ……」


「本当ですか?」


「足が付かねぇ様に匿名で合言葉だけなんだ……嘘じゃねぇ」


 男は、怯える男のその手から拳銃を取り上げると、代わりに帯封の付いた札束を無造作に渡した――


「これは……」


「ほんの謝礼です。受け取って頂けますね?」


「あぅっ……」


「私は紳士だと言いましたよ。手荒な真似も騒ぎも起こしたりはしません。さぁ、黙って案内しなさい」


 そう言うと、取り上げた拳銃の安全装置を掛けてグリップを男に向けて手渡した――


「分かりました……此方へどうぞ」



 その闇カジノは、ごくありふれたビルの地下に有った。一階正面のテナントにはガラスにフィルムが貼って有り、中を窺い知る事は出来なかった。脇の通路を進むと突き当りに小さな覗き窓の付いたドアが有り、そこで合言葉を言って受付を済ませた者だけが中に入れるシステムだった。中は一応、会員制のラウンジになっていたが、男の案内で階段を降りて左手に進んだ先に鋼鉄製のブルーグレーの扉が有り『ボイラー室』のプレートと立ち入り禁止の張り紙がしてあった――



「さぁ、此方です。どうぞごゆっくり……」



 ‶ ザワザワザワ、ガヤガヤガヤ、ザワザワザワ、ガヤガヤガヤ ″


 受付の男が扉を開けると、そこは正しく別天地だった。深紅の絨毯にウォールナットやチークをふんだんに使用したインテリア、クリスタルの大きなシャンデリアが輝き、脇には英国製アンティークのバーが有った。そして、ゆっくりとした足取りでカジノの支配人が出て来た――




「いらっしゃいませ」


「今晩は。盛況ですね」


「有難う御座います。お陰様で沢山のお客様から支持されております。ところで……お客様。此方は初めてですね?」


「はい」


「ドリンクは何になさいますか?」


「そうですね、ギムレットを」


「畏まりました。お遊びの方は如何なさいますか? ルーレット、もしくはバカラ?」


「そうですね。最初はルーレットにしましょう」


「畏まりました。それでは御案内します」



 席に着くと男はルーレットの出目を自在にコントロールした。怪しまれない様に勝ったり負けたりしながら周囲の様子を窺っていたが、吉本の判明が付かなかった為、大勝ちして来客の注目を集める事にした――



「あなた、凄いわ。ストレート・アップに全額掛けて勝つなんて……勇気が有るのね」


「短時間で全額を掛けるなんて、大した度胸だ」


「夢の三千万越えっ! ロマンが有るなぁ」


「必勝法で勝ちに行くのも良いが、やはり、ギャンブルはスリルを味わうものかもしれんなぁ……」


「いいえ。皆さん、私のは只のビギーナーズ・ラックです。こんなに勝ったのは生まれて初めてですから。あっはっは」


 

 澱んでいたカジノの空気は一変し、歓喜と賞賛で沸き返った。すると、支配人に動きが有り、バカラに興じる男の背中越しに話し掛けているのが見えた。男の血の通わない冷たい瞳がキラッと光った――


「吉本様、御報告致します。見慣れない男がルーレットで大勝ちしましたよ」


「そうかい。そいつは良いカモになりそうだなぁ。フッフッフ」



 男は微笑して呟いた――


「フッフッフ。どうやら、ビンゴの様ですね……」


 冥府よりの使者、死神は吉本を特定すると次のゲームにバカラを選んだ――






お読み頂き有難う御座います。


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