AIロボットは人類の救世主。
国譲りの野望が脆く崩れ去ってしまった現実を前に、魂が抜けたように脱力してフロアに座り込んだ――
「これまで積み重ねてきた努力が……ほんの一瞬で水泡に帰すとは……私の負けだっ! 潔く負けを認めようではないか」
「そう。それなら、天の国からのオーダーだから和樹さんと和解して貰うわ。良いわね?」
「鯉乃めぐみ、何でも言う通りにする。許してくれ……」
「じゃあ、和樹さん。ふたりで契りの握手をして」
「あぁ。南方よ、これで互いに戦う事無く、この国を治める事が出来る」
「和樹ちゃんも南方ちゃんも、雨降って地固まるって事で。これからは、お互いに協力して良い国にしようよ」
「あぁ。分かった。私の野心が混乱を招いた事を今は反省している。私はもう、目が覚めたから安心してくれ」
目に涙を浮かべ、改心して謝罪するる南方が、和樹の両手を取って、確りと握手をすると、苦しい武者修行に明け暮れていた和樹も込み上げて来て涙目になった。そして、その光景を眺めていためぐみもミッション・コンプリートの喜びも相まって目を潤ませ、連鎖的に駿も貰い泣きをしていた――
「めぐみちゃん、いろいろ大変だったけど、何だか、感動的だね」
「うんっ!」
だが、たった一人、泣くどころか怒りを露わにしている珠美が居た。お多福顔は面子から般若の形相へ変わって行った――
‶ いよぉ――――――――――――――お。ぽ――んっ! ″
「おぉ。南方よぅ。お主も役者よのぅ……ふざけやがってっ!」
「ふざけてなどいない。言い掛かりは止しなさい」
「言い掛かりだぁ? 手前ぇ、この鵜飼野珠美の目が節穴だとでも思ってんのかよぅっ!」
「何を証拠に……」
「此処に居る三人の神は騙せても、この八咫鏡は騙せねぇんだよっ!」
珠美はウインド・ブレーカー・のジッパーを一気に下げると、懐の八咫鏡を水戸黄門の印籠の様に差し出した――
「これはっ!」
「どう云う事よっ!」
「僕たちを騙してるって事だね?」
八咫鏡には、この場を切り抜けるために芝居を打ち、油断をさせたその後に、全員を罠に掛けて捕獲して、ほくそ笑む南方が映っていた――
「この、卑怯者っ! 神妙に縛に就きやがれっ!」
「フッ。バレては仕方あるまい。鵜飼野珠美、お多福顔で相手を油断させるお前も卑怯者だぁ。八岐大蛇も殺すのではなく捕獲であれば神法違反にはならない。どうしてどうして、中々の知恵者よのぅ……褒めてやるぞっ!」
「笑わせんなっ! やってやんよっ! 掛かって来いやっ!」
「ほほう。それなら、お言葉に甘えて先手としよう。食らえっ!」
南方がポケットからリモコンを取り出してスイッチを押すと、スプリンクラーから大量の猛毒が噴射された――
「めぐみちゃん、ケミカル兵器だ、逃げるんだっ!」
「フッフッフ。このW・S・U・Sの建物は生きている。館内から脱出する事は不可能だっ!」
「クソッ、目が見えない。ダイダラボッチ、何とかしてくれっ!」
「珠美姐さん、何だか身体が重たくて動けないんです。おまけに眠気までさして来やがった……」
「フッフッフ。こんな時に備えて神力を封じるケミカル・バリアを開発しておいたのだ。この、南方武に死角など無いっ! ハッハッハッハ、ア―――ッハッハッハッハッハ」
「ダメだ、サンダー・ショットすら撃てない……鉛で固めらている気分だ……」
「和樹ちゃん、僕も、意識がだんだん……遠のいて……」
「どうだ? ケミカルバリアの感想は? 神力が強ければ強いほど強固に固まり、藻掻けば藻掻くほど苦しむ事になる」
南方は身動きの取れない和樹と気を失って倒れている駿を尻目に。苦悶の表情を浮かべて固まっている珠美、うつ伏せに倒れているめぐみの状態を確認した。そして、ブライト・ソードを取り上げてニヤリと笑った――
「マックス、ダイダラボッチの腹の中から八岐大蛇を取り出す。そして、金田が出張から戻り次第、八岐大蛇プロジェクトを通常通り再開するっ!」
「ハイ。ショチョウ、お見事で御座います。準備をさせて、頂きマス」
マックスが踵を返して、研究室に向かおうとした、その時だった――
「南方武っ! あんた、しつこいわねぇ。しつこい男は嫌われるよんっ!」
めぐみはバトル・スーツのTYPE-1を装着して、うつ伏せになる事でケミカル・バリアを防御していた。そして、起き上がると同時に懐に隠していたブライト・ソードの短刀を抜いてマックスの腕をひねり上げると首元に突き付けた――
「貴様、何をする気だっ! マックスを離せっ!」
「ふーん。あんたのアキレス腱は、このマックスだって事を私は薄々感づいていたのよねぇ。直ちにケミカル・バリアを解除しないなら、マックスはどーなっちゃうのかなぁ……」
「止めろっ! マックスに下手な真似をしたら只では済まないぞっ!」
「あっそ? じゃあ、遠慮無く……」
めぐみがブライト・ソードを軽く押し付けると、マックスの内部がショートして火花が飛んだ――
‶ バチバチ、ジジジジッ、パァ―――――ンッ! ″
「止めろっ! 止めてくれ。そのマックスこそ、人類の救世主なのだっ!」
「はぁ? こんなAIロボットが人類の救世主な分け無いでしょう?」
「鯉乃めぐみ、良く聞け。支配欲と権力欲に憑りつかれた人間共は、騙し合い殺し合い憎しみ合っている。そして、支配が完了すると時を待たずして腐敗する。人一倍の支配欲が有る人間は同じ人間に管理されるのを嫌がり、抵抗する。人間共には管理が出来ないのだっ! そのマックスこそ、人間と同じ感情を持つAIロボットであり、将来的には人間の生活に不可欠になるのだっ!」
「だったら、サッサとケミカル・バリアを解除しなさいっ!」
「ケミカル・バリアを解除して欲しかったら、マックスから手を離せっ! 和樹も駿も珠美も、二度と地上で活動は出来ないぞっ!」
「ふーん。じゃあ、遠慮無く……」
‶ バチバチ、ジジッツ、ジジッ、パチバチッ! ″
「頼む、ブライトソードを仕舞ってくれっ!」
「ショ、ショチョウ。ボクニ、カマワズニ、プロジェクトヲ、ススメテ、クダサイ」
「マックスっ!」
「ボクヲ、ウンデクレテ、アリガトウ、ゴザイマシタ。コノ、ゴオンハ、ショウガイ、ワスレマセン。ドウカ、モクテキヲ、タッセイ、シテ……クダサイ」
「マックスお前は……分かった、今直ぐ解除をする。だから……マックスを解放してくれっ!」
「良いわ」
南方はポケットのリモコンを操作してケミカル・バリアを解除した。そして、めぐみはマックスを解放した――
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