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ひとりぼっちは寂しいよ。

 駿は七海とタンデムで煌めく夜の街を駆け抜けた――


‶ べべべべベェ――――――ンッ、ベベン、ベベン、ベベンッ。べべべべッ ”


「七海ちゃん、今夜は有難う。又、取材させてね」


「うん。駿ちゃんのためなら、どんな協力もするよ」


「頼もしいな。めぐみちゃんにもよろしく伝えておいてね。それじゃぁ。おやすみ」


「うん。おやすみなさい。気を付けて帰ってね」



‶ ベベン、ベベン、べべべべベェ――――――ンッ、べべべェ――――――ンッ、べべべェ――――――ンッ、 ”


 駿はブレーキランプを五回点滅させて去って行った。七海は階段をゆっくりと登り、玄関のドアノブにカギを差し込み、カギを開けようとすると驚いた――


「あれ? 開いてる。カギくらい掛けとけっつ――のっ! めぐみお姉ちゃん、ただいま」


 部屋の中は何時も通りだが、めぐみの返事は無く、七海は不審に思った――



「あれ? カギ開けっぱでコンビニに買い物にでも行ってんのかよ―ぉ。不用心だなぁ……」

 

 靴を脱いで上がろうとすると、微かにめぐみの話声が聞こえて来た――


「ん? 誰か居る……でも、靴は無いよ……もしや、あっシの居ないのを良い事に、男を連れ込んで……」


 七海は気を利かせて帰る事も考えたが、現場を見たい好奇心が勝っていた。そして抜き足差し足でキッチンを通り、風呂場へ行くと、中から笑い声が聞こえて来たので、耳をそばだてて中の様子を窺った――


「あははは。これが本当の裸の付き合いね、もう、パパったらぁ。本当に、ど助平なんだからぁ……」


「申し訳ありません……『人恋しい』が、何故か『人肌が恋しい』になってしまうようで……」


「まぁ、一度は一緒に入った仲だから今更だけどね。減る物じゃないし」


「私は、ひとりぼっちで寂しいのですよ……そして何より、残した家族が……妻と娘が不憫でなりません」



 めぐみと一緒に風呂に入って居たのは七海の父、中俣良仁だった――



「まぁ、寂しいのは分かるんですけどぉ、こんな事をしているのがバレたら不味いっしょ? 何より、寂しいからと言って、ふたりを『そっちの世界』に呼び込んだりしないで下さいよ。ふたりには未来が有るのですから。将来を考えて頂かないと」



 七海は、めぐみがパパ活をしていると思い込み、カッとなって風呂場のドアを開けた――



「このエロ親父っ! 妻と娘が不憫なら、こんなマネ出来ねぇだろぉ――――がっ!」



 七海の姿を見るや、良仁は湯気となって消え、風呂場ではひとり、めぐみが身体を洗っていた――


「あれ?」


「何よ、七海ちゃん。いきなり開けたらビックリするじゃないのっ!」


「あっ……ゴメン。今、オッサンの声がしたんよ……裸の突き合いが何とか……」


「何言ってんの? ほらっ、寒いから閉めてっ!」


「あぁ……はい」



 七海は聞き覚えのある声にちょっと懐かしさを覚え、不思議な気分になった――



「ふーむ。七海ちゃんも母親以外の女と父親が裸の付き合いをしている事には敏感に反応するのね……」



 めぐみは、お風呂から上がると正しい作法でコーヒー牛乳を飲んだ――


「うぇ――――いっ!」


「うぇ――――いっ! じゃ無いお。変なオッサンが居たでしょ? 声がしたお」


「馬鹿ねぇ。変なオッサンなんて居る訳ないでしょ。確りしなさいっ!」


「……でも、カギ開けっぱで、お風呂に入るのは不用心だお」


「えっ? そうだった? カギ開けっぱだった? うっかりしたよぉ。マジでヤバイじゃん……あっ。あんたが『ばっははぁ―いっ!』とか言って出て行ったから掛け忘れたのよぉ――っ!」


「チッチッチ。お嬢さん、責任転嫁は大人のやる事じゃ無いぜ」


「冷静じゃん。どーでも良いけど、早かったね。駿さんとオールだと思っていたのに……」


「それがさぁ……まぁ、あっシの勇み足っつーの? 『プ』じゃなかったんよ。ラノベの新作の取材だったんよねぇ」


「あ―ら、残念。まぁ、プロポーズにはまだ早いもんね。でも、七海ちゃんに取材だなんて変なの」


「変じゃねぇ――しっ! 次回作は薄幸の少女の成長物語だお」


「『不良少女と呼ばれていたあっシが、転生して……そのまま極道の妻になりました』みたいな?」


「っ全然、ちげえ―――よっ! 捻りナシかよっ! シンデレラ・ストーリーだっちゅーのっ!」


「シンデレラは死んどれらぁ? 『あの日、地獄の底で見た屍の名を君はまだ知らない』みたいな?」


「『あの花』みてぇな言い方すんなっ! 遺体の確認作業なんかしねぇ――しっ! ゾンビなんか出て来ねぇ――しっ! ホラーじゃねぇっつーの!」


「ふーん。そうなん?」


「おぅ。小公女セーラ的なぁ、ガラスの仮面みたいなぁ、とにかく、ヒロインが負けないんよ」


「フッ。生きている内に完結するか分かりゃしない……アレね。恐ろしい娘」


「だからぁ、怖い話じゃないんよっ!」


「分かってるよ。からかっただけよ。薄幸の少女の成長物語かぁ……七海ちゃんにはピッタリかもね」


「そう? やっぱ、そう思う? あぁ、あっシもシンデレラになれると良いなぁ……」



 シンデレラを夢見る七海の横顔には翳が有った。めぐみは、駿が七海にプロポーズをして結婚が決まれば家族になる。その事から、父である良仁が出て来たと思い込んでいた――



「さぁ、明日も早いから寝るよん。明日は何時?」


「何時も通り」


「OK、じゃあ、おやすみ」


「おやすみなさい」



 その夜、眠りに落ちた七海の夢はシンデレラではなく、父、良仁だった――


「お父ちゃん……お父ちゃん……」


 七海はふと目が覚めて、寝ぼけたまま暗い部屋の天井をぼんやりと眺めていた――



「お父ちゃん……」


「七海……」


 七海はその声にハッとなり、横を向くと、良仁が自分の布団の中に居た――



 ‶ きゃぁああああ―――――――――――――あぁっ!! ″



 その悲鳴に、めぐみは飛び起きると、慌てて電気を点けた――


「七海ちゃん大丈夫っ! 何が有ったのっ!」


「めぐみお姉ちゃん、変なおじさんが、変なおじさんが居たお……やっぱり、居たんだお……」


「変なおじさんなんて何処にも居ないよ。悪い夢でも見たのね……よしよし」



 めぐみは震える七海を抱き締めながら、良仁が居た事を確信していた――









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