W・S・U・Sにお礼参り。
真人間達はピースケに呼び出されて、多摩川の河川敷に集まった――
「ピースケの奴、こんな所に呼び出して、一体、何の話だろう?」
「きっと、皆でスポーツでもしようって事だろ?」
「此処なら、野球もサッカーも、どちらも出来るしなぁ。でも、それなら人数が足りないな……」
‶ おぉ――――――いっ! 皆、待たせてゴメ――――ンっ! ″
真人間達は遠くから聞こえて来たピースケの声に振り返った。そして、ピースケに連れられて一緒に歩いて来た、めぐみに目を見張った――
「おうっ! あれは、めぐみさんじゃねぇか?」
「あぁ、間違いないっ! 神様は見ているって云うからな。きっと、俺達の善行を褒め称えてくれるに違いないっ!」
「嬉しいなぁ。神様から、何か、ご褒美がもらえるのかな?」
ピースケは神職の格好をしているし、めぐみも巫女の姿なので、真人間達の期待は高まっていた――
「やぁ。お待たせしました。めぐみさんから、皆に話が有るんだ。確り聞いてね」
「皆の者、そこへ座りななさい」
めぐみは天国主大神の口調を真似て言った――
「あぁっ! 違うよ皆。正座して」
「正座‥‥‥?」
ピースケは何時もと違う表情で言った――
「神前であるぞっ!」
「そうか、神前の儀式だから……」
「きちっとしねえとな……」
「おうっ!」
真人間達は正座をすると、キラキラした瞳でめぐみを見つめた――
「皆の者、褒美を取らすぞ」
「ははぁ―――――っ、有難き幸せ」
‶ パァ――――――ァン、ドスッ。バキッ! ビシッ、パァ――――――ァンッ、ボクッ! ″
「ぎゃあっ! 何をするんですかっ!」
「俺達は、褒美を貰えるはずでは有りませんか?」
「こんな仕打ち、酷過ぎるっ!」
「え――いっ、黙れ黙れっ! 神前であるそっ!」
「あっ、ピースケちゃん、良いから良いから。お前達の善行は確かに認める、だが、人を裁いてはダメ、ゼッタイ!」
「はぁ? お言葉ですが、人間の皮を被った獣が人間を苦しめているんですよ?」
「そうだよっ! 人間を家畜化している奴等がのさばっているなんて、間違っているっ!」
「他人を自殺に追い込むような奴等が、のうのうと生きているなんて、絶対に許せませんねっ!」
「そうね。つまり、あなた達には人を許す心の広さ、寛容さが足りないの」
三人はユニゾンで反応した――
‶ 人を許す心の広さ、寛容さだぁ? ″
「神様だと思って聞いてりゃぁ、良い気になりやがって、冗談じゃない」
「神様が怠慢だから悪党がのさばるんだっ!」
「そうだそうだっ! 結局、そのツケを俺達が払っているんだっ!」
‶ パァ――――――ァン、ドスッ。バキッ! ビシッ、パァ――――――ァンッ、ボクッ! ″
「こう見えて、あたしゃ神様だよ? あんだぁ、その態度は? おぉ? テメェら、誰のお陰で人間やってられんだぁっ! おうっ! ふざけた口聞いてんじゃねぇぞっ!」
めぐみの態度の豹変と、血走った鋭い眼光に真人間達は震え上がった――
「地上で人間をやっている以上、人が人を裁いてはいけない事くらい、覚えておきなさい」
「でも……」
「まぁ、気持ちは分かるよ。でも、善行も悪行も表裏一体。苛烈な競争社会の中で切磋琢磨しながら強い遺伝子が残って行くの」
「こんな残酷な、弱肉強食が……良い訳ないですよ……」
「人間は皆、与えらた役割が有るの。あなた達が新宿で大暴れしたのも必然かもしれないけど、おばあさんの重い荷物を持ってあげようとして、ひったくりと間違えられたでしょう?」
「あっ、はい……」
「もっと、人間を信用しなさい。人を苦しめる人間が居る一方で、自らを省みず助ける者が居る。それが地上の人間という物なの」
「…………」
「シンジナサ――イ、アイシナサ――イ。シンジテモ、シンジナクテモ、スクワレルモノハ、スクワレマス」
「信じても、救われない者は、どーなるんですかっ!」
「アンシンシナサイ。ホボホボ、ダイタイ、モレナク、スクワレルノデス」
「本当ですかぁ???」
「コノヨニ、ムダナド、アリマセン。スベテガ、ヒツゼン、ナノデ――ス」
「…………」
「あんた達、悪と決め付け断罪し、善人だけの世界を作ろうとするのは間違いなの。かつての南方武みたいになっちゃうよ?」
「あぁ、そうか。所長はAIロボットが管理する社会を目指していたっけ……」
「人間が人間を支配しようとすると戦争になり、コンピューターの裏に人間が居ても同じであると……神がコンピューターの裏側に居て人間を管理するのが正解だと、何時も言っていたっけなぁ……」
「所長にも悪い事したなぁ……俺達」
「あぁ、感謝の気持ちをすっかり忘れていたな……真人間になって、良い気になっていたのは俺達だったんだ」
「うん。分かれば良いの。世直しなんかしても、結局、闘争の日々になるだけなのよ。それは命を縮める行為よ。命を粗末にしてはダメ。限りある命なんだから、人生を謳歌しなさい」
‶ ははぁ――――――――あ ″
「めぐみ様っ! 南方所長の所へに連れて行ってもらえませんか?」
「これまでの非礼を詫びたいんです」
「もう一度、やり直したいんですっ!」
真人間達に懇願され、W・S・U・Sに連れて行く事になった――
―― W・S・U・S本部
「南方所長、お久しぶりです」
「俺達は心を入れ直しました」
「これまでの非礼の数々、どうか、お許し下さい」
南方はすっかり丸くなり柔和な笑顔を向けていた――
「あぁ、もう済んだ事だ。通り過ぎた過去の事は水に流し、お互いに綺麗サッパリ、忘れようじゃないか。あっはっは」
「所長、有難う御座いますっ!」
和解して全てが丸く収まり、めぐみもピースケもホッとしていた。そこへ、マックスが帰って来た――
「ただいま。お父さん、今帰りました。お客様ですか?」
「おぉ、マックス。お帰り。めぐみさんと懐かしい友が来たんだよ」
「こんばんは。皆さん、ごゆっくりどうぞ。失礼します」
「まぁ、マックスちゃん可愛くなったわね」
「あぁ、塾へ通わせているんだが、あまりに頭が良いものだから、カリスマ塾講師に教えに行っているんだよ。あっはっは」
大きな声で、よく笑う南方武。W・S・U・Sは生まれ変わり、平和な時間が流れていた。めぐみは真人間達と共に別れの挨拶をして帰宅した――
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