冥府の二丁目十六番地にて。
その様子を見ていると、鬼とモンスターの取り合いになった挙句、八つ裂き状になり、モンスターにムシャムシャと食われると、口からプッと骨だけが吐き出された。そして、その骨の数たるや山の如しだった――
「おいおい。巫女twin’zにパスポートは要らないって言われたけど、無いと入れないじゃないの……どーすんの?」
「アンアン、大丈夫だアンっ!」
「ウンウン、僕達に付いて来るウンっ!」
アッチャンとウッチャンは恐ろしい鬼達を気にも留めず、公園でリードから解き放たれた子犬の様に、軽快に弾んだ足取りで、楽しそうに冥府の入り口に歩いて行った――
「あわわわ、そんな堂々と正面から行ったら、見つかっちゃうよっ! 食い殺されちゃうよぉ……」
案の定、アッチャンとウッチャンは直ぐに鬼達に発見されてしまった――
「おぉっ! 旨そうな犬が来たぞっ!」
「馬鹿野郎っ! 先に見つけたのは俺だからな。両方とも俺の物だっ! がっはっは」
「ふんっ! 馬鹿はお前らだっ! こんな物は早い者勝ちに決まっておるのだっ!」
めぐみはビビッて物陰から見守っていた――
「あぁ……あんなのに捕まったら、もう、お終いだよ……助けてあげたいけど、冥府の住人に武器は通用しないし、どうしよう……」
アッチャンとウッチャンは鬼達に囲まれ、万事休すとなった。しかし、アッチャンとウッチャンは余裕綽綽で愛くるしい笑顔を見せていた。そして、鬼の手がアッチャンの首に伸びた瞬間、アッチャンとウッチャンの眼がギラリっと光った――
「うわぁぁ―――――――っ! 焼けるぅ」
「これは、只の犬なんかじゃないっ!」
「ひいぃ――――ぃっ! こ、こ、こ、狛犬だぁ――――――あっ! 逃げろ――――――ぉっ!」
鬼達はアッチャンとウッチャンに睨まれると、一目散に逃げて行き、それを見た冥府の住人達も大慌てで逃げて行った――
「あら? アッチャンとウッチャンやるじゃないの……脱兎の如しとはこの事ね……」
「アンアン、安全は確保されたアンっ!」
「ウンウン、早く来るウンっ!」
「あぁっ、ゴメンね。慣れていないものだから、リアルお化け屋敷みたいでビビっちゃた。あはは……」
こうして、アッチャンとウッチャンに連れられて、めぐみは無事、冥府の一丁目一番地の中に入れた――
「何だか禍々しい世界だけどぉ……誰も居なくなったせいなのか、休園日の遊園地に居るみたいで、不気味な感じねぇ……」
「アンアン、ウッチャン、由紀恵さんを探してアンっ!」
「ウンウン、ちょっと待ってね。今、反応を見ているウンっ!」
「アッチャン。ウッチャンは由紀恵さんの反応が分かるの?」
「アンアン、ウッチャンの角が方角を捕らえるアンっ!」
「やるぅ! 頼りにしてるよんっ!」
「ウンウン、北北西に反応有りっ! あっちだウンっ!」
ウッチャンに案内されて北北西に進むと、見た事も無い美しい庭園が現れた――
「うわぁ。さっき迄の腐臭と藪が嘘みたいだわ。いい香り……綺麗なお花……こんな美しい植物達を見た事が無いよ……この世の物とは思えない程ねぇ」
「アンアン、確りして、この世じゃ無いアンっ!」
「ウンウン、香りで誘って毒で殺す。全部、人食い植物だウンっ!」
「えぇっ! マジでぇ? 怖っ! うっかり触る所だったよ……」
「ウンウン、先を急ぐウンっ!」
「あっ、はい。さーせん」
庭園を抜けて、なだらかな丘陵を暫く歩いて行くと、大きく立派な門が見えて来た。その門に連なる塀は地平線の彼方まで続いていて、終わりの無い無間地獄を現している様だった――
「随分、立派な門だこと……此処は一体……」
「アンアン、此処は狡賢い守銭奴達から巻き上げたお金で出来ているアンっ!」
「ウンウン、三丁目はもっと、もぉ――っと、凄いウンっ!」
「ほぇ、そうなんだ。三丁目? って事は此処は……」
「アンアン、二丁目アンっ!」
―― 冥府 二丁目 十六番地
大きな門を潜り、一歩中に足を踏み入れると、そこはまるで都の様に綺麗に整備された建物が並び、塵一つ落ちていないのが不気味だった――
「しっかし、冥府、金持ってんなぁ……天の国も敵わないよ。小江戸風と云うか、和モダンでシャレオツな感じね」
「アンアン、見栄っ張りな人間が直ぐに騙されるアンっ!」
「ウンウン、見た目に騙されてはいけないウンっ!」
「あっ、はい。反省しまぁ――す」
「アンアン、先を急ぐアンっ!」
暫く大通りを歩いて行くと、小径から人が溢れているのが見えた――
「あっ! アッチャン。あそこに人影が有るけど、大丈夫かしら?」
「アンアン、気にしないで大丈夫アンっ!」
「ウンウン、冥府の烙印を押された人間以外は見えないウンっ!」
「わぁ―お。私達は、透明人間になったみたいな感じね?」
小路に差し掛かると、溢れかえっている人混みが、まるでホログラムの様に反対側が透けて見えた。透明人間なのはむしろあちらの方で、実体が無かった――
「なーんだ。そう云う事か。つかの間のinvisibleね」
「アンアン、見せかけだけの世界アンっ!」
「ウンウン、強欲な人間の心の内を現しているウンっ!」
「ふーむ。虚構の主人公を夢見て……演じさせられているだけのピエロなのね‥‥‥」
めぐみがため息を漏らすと、ウッチャンが由紀恵を発見して、興奮してクルクルと回り出した――
「ウンウン、ウンウン、ウンウン、あの橋を渡った右手の建物の中に由紀恵さんと良仁さんが居るウンっ!」
「やったーっ! ウッチャンお手柄、アッチャン有難うっ!」
「アンアン、アンっ!」
「ウンウン、ウンっ!」
めぐみは怖いもの見たさに冥府までやって来たが、遂に由紀恵と良仁に再会出来ると思うと、心が弾んだ。実体のない人間達を足早にすり抜けて、大きな太鼓橋を渡り始めると、実体の有る人間が居る事に気が付いた――
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