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事実は小説より奇なり。

 駿のタッチが変わったのは誰かの影響である事は間違いない。そう確信しつつも、内村は心境の変化を無理やり元に戻すのでは無く利用する事を企んだ――


「先生。心境の変化は仕方のない事です。ですが、やはりですねぇ……作家である以上、読者を惹きつける作品を書いて欲しい訳ですよ。読んで貰わない事には書籍化はおろか、連載も出来ませんし」


「そうですね」


「どうでしょう。スピン・アウトで何か違った作品を書いてみるとか……もしくは、新しいアイデアを入れてテコ入れするか……」


「今『あの日、君と見た流星』と云うのを書き始めた所ですが……」


「ほう。ちょっと、そそられるタイトルじゃないですか。早速、原稿を読ませて貰いましょう」


「あっ、いやぁ、未だ書き出しくらいなので……」


「何でも結構です。さぁ、もったい付けずに、早く見せて下さいっ!」


 内村は、ためらう駿の手から原稿を奪うと夢中で読み始めた――



「あの、どうですか?」


「ふーむ……これはコレで中々……」


「まぁ、プロット段階ですから、いくらでも変更は出来ますけど……」


「そうですね。変更は必要ですよ。変更はねぇ。うーん、そうだなぁ……設定では若いカップルが羽田空港でデートをして、その後、ふたりで流星を見て願い事をする。そして残酷な運命に引き裂かれて……別々の人生を歩みながらも、互いに思い続けると。そして、いつか見た流星を別々の場所で見て過去を振り返ると、相手の事を思い出し、お互いに相手の幸福を祈ると云う事ですねぇ……ふーむ、さてさて」


「変更と言っても、その……」


「いやいや、コレではイケませんよ。イケませんねぇ。若いカップルは無しっ! バツイチ子持ちの男性と、その幼い娘を主人公にしましょう。そうだなぁ、一部上場企業に勤めて幸福な結婚をしたが、彼は会社で働くことに嫌気がさしてアーリー・リタイヤする事を決断する、FIREっ!」


「はぁ。それで……」


「奥さんはリッチな世田谷マダム気取りで、周囲を見下しているような傲慢な女だったからさぁ、大変。家庭には不協和音が」


「ん? わりと在り来たりですね」


「離婚なんてそんな在り来たりな物ですよ。そうだなぁ、二子玉川だと決まり過ぎなので等々力、尾山台辺りか……武蔵小杉とかどうでしょうねぇ」


「はぁ。なるほど、それで……」


「アクティブな奥さんは次のパートナーとの事を考え子供はイラネと。そして、世間体は勝手に会社を辞めた我儘な父親に親権を奪われた悲劇のヒロイン」


「何か、ドロドロしてませんか?」


「いえいえ、設定だけですから。気にしないで」


「そうですか。それで……」


「彼は幼い娘の手を引いて羽田空港に出掛けます」



 ―― 羽田空港 国内線第1ターミナル ガリバーズ・デッキ


「お父さん、ガリバーってなぁに?」


「ガリバーはね。ジョナサン・スウィフトが書いた『ガリバー旅行記』の主人公のレミュエル・ガリヴァーの事だよ」


「ガリバー旅行記ぃ? どんなの?」


「ある日、ガリバーが働いている船を嵐が襲い、船は波に飲み込まれ、ボートに乗り込み逃げたんだけど、結局、海に投げ出されてしまったんだ。そして、海岸に打ち上げられたガリバーが目を覚ますと、身体中が縛り上げられていたんだ」


「どうして?」


「実は、ガリバーが打ち上げられたのは小人たちの国、リリパット国だったんだよ」


「小人さんの国?」


「あぁ。身長十五センチの小柄な人々に取り巻かれ、つまようじのように小さな矢でガリバーを攻撃して来たんだ」


「うわぁっ! それで、それで?」


「続きはお家に帰ってからにしようね。この展望デッキから見える景色がガリバーになった気分になるから面白いね」


「うん」


 ガリバーズ・デッキから見える景色は、全てが小さく見えていた――




「内村さん。そのぉ、物語的にエンタメでも恋愛でも無い様に感じるのですが……」


「先生は気が早い。早漏気味ですよ。この後、親子は流星を見ます。その時に娘が『ガリバーさんに会いたい』って願い事をする訳ですよ」


「はぁ。なるほど、ファンタジーな感じですね。それで……」


「それで、娘が少女に成長をしていく過程で再び流星に遭遇します。『あの日見た流星』の事を思い出して願い事をすると、何と、目の前にガリバーが居るでは有りませんかっ!」


「あぁっ! 凄い跳躍力で飛躍しましたねぇ。一気に娯楽エンターテイメントになりましたけど……」


「少女に待ち受ける残酷な運命を彼が助けるのですっ!」


「なるほどっ! それは面白いですね。で、どうやって助けるのですか?」


「それは、ねぇ。先生がお考えにならないと。しっかりして下さいよ」


「丸投げじゃないですか」


「何と言われようと、飛躍して頂きたいのです。バツイチ子連れとか、社会性も盛り込みながらリンクを貼って、常に話題に絡ませて注目させるカラクリが必要なのです。ガッチリとした骨太のエンターテイメントを提供して頂けませんと打ち切りですよ」


「分かりました。でも、ガリバーではパクリになってしまいますから……ダイダラボッチで行きます。児童虐待に毒親に、学校での虐め等も織り込みましょう」


「おおぉっ! 乗って来ましたね。そう来なくっちゃ。それでは先生、よろしくお願いしますよっ!」



 内村が帰って行くと、駿は七海との思い出を振り返りながら筆を走らせた。そして、幼い娘が少女へ成長する過程を描くために、七海に取材をする事を決めていた――






お読み頂き有難う御座います。


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