ひと足お先に、鬼は外。
ケミカル・バリアが解除されると全員が息を吹き返した――
「ふう。死ぬかと思った」
「珠美姐さん、お役に立てずに済みませんでした。でも、元通りになって良かったです」
「こんな兵器が開発されていたとはな……」
「和樹ちゃんも力だけでは勝てないって事が良く分かったでしょ?」
「あぁ。強い者が生き残る訳では無いのだな……」
南方は解放されたマックスを抱き締めた――
「マックスっ! 大丈夫か?」
「ショチョウ、ボクノタメニ、オオキナ、ギセイヲ、ハラウコトニナリ、モウシワケ、アリマセン……」
「大丈夫、お前が無事ならそれで良い……うーむ、首から胸の回路がショートしている様だ、後で直してやるからな」
「ショチョウ、アリガトウ、ゴザイ…マス」
南方とマックスの間には互いに思いやる感情が生まれていた。珠美はそっと八咫鏡を覗くと、そこには幸せそうな笑顔を浮かべる南方とマックスが映っていた――
「どーして、神や人間には思いやりの心が持てないのかねぇ」
「珠美。南方武は人間を思いやる気持ちが強過ぎただけよ。その結果、憎しみが恨みとなって国譲りの野心が芽生えて行ったの……」
「めぐみちゃん、此れで一件落着だ。皆で一緒に帰ろうよ。それから、何処か気の利いたお店で打ち上げでもどう?」
「…………」
「何、黙ってんだよ。駿さんは気が利くわねぇ。ついでに、私は和樹様と一緒の席でシクヨロっ! きゃはっ!」
「めぐみさん、先程、改めて南方と契りの握手をした。もう、これで心配する事は無い。帰るとしよう。はっはっは」
「珠美姐さん、私はコレで。御一統さん、お先に失礼致します」
ダイダラボッチはそう言うと、すぅ―っと大地に消え入った――
「なぁーんだ、帰っちゃうのか。一緒に飲みたかったのになぁ‥‥」
「駿さん、彼奴はさぁ、身の程を弁えているから。神様と一緒の席には座らないんだよ」
「仁義の人なんだね……」
和樹の腕に抱き付きベッタリな珠美と駿の後ろ姿がW・S・U・S本部から消えても、めぐみは、ひとりその場から動かなかった――
「鯉乃めぐみ、まだ何か用が有るのか?」
「えぇ」
「私は八岐大蛇プロジェクトも、レプティリアンも失った……国譲りはもう諦めたのだ」
「いいえ」
「何?」
「残念だけど、あなたは諦めてなんかいないわ」
「どういう意味だ?」
「あなたの中には未だに野心が燻ぶり続けているの」
「そんな、馬鹿な」
「八咫鏡にも映らない、あなたの心の闇よ」
「……見えるのか?」
「えぇ。だから、この私が、その野心を始末してあげるわ」
「何をするっ!」
めぐみはブライト・ソードを抜くや、南方の心臓を一突きにしようとした――
「ショチョウ、アブナイ!」
「マックス!」
マックスは反射的に南方を庇って覆い被さると、めぐみのブライト・ソードはマックスの背中から南方の心臓を串刺しにした-―
‶ バッ、シュゥ――――――――――ンッ!! ”
めぐみはブライト・ソードを引き抜いて納刀すると、倒れているふたりに最後の言葉を掛けた――
「これで、本当に終わったよ…………何時までも、お幸せに」
和樹は腕に抱き付いている珠美の手を取って、駿に言った――
「おい、どうしたんだ? めぐみさんが居ないじゃないか」
「あれ? 本当だ。さっき一緒に出たと思ったのに……まさか、まだW・S・U・Sに……」
「もうっ! ふたりとも、めぐみ、めぐみって、何よっ! 私が居るでしょう?」
「お待たせぇ――っ! 駿さん。七海ちゃんとピースケちゃんも誘ってア・ゲ・て」
「あぁ、そうだね。そうしよう」
「チッ、せっかく両手に花だったのに、何だよ、邪魔しやがってっ!」
「残念でしたぁ――だっ!」
―― 一月二十日 大安 癸酉
喜多美神社は神聖な空気と慌ただしさに包まれていた――
「はいっ! 節分、節分、節、節っ!」
「分、分っ!」
「はいっ! 節分、節分、節、節っ!」
「分、分っ!」
「さぁ、待ちに待った節分に備えて心構えは出来てるかぁ――いっ?!」
「YES!」
「イエスじゃないのよ、神道なのよ。めぐみさんもピースケさんも、二日酔いなんてフッ飛ばして、全力全開よっ!」
「はぁーい」
「ふあぁ――い」
「ちょっとっ! 来る二月は節分祭、初午祭、祈年祭と神事が目白押しなのよっ! ビシっと気合い入れんかいっ!」
「ひぃ―――――っ、畏まりましたぁ――――っ!」
「典子さんはぁ、去年、下手こいたからぁ、焦りとぉ、緊張でぇ、ピリついているんですよぉ」
「紗耶香さん、毎度の事とは言え、何時に無く気が立っているのは、そう云う事なんですね」
「コラッ! 節分舐めんじゃないわよっ! 古来、私達の祖先は清浄を尊び、清明なる心で日々の生活を励み、立春の前日に、一陽来復を祈願し、追儺『おにやらい』『豆まき』の儀式を取り行って来たのっ! 鬼は、陰を意味し、陰は悪に通じ、神代の昔『イザナギ』の神が鬼を『ハラウ』のに桃の実を投げ、悪鬼をはらった故事にならって『鬼は外 福は内』と叫びながら豆を撒き、厄除け・開運を祈願する、重要な神事なのよっ!」
「なんかぁ、典子さんはぁ、自分にぃ、言い聞かせているんですよね」
「何よっ! 文句ある?」
「まぁまぁ。今年も沢山の人出が有りそうですね」
「そ―ぉ、なのよ―ぉ。皆、気を引き締めて下さいねっ」
‶ はぁ――――いっ! ″
めぐみは節分の一足先に鬼を退治した自分を誇りに思っていた。南方の心の曇りは晴れ、マックスはAI並みの知能を持つ人間に生まれ変わっていた――
そして、慌ただしい日々の中で、自分が成長している事、御縁が有ってめぐり合った人間達との友情を、これからもずっと大切にして行きたいと心から願っていた――
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