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冥府の一丁目一番地にて。

 めぐみは不安を抱えたまま一日の仕事を終え、自転車に跨ると由紀恵の事が気になって胸がザワついた――


「何だか嫌な予感がする……由紀恵さんのアパートに寄ってから帰えろう」



 自転車のペダルには何時に無く力が入っていた。角を曲がり、由紀恵のアパートが見える所まで来た時に、救急車の赤色灯が目に飛び込んで来た――



「あのぉ、何か有ったんですか?」


「あぁ、そこのアパートの住人が救急車呼んだらしいよ。何でも帰宅した娘さんがお母さんが倒れているのを発見したらしいけどさ。確か、まだ40代位だろ、若いのにねぇ……人生なんて何処でどうなるか分かりゃしないよ、明日は我が身だ……」



 めぐみの予感は的中した。自転車を停めると、急いで由紀恵の元へ向かったが、救急隊員に止められた――


「立ち入り禁止です。身内の方ですか?」


「はい。身内みたいな……関係者ですっ!」



 七海がめぐみの声に気付いて、中に入る事が出来た――


「めぐみお姉ちゃん、母ちゃんが……かあちゃんがさぁ……うぐっ」


「七海ちゃん、気を確り持って、落ち着いて……」


 救急隊員は由紀恵の蘇生を試みたが、手遅れだった――


「午後十八時五分、御臨終です」


「うあぁぁぁ―――――――――あっ! 母ちゃ――――――ん、何でだよ……七海は、ひとりぼっちじゃんよぉ―――――――ぉっ! あんなに……あんなに、元気だったのに……何で……うあぁぁぁ―――――――――んっ、うあぁぁぁ―――――――――んっ、うあぁぁぁ―――――――――んっ、うあぁぁぁ―――――――――んっ!」


 めぐみは由紀恵の亡骸に縋り、泣きじゃくる七海の背中を擦る事しか出来なかった。あまりにも憔悴する七海を見て悲しみが怒りに変わるのに時間はさほど掛からなかった――


「あの男……やりやがったなっ!」


 めぐみがクロノ・ウォッチを使って時間を戻そうとすると、突然、ケータイのアプリが開いた――


「あら?」



 ‶ ピロリロロン ピンッ! 『巫女twin’z』でぇ―――――すっ! ″



「はい。さようなら――ぁ」


「待って下さいっ! 緊急連絡でぇ―――すっ!」


「緊急連絡? こっちも緊急なのっ! chatGPTなんかに用は無いのよっ!」


「めぐみ様、良く聞いて下さい。今、クロノ・ウォッチを使って時間を戻そうとしましたよね? それ、悪手です。ダメ、ゼッタイなんですよぉ」


「え? どうして……」


「午後十八時五分に、由紀恵様はぁ、冥府に連れ去られました。なのでぇ、今、止めると由紀恵様も良仁様も、本当に『帰らぬ人』になってしまいまぁ――す。ですからぁ、冥府で二人が再開するまではぁ、絶対に止めてはいけないんですぅ」


「ふたりが再開?」


「良仁様はぁ、冥府のパスポートを所持しているんですね。天の国の死者のゾーンに由紀恵様が居ない事でぇ、再び冥府に向かってしまったのですぅ」


「その、冥府へ入れるパスポートを私にも頂戴っ!」 


「えぇ!?」


「さぁ、早くっ! あの男っ、騙しやがって、只じゃおかないんだからっ!」


「あのぉ……めぐみ様はぁ、神様なのでぇ、パスポートは必要無いんですよぉ……御存知無いのですかぁ??」


「ほぇ? 御存知無いって、どう云う事? どーすりゃ良いの? おせーてっ!」


「あのですね。喜多美神社はぁ、二の鳥居が有りますよねぇ?」


「はぁ……」


「二の鳥居の真下に立って、拝殿を向いて手を合わせてぇ『冥府へ、いざ参らんっ!』と言って下さいね。それでOKですから」


「あら? ずいぶん簡単ねぇ……分かった。あんがと」



 救急車は死因の特定の為に由紀恵の亡骸と七海を乗せて病院へ向かった。そして、めぐみは救急車を見送ると、自転車に跨り喜多美神社に戻った――



「到着っ! お――しっ、行って来るぞっ!」


 めぐみは巫女twin’zに言われた通り、二の鳥居の真下に立って、拝殿を向いて手を合わせた――



「冥府へ、いざ参らんっ!」


 めぐみの声が参道に響くと、二頭の狛犬の目がキラリと光り、めぐみの足元まで駆けて来た――


「アン、アン、アン、アンっ!」


「ウン、ウン、ウン、ウンっ!」


「うわぁっ、なにこれ? マジで、超可愛いんですけどぉ」


 二頭の狛犬は尻尾をプルップルッと横に振ったかと思うと、扇風機の様にクルクル回して喜んだ――


「そっかぁ、阿吽だから、アンアン、ウンウンなんだね? じゃあ、アンちゃんとウンちゃんにしよっか……」


 二頭の狛犬は首を横にフルフルした――


「アンアン、兄ちゃんみたいで、嫌だぉ。アンっ!」


「ウンウン、運ちゃんみたいで可愛く無いぉ。ウンっ!」


「あぁ……じゃあ、アッチャンとウッチャンでどう?」


 二頭の狛犬は尻尾をクルクル回して喜んだ――


「ところで、冥府に行くにはどうすれば良いの?」


「アンアン、御案内します。アンっ!」


「ウンウン、付いて来て下さい。ウンっ!」



 ‶ アン、アン、ア――――――ンっ! ″


 ‶ ウン、ウン、ウ――――――ンっ! ″



 二頭の狛犬が見事にハモって吠えると、参道の敷石がバタバタと踊り出し、冥府への連絡通路の入り口が開いた。こうしてめぐみは、二頭の狛犬の案内で、冥府に辿り着いた――



 ―― 冥府 一丁目 一番地


「はぁ――い。パスポートを拝見しまぁす……はい、OKです。あ―ちょっと、そこのあなた。ダメダメ。あなたは極悪非道のクズだから、その先のロータリーからタクシーに乗って三丁目に直行して下さいね」


 遠くから周囲の様子を窺っていためぐみは驚いた――


「あれ? 冥府って……何だか、夢の国みたいな作りなんだけど……しかも、年パス持っている人限定みたいな……」


「アンアン、ネズミもアヒルも沢山いるアンっ!」


「ウンウン、だけど、見つかったら食われるウンっ!」


「怖っ! 油断大敵なのね……」



 冥府の入り口では、訳有ってパスポートを所持していない者が発見されると、門番がピィ――っと笛を吹き、鬼やモンスターやクリーチャーが出て来て捕獲され、頭から痛快、丸齧りにされていた――






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