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早く人間になりたい。

 ――  一月二十四日 先負 丁丑


 それから数日後、南方の不安を払拭したのは未明のニュースだった。ある地方公務員の男性が日農連の畑に入り込み農作物を盗んで逮捕され、世間から同情の声が集り、その声は次第に大きくなっていた。そして、天の国では天国主大神アメクニヌシノオオカミが珠美が下した天罰が昆虫食になった事で達成された事を確認していた――



「珠美よ。国民は農作物の有り難さ、農家の尊さを身にしみて感じておる。そして、盗人まで現れた今、目的は達成され、これ以上は混沌を招くだけである。以上の事から天罰を解除する。良いな」


「は、ははぁ―――――あっ!」



 天の国の大社は白い雲に覆われ、天国主大神アメクニヌシノオオカミが去って行くと、雲の切れ間から眩い光が差し込み、.その光線が地上に届くと、日本の上空の恐ろしい黒い雲は風と共に消え、海域の高波は収まり、全ての輸送が再開されることになった――




「めぐみお姉ちゃん、ニュース観た? 明日っから、輸送が元通りだってさ」


「七海ちゃん、それ本当?! 輸入食品が食べられる様になるって事ね。まぁ、イッケイさんや神社が日農連と関係が有って、食い物に不自由はしなかったけどね。イナゴの佃煮は旨かったし、ユーグレナのポタージュは最高だったけど、毎日じゃキツいもんね」


「あっシは、ようやく仕事が再開出来るっちゅーの」


「良かった良かった」


「ったく、昆虫がデカ過ぎっから、フード・プロセッサーで液状にしてパン生地に練り込んだ時は『終わった』と思ったぜ」


「それも良い思い出……には、ならないか」


「あはは、なる訳ねぇ――しっ! とんだ黒歴史だお」




―― W・S・U・S本部


「ショチョウ。輸入食品の輸入が、再開されました。必然的に、昆虫の需要は、無くなった事を、大和田研究員に、伝えまシタ」


「あぁ、分かった。何か言っていたか?」


「ハイ。大和田研究員は、輸入の再開を、望んでいたので、とても、喜んでいました。巨大化する昆虫も、時間の経過と共に、自然に死に絶え、環境破壊は回避されたと、安心してイマシタ」


「そうか。ありがとう、マックス。ところで、大和田は不老不死の研究の進捗状況については、何も言っていなかったか?」


「ハイ。現在の状況は、食品を摂取する事で、知らない間に、不老不死になる様に、大蛇のDNAを、組み替えた、健康食品の、開発をしていると、言ってイマシタ」


「うむ。不老不死を謳い文句にしたのでは刺激的過ぎる上に、医療関係者からの反発が怖いからな。怪しまれない様にステルス食品にするのも、ひとつの方法だな」



 南方は『食物神』の逆鱗に触れる事を恐れていたが、杞憂に終わった。そして、不老不死の『完全な人間』を創り出す道筋が見えて来た事に安堵していた――





「おい、相棒。やけに張り切っているじゃねぇか? 喜多美神社の監視なら、適当にやっておけば良いさ」


「何だよ、人のやる気に水を差しやがって。そんな事じゃぁ、真人間にはなれないぜ。早く人間になりたいなぁ」


「おい、相棒。まだ、そんな夢を見ているのかよ。俺達はもう、お払い箱なんだってよ」


「そんなの嘘だよ。ガセだ。噂を信じちゃいけないぜ。真に受けた奴は出し抜かれて、真人間になった奴を見て『騙された』って。そうやって、騙されてから気付いても遅いぜ」


「おい、相棒。お前はW・S・U・Sの連中を信じ過ぎているぜ」


「信じるさ。南方所長は神様なんだぞ」


「おい、相棒。神様ってぇのはよぅ、人間じゃないんだぜ」


「だから、人間は俺達レプティリアンを人間にする力は無いんだ。南方所長は神様だからそれが出来るんだよ」


「おい、相棒。その南方所長がよ、神様がだ。次のプロジェクトに移行して、もう、俺達には利用価値が無いって事らしいぜ」


「そんなの嘘だっ! 嘘に決まっているじゃないかっ!」


「おい、相棒。嘘でも、ガセでも、噂でも無い、本当の事さ『真実』って奴なんだよ。お前さんこそ、本当は分かっているんじゃないか? 『騙された』って認めるのが怖いんだろ? 気付いた時には……もう、手遅れだぜ」


「ふざけるなっ! ぶん殴るぞっ!」


 相棒は胸ぐらを掴み、拳を振り上げた-―


「おい、相棒。だったら、こうしようじゃないか。直接、南方に合って、確かめようじゃないか。どうだ?」


「それは……」


「俺達レプティリアンは人間になる事が出来るのか『真人間』って奴になれるのか問い質そうじゃないか」


「そんな、失礼な事が出来る訳が無いだろ?」


「おい、相棒。お前さん逃げる気か? 仲間は皆『真人間』になるプランは諦めているんだぜっ! 俺達は腹黒い、薄汚い人間を監獄に送り込んで、世直しをしていたはずだろ? ところがどうだい? 『真人間』になるなんて、大嘘だったんだよっ! 俺達は利用されているだけなんだっ!」


「それなら、何で監視の仕事を受けたんだよ? 利用されているだけと知っていて、どうして……どうして……」


 相棒は泣き出して、その場に座り込んでしまった――



「なぁ、相棒。例え利用されているだけと知っていても、人間に成りすましてよぉ。この国で社会人として生活をすればするほど、人間になりたいさ……俺だって、人間になりたいんだよ。なれる物ならなぁ……」


「分かったよ。もう、俺達レプティリアン同士で言い争いをしたって無意味だ。南方所長に直接会って、確認をしよう」


「良しっ! そうと決まれば、全レプティリアンにメールを一斉送信しておくぜっ!」


「おうっ! 何だか勇気が湧いて来たっ!」


「あぁっ……早く、人間になりたいっ!」



 W・S・U・Sによる、地上の人間の支配とコントロール計画は所々に綻びを見せ始めていた。そして、南方は八岐大蛇プロジェクトの推進と、国譲りへの再挑戦が自分自身を追い詰めて行く結果になるとは予想すらして居なかった―― 





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