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ファースト・キッスは秘密なの。

 そして、放り出された良仁と由紀恵の肉体に魂が入った――


「由紀恵っ!」


「あなたっ!」


「俺達は……生き返ったのか?」


「そう、みたいよ……」


「おふたりとも、お帰りなさい。これからは七海ちゃんと、家族三人で仲良く暮らして下さいね」


「神様、仏様、めぐみ様っ! めぐみさん、本当に有難う……この御恩は生涯、いやっ! 死んでも忘れませんっ!」


「あぁ、生きている間だけで結構です……あはは」


「めぐみさんが、本当に神様だったなんて驚きだわ。七海も、この事を知れば、きっと大喜びだと思います……」


「由紀恵。この事は七海には内緒の方が良いだろ? ねぇ、めぐみさん」


「えっ? 内緒……内緒ってのも無理が有りませんか?」


「いやいやいやいや、大丈夫。由紀恵が三途の川を渡る時に、オレの手を取って戻って来たと云えば良いんですよぉ。七海はまだ子供だから。分かりゃしませんって」


「いやいやいやいや、いやっ。七海ちゃんはもう大人ですし、そこまで、お馬鹿さんじゃないんで……」


「良いから良いから。めぐみさんは気にしなくて良いんですよぉ。後はこっちでやりますから。ねっ!」


「あっ、はい。でも……」


 めぐみは、死者の時は情けなくメソメソしていた良仁が、生き返るとケロッとしていて、かなり押しの強い男だと悟った――


「じゃぁ、めぐみさん。七海の事が心配だから、ほらっ、早く帰ってやんないといけないからさぁ。これで失礼するよっ!」


「めぐみさん。このお礼は、日を改めて伺いますので……今日はこれで失礼します」


「あぁ、はい。お気を付けて……七海ちゃんに、よろしくお伝え下さい……」


 

 良仁と由紀恵は鳥居をくぐると振り返って一礼し、その後、先程までの神妙な面持ちとは打って変わって、満面の笑みで手を繋ぎ、スキップを踏んで帰って行った――



「ふぅ。ひとまず、一件落着と云う事かぁ。まぁ、良しとしよう……」


「ちょっと、めぐみ姐さん、一体、何が有ったのですか?」


「あっ、ピースケちゃん。説明するのは面倒臭いから後にして。疲れちゃったぁ……」


「お疲れ様です。説明は後で結構ですけど、本堂に駿先輩が来ています。もう、待ちくたびれていますよ」


「駿さんが? 行き違いだったのかぁ……分かった、直ぐに行くよっ!」



 めぐみは拝殿に昇殿すると早足で本堂に向かった。中へ入ると素戔嗚尊スサノオノミコトが嬉しそうに出迎えた――


「お――ぉっ! めぐみちゃん良く来たのぅ。まあ、ゆるりとな」


「相変わらず暢気ね。ちなみに私が用が有るのは、駿さんですよぉ――だっ!」


「めぐみちゃん、お疲れ。冥府に行くなんて、驚いたよ」


「駿さんは、どうして此処に?」


「七海ちゃんから連絡が有ったんだよ。泣きじゃくって、声にもならない、悲痛な感じで……慌てて七海ちゃんのアパートに行ったら、もう既に時空が歪んでいたって訳さ」


「あぁ、そうだったんだぁ。駿さんにも心配かけてしまって、御免なさい……」


「いやぁ。めぐみちゃんが謝る事ではないさ。それで、どうなったんだい?」



 めぐみは駿に此れ迄の経緯を話し、良仁が蘇った事を伝えた――



「何て事だっ! 死神が死者の名簿から名前を消すなんて、聞いた事が無い……それならもう、僕達が出生の時点に戻って良仁さんの病理を取り除く必要も無いって事だね」


「そうなの。死神さんの粋な計らいで、私も駿さんも御役御免なの。だから、安心して」


「いいや、めぐみちゃん。まだ、安心は出来無いな……」


「どうして? もう、何もする事は無いよ? 何もしなくて良いのよ?」


「何か裏が有る様な……いくら縁結びの神と言っても、死神とのえにし……只事では無いと思うのだけれど……もっと、他に何か有ったのでは? ん? めぐみちゃん。どうして目を反らすの? めぐみちゃん。何が有ったのか教えて?」


 めぐみは知らぬ顔の半兵衛を決め込んで、口笛を吹いてみた――



 ‶ ヒュッツ、ヒュ――――ッ、ヒュッヒュッヒュ―――――ッ ″



 駿はめぐみの様子がおかしいと感じて、より一層追及した。だが、めぐみは口を割らなかった。死神と『契り』を結んだ事、ファーストキスをした事は駿には絶対に、絶対に、秘密にしておこうと思っていたからだ――


「おやおや……怪しいなぁ。めぐみちゃん、何か隠しているね?」


「隠してなんか、無いもーんっ!」


 不信感がMAXに達した駿はめぐみの表情と仕草をマジマジと見ながら、遂に動かぬ証拠を発見し、落ち着いた低い声で優しく声を掛けた――


「めぐみちゃん」


「はい。何でしょうか?」


「その左手の指輪は何だい?」



 めぐみは左手の薬指にエンゲージリングをしていた事をすっかり忘れていた――



「ふはっあ―――――ぁ!」


「フッ。隠しても無駄だよ。それ、エンゲージリングって事だよね? どう云う事か正直に話して」



 めぐみは、とうとう観念して死神と形だけの『契り』を結んだ事を話した――



「『契り』を結んだ? それなのに、何故此処に?」


「それは、そのぉ……つまり、何て言うのかなぁ……形だけだし、シャレだし」


 暫し沈黙をしていた素戔嗚尊スサノオノミコトが、ふたりの間に割って入ると、丁寧に淹れたお茶を差し出して、語り始めた――


「まぁまぁ、ふたりとも落ち着くが良いぞ。この件はつまり……去年の四月にめぐみちゃんが地上勤務になったのが、事の始まりじゃ」


「つまり、めぐみちゃんの事を冥府の住人達は知っていたって事ですか?」


「左様。まぁ、結果として、あの日以来、めぐみちゃんは冥府で大人気となり、ファン・サイトやコミュニティまで出来ておるのじゃ」


「はぁあっ!? そんなん聞いた事無いよっ! どうして私の事を知っているのよっ!」


「忘れもしない。あの、運命の日の事じゃ……」



 ‶ 午前八時五〇分頃、大型トラックの運転手が居眠り運転をして中央分離帯に接触し急ハンドルを切り、路側帯へ前輪が差し掛かった所で横転して進路を塞いだ。そこへ、観光バスと後続車が追突して死傷者三十七名の大事故が起きる予定だった ″



 めぐみは忙しい日常の中で忘れかけていた運命のあの日を、鮮やかに思い出していた――






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