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死神と真人間。

 めぐみは病院を出て表通りでタクシーを拾い、由紀恵をアパートへ連れて帰ると、カギを開けて中に入りベッドに寝かせた。そして、待たせておいたタクシーに乗り、再び病院に戻った――


「さぁてと、自転車に乗って帰るとするか……ふぅ」


 ふと気になって、駐輪場から建物を見上げると、夜の病院の窓に、あの男の影がゆっくりとゼンマイ仕掛けのオモチャの様に歩いているのが見えた――


「由紀恵さんを助けてくれて、ありがとう……」




 ―― 一月二十二日 先勝 乙亥



 疲れ切っているめぐみの隣で七海は悪夢に魘されていた――


「う――ん、うーん、うぅ…………うわぁっ、母ちゃんっ! あれ? あぁ……夢かぁ……」


 七海の声にめぐみは飛び起きた――


「七海ちゃんっ! どうかした? 大丈夫?」


「あ。起こしちゃった? ゴメン……すっげぇ、嫌な夢見たんよぉ。パン屋で仕事中に、黒い頭巾のマントを着た男が来て、あっシに電報を……『渡しましたよ』って言うとパッと居なくなったんよ。電報に『ハハ、キトク、スグ、カエレ』って書いて有ってさぁ、アパートに帰ったら……本当に母ちゃんが死んでいたんよ……怖かったぁ」


「えっ?!」


 めぐみは、もしや本当に「あの男が由紀恵を連れ去って行ってしまったら」と、不安になった。そして、落ち着いて七海に話した――



「それは怖いねぇ。ところで、七海ちゃん。お母さんの具合はどう?」


「おぁ? 母ちゃんなら、毎日、元気に働いているに決まっているじゃんよ――ぉ」


「はあぁ……良かったぁ。七海ちゃんの記憶が書き換わていているって事はぁ、セーフっ!」


「政府? 朝から政治の話とか興味ねぇ――しっ! ご飯ご飯」


「やったぁ――っ!」




 喜多見神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――



「おざっすっ!」


「めぐみさん、お早う」


「お早う御座いまぁす」


「めぐみ姐さん、お早う御座いますっ!」


「あら、ピースケちゃん。朝から張り切っているねぇ、今日も宜しくねっ!」


「はいっ!」



 節分祭を控え、典子と紗耶香は寡黙に働いていたが、ピースケは浮足立っていた――


「ピースケちゃん。元気とやる気が有るのは良いけれど、空回りしてね? 何か良い事でも有ったの?」


「えへっ! 分かります? いやぁ、W・S・U・S本部の闇バイト時代の友達が……」


「W・S・U・S本部の闇バイト時代の友達って、あのレプティリアン達の事?」


「めぐみ姐さん。皆、真人間になって、きちんと真面目に新しい人生を生きているんです」


「ほぉ。それで?」


「僕、遊びに誘われたんですよ。僕も地上に友達なんていなかったでしょう? だから、これからは皆でカラオケに行ったり、ボーリングに行ったり,居酒屋に飲みに行ったりして、青春を謳歌しようって事なんですよっ!」


「まぁ、安上がりな青春だ事」


「青春に値段は関係ありませんよ。プ・ラ・イ・ス・レ・ス、ですからっ!」


「かぁ――っ! 張りきってるぅ。若いって素晴らしい」


「そう云うめぐみ姐さんは、和樹兄貴とその後、どーなんですか?」


「その後も前も無いよ」


「相変わらずなんですかぁ……そりゃぁ、困りましたね」


「ん? 別に困りはしないけどさぁ……」


「あれ? めぐみ姐さん。何か、別のお困り事ですか?」



 めぐみはこの数日、頭を悩ませている七海の父、良仁の事と、昨日の出来事をピースケに話した――



「うえぇえぇ――――――いっ! め、め、め、『冥府よりの死者』と云う事は死神じゃないですかっ!」


「馬鹿ね、そんな大きな声を出さないでよ」


「あっ、すみません。でも、死神と対峙したと云う事は……これは大変な事になりますよ……」


「大変な事?」


「はい。めぐみ姐さんの『縁結びの力』が強大になっている証なんです。出生に関しては駿先輩。死に関しては……その男が、カギを握っている様な気がします。何か、大きな動きが有るかも知れませんよ……」


「……あっそ」


「あっそって……驚かないんですか?」


「別に驚かない。だって、それどころじゃないもん。良仁さんが次に狙うのは七海ちゃんかも知れないでしょう? 七海ちゃんの身に何か起きる前に良仁さんを捕まえないと……もう、気が気じゃないわよ」


「そうですね……良仁さんの居場所に心当たりは無いのですか?」


「有るわけ無いでしょう? 突然お風呂場に出て来るだけなんだから……」


「ふーむ。でも、不思議ですよね」


「何が?」


「その男ですよ。確かに、その男の言う様に表向きは天の国も冥府も、お互いの失態を公表する様な真似はしないでしょう。でも……」


「でも何よ?」


「冥府のデス・ノートに良仁さんが勝手に名前を書いたとしてもですよ? その男。つまり死神がそれを言わない限り、誰にも分かりはしないでしょう? ましてや、そっと内緒で由紀恵さんを助ける理由なんか無い。そんな道理は無いんですよ」


「うーむ。そう言われてみれば、あの男‥‥‥『冥府に侵入して、勝手に人の生死をコントロールした事は空前絶後の重大な事件なのです』と言っていたから、あの時は、鵜呑みにしたけど……あっ! それに、私の事を知っていたのも、何故なんだぜ??」


「めぐみ姐さんの事は分りませんけど、死者が生者を連れ去るなんて……断じて許される事では有りませんよ。良仁さんは由紀恵さんが天の国の死者のゾーンに来ない事に焦って、冥府まで探しに行くかもしれませんよ」


「そうね。通常通りなら、今頃、冥府から天の国の死者のゾーンに移送されている筈だからね……」


「もし、再び冥府に侵入して、捕まりでもしたら大事ですよ」


「どうしよう……困ったなぁ。良仁さんも本当に人騒がせならぬ、神騒がせだよねぇ」


「七海ちゃんの命を奪う事も……充分、考えられますからねぇ……」




 めぐみは自身の『縁結びの力』が強大になっている自覚が無く、むしろ死神まで引き寄せてしまった『縁結びの力』を完全に持て余していた。そして、七海の事が心配で落ち着きを失っていた――











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