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あっシのカレーと自転車。

 七海の住むアパートに着くと「今、開けるから」と言って鍵を出してドアを開けた。そして「帰らないでよっ! 上がっていきなよ」と言ってめぐみの腕を掴んで中に引き入れた――


「七海、お客さんかい? 七海のお友達?」


 誰も居ないと思っていたのに、奥の方から声がして驚いた。それは七海の母だった――


「いらっしゃい、お出迎えもせずごめんなさい、散らかっているけど、ゆっくりしていってね……」


 すると、怪我をしている七海に気が付いた――


「七海! どうしたの! 怪我をしているじゃないの! 大丈夫?」


「ちょっと転んだだけだよ、大丈夫! めぐみ姉ちゃんが、おんぶしてここまで連れて来てくれたんだよっ」


「ねぇ、本当に、病院に行かなくても大丈夫なの?」


「大丈夫だよぉ! こんなの平気、平気! お姉ちゃん早く入んなよっ!」


 めぐみは言われるがままに部屋に入った――


「お邪魔します。初めまして、鯉乃めぐみと申します」


 挨拶をした時に、七海の母親の異変に気が付いた――


「めぐみさん、娘がお世話になり、ありがとうございました。今、お茶でも入れますから、どうぞお座り下さい」


 そう言ってベッドから起き上がり、台所でお茶を淹れようとした――


「あの、七海ちゃんのお母さん、何処か具合でも悪いのでしたら、その……通りすがりの者ですから、私はこれで……あはは」


「あっシが淹れっから大丈夫だよっ! 母ちゃんは横になっててっ! お姉ちゃんは座ってっ!」


 めぐみは心の中で呟いた――


「何の(えにし)か分からないけど、人助けをしたのに何だか気まずい雰囲気だよ、早く家に帰りたいよぉ……トホホ」


「めぐみさん、母の由紀恵と申します。この娘は父親も無く、私が身体が弱いものだから、ひとりで何でもやろうとして心配なの、だからめぐみさん、もし……嫌で無かったら七海の友達になってあげて欲しいの」


「あっシとめぐみ姉ちゃんはもうマブダチだよ! ねっ!」


「あぁ、はい、まぁ……そんな感じですっ!」


 七海は大喜びになった――


「じゃあ、夕飯も食べて行きなよ、ねっ! 今、スーパーに行って買って来っから!」


 そう言って七海は部屋を飛び出した――


 めぐみは心の中で呟いた――


「足を挫いて、おんぶして来たのは何だったのよっ!」


 残されためぐみは更に気まずい雰囲気に「何の罰ゲームだろう……」と思った――


「めぐみさんがお友達なら安心だわ。学校に行っていないから、一緒に遊んでくれる子が居ないの。あの娘は淋しいのよ。最近、不良っぽい子と付き合う様になって、言葉遣いもあんな風になって……心配だったの」

 

 めぐみも心配になっていた――


「あの、立ち入った事をお聞きしますけど、お父さんは、どうしていないのですか?」


「あの娘が六年生の時に、病気で亡くなったのです……主人は一等航海士でね、それで七海と名付けたの。一年の内、三ヶ月位しか家にいないから、あの娘を溺愛していたのだけれど……」

 

「辛いことを思い出させてしまって、申し訳ありません……」


 そして、反省をして心の中で呟いた――


「墓穴を掘った……聞かなければ良かったよぉー、ふぅ」


 更に、更に気まずくなって「どよん」とした――


 そこに七海が買い物から帰って来た――


「ただいま! 直ぐ作っから、待っててねっ!」


 めぐみは「お弁当か総菜を買って来るのだろう」と思っていたが、材料を買って、作る気満々の七海に驚いた――

 

 米を研いで浸水している間に、玉ねぎを刻んで火にかけると、ニンジン、ジャガイモを刻んで準備して、飴色になった玉ねぎを一旦、フライパンから取り出して油を引いてスパイスを炒め出した。


 めぐみはそのスパイスの香りに夢心地になった――


「はぁ―っ、良い香り! お腹が空いたよ、早くーまだぁ? 餓死寸前っ!」


 七海は生き生きとしていた――


「無理言わないでよぉっ! めぐみ姉ちゃん、食いしん坊だなぁ、もうチョッとで出来っから、待っててちょ!」


 暫くすると、食卓にはカレーライスが並んだ。その他にトッピング用のスライスしたゆで卵とチーズ、福神漬けと刻んだラッキョウに玉ねぎのアチャールが用意された――

 

 めぐみは感嘆した。

「七海ちゃん、やるなぁ……どこで覚えたの、こんなに!」


 七海は誇らしげに言った。

「お父ちゃんに習ったんだよ! 良いから、食べて食べて!」


 みんな揃って「いただきま―す」と言って食べ始めた――


 めぐみは「良き! 良き! 口福! ん旨い!」を連発した。「女三人寄れば姦しい」と言うが、食事が終わる頃には、すっかり仲良くなり家族の一員になっていた――


「遅くまですみませんでした。七海ちゃん、ごちそうさま! またね!」


 去り際に神社の巫女である事を伝えると、別れを告げてアパートを後にした――


 めぐみは置き去りにした自転車に「お待たせ」と言って帰路に就いた――





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