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真人間は魔人間。

 良仁は芝居のセリフを借りて語り始めた――


「七海ちゃんにゃぁ、お父さんがあるらしいが、ひと目逢いてぇ、それも、愚痴かぁ……自分ばかりが勝手次第に、ああかこうかと夢を書いてぇ、妻や娘を恋しがっても、そっちと、こっちは、立つ瀬が別っ個。考えてみりゃぁ、俺も馬鹿よぅ。幼い時に別れた愛娘は、こう瞼の上下ぴったり合せて思い出しゃぁ……絵で描かく様に、見えてた物をぉ、わざわざ、骨を折って消しちまったぁ。七海ちゃん、ご免なさんせ」


「父ちゃん? 父ちゃんだぁっ!」


「おうともよっ! 七海っ!」


 七海と良仁は、ひしと抱き合い、再会の喜びを全身で感じていた。そして、由紀恵の目には涙が光っていた――


「あららぁ……とんだ小芝居ねぇ」


「めぐみちゃん、親子水入らず。これ以上は野暮と云う物。さぁ、帰ろう」


「そうね……」



 めぐみと駿は、仲睦まじい家族の光景を見てひと安心すると、開け放たれていたドアをそっと閉じた――



「しっかし、七海ちゃんたら、お母さんに嫉妬かよっ!」


「めぐみちゃん。七海ちゃんは寂しかった分、愛情を独り占めにしたかったんだよ。無理も無いさ」


「そっか。何だかんだ言っても、まだ子供なのねぇ」


「空白の子供の頃を、取り戻したいのさ……」


「まぁ、これで七海ちゃんの人生が好転してくれれば、それで良いんだけど……どうなる事やら」


「そうだね。でも、きっと今より良くなると思うよ」




―― 一月二十三日 友引 丙子



 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――



「おざっす!」


「めぐみさん、お早う御座います」


「めぐみさん、お早う御座いまぁす」


「めぐみ姐さん、お早う御座いますっ!」


「あら? ピースケちゃん、やる気満々ねぇ?」


「めぐみ姐さん、分かります? 僕、昨日の晩、青春を謳歌して来たんですよっ!」


「あぁ、真人間達とボーリングにカラオケかぁ……良かったね」


「いやっ、まぁ、良い事だけでも無かったんですが……結果オーライですかね。そこでちょっと、相談が有りまして……」


「ダメよっ! お金でしょう? カラオケでは物足りないからキャバに風俗。男ってのは本当にしょうがないわねぇっ!」


「違いますよぉ、そんなんじゃ有りませんよぉ……兎に角、お昼休みにでも、話を聞いて下さいよ」


「ん? 違うんなら……まぁ、良いか。分かったよ」



 ―― お昼休み


「えぇっ! 真人間が真人間過ぎて魔人間って、どー云う事?」


「もうね、『正しい行いの押し売り』が凄かったんですよぉ……」


「はぁ?」


「電車に乗れば優先席に座る若者に喧嘩腰。街を歩けばタバコのポイ捨てに激怒して。なんかぁ、余裕が無いって云うか‥‥‥」


「まぁ、良いことしてるんだからさぁ、良いんじゃね?」


「いやぁ、一触即発。ちょと、ヤバい感じでしたよ『清く正しく美しくない人間には容赦しねぇかんなっ!』って感じで……」


「過ぎたるは及ばざるが如し‥‥‥どーして、こうも極端なんだろうねぇ」


「面倒な事にならなければ良いんですけどねぇ……」


「そうね。ピースケちゃん、心配なんだ?」


「はい。人間社会の闇に目を瞑れない、看過出来ないって、実力行使に出るものですからねぇ……僕にしてみれば、地上で唯一の友達なんですから」


「あ。感じ悪っ!」


「いやっ、めぐみ姐さんも駿先輩も和樹兄貴も神様ですから、気安く友達とは言えないですよ」


「ふーん。で? どうしろって言うの」


「何て云うか……めぐみ姐さんに、彼らの教育係になって貰えないかと……」


「はぁ? 無理無理無理無理っ! 余計な仕事を増やさないでよぉ」



 ピースケはがっくりと肩を落とした。そして、顔をクシャクシャにして、今にも泣き出しそうになった――



「……もう、分かったわよっ!」


 ピースケはキラキラした瞳で嬉しそうにめぐみを見返した――


「で? 私は何をすれば良いの」


「あのですね、今度、皆と合う時に地上での生活態度について、是非、薫陶をお願いしますっ!」


「ほえぇ……気が重い仕事ねぇ。分かった。だけど、責任は持たないからね。どーなっても知らないからね」


「めぐみ姐さんっ! 有難う御座いまぁ――すっ!」



 日も傾き、冷たい北風が参道を吹き抜けると、めぐみは一日の仕事を終えて帰路に就いた――


「到着っ! ん? 電気点いて無いよ……あっ、七海ちゃんはもう、来ないのかぁ……」


 めぐみは灯りの消えた暗い部屋に入ると、その冷たさに寂しさを感じた。そして、地上に来た日の事を思い返していた――



「そうね。こんな感じ……」


 灯りを点けて暖房のスイッチを押すと、寒々しい部屋に温もりが蘇った。暫くすると、窓を開けて外の通りを行き交う人々を眺めた――


「天の国に早く帰ろうと、一生懸命、エラー・コードを探していたっけ……」


 温まり始めた部屋に、外の冷たい風がどうっと入って来た――


「へ――っくしょんっ! うーっ、寒っ! 何だか嫌な悪寒がするわ……」



 めぐみの嫌な悪寒は当たらずとも、遠からずだった――




 ‶ 俺達ぁ、真人間。真面目な真人間っ、俺達が怒れば、嵐を呼ぶぜっ! ″


「おーしっ、今日も元気いっぱい、真人間をやるぞっと!」


「あぁ。何と言っても、俺達は真人間だからよぉ、ビシッとな」


「うむ。近頃の人間共は、人間の地位に甘えてんな」


「お前らもそう思うだろ? 調子こいてんじゃねぇっつーのっ!」


「だな。大体、一番重労働で大変な仕事をやっている者が薄給で、チョロい仕事で人を利用して搾取して居る連中が豪遊って、おかしくね?」


「だよなぁ。龍馬坂本が『日本を今一度洗濯いたし申候』なんて気取った事、言ってやがったけどよぉ、洗濯なんて甘っちょろいんだよっ! しつこい汚れは落ち切んねぇよっ!」


「そうともよっ! 良いか、俺達はなぁ、俺達は、日本を漂白すっからなっ!」


「おうっ! 真っ白に、純白になっ!」


「そうだよなぁ。真っ白に出来なかった龍馬坂本なんて、所詮ヘタレよな」




 真人間達は、意図せず、真っ白に漂白した日本に、真っ赤な血で日の丸を描く事を、めぐみは知る由も無かった――









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