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支配と管理は食物神に有り。

 珠美の心の中で、めぐみの声がこだました――


 ‶ 食い物の恨みは 恨みの最上級 恨みのテッペン ″


 ‶ 怒りは消えても 恨みは消え無い 必ず自分に返って来る ″


 ‶ よく覚えとけよ ″



「珠美。どうかしたかのぅ?」


「いや、ちょっと、嫌な事を思い出しただけ……」


  

 珠美は心の箍が外れて、自分の中のもうひとりの自分が覚醒し、これ迄の自分の殻を破り、新たなステージに向かう自分自身に震えていた――



「めぐみ姐さん、ほら、あれを見て下さい。珠美が出てきましたよ」


「あぁ。でもね、ピースケちゃん。あんな奴、無視、無視。無視に限るよっ! 日本全国、虫を食わされる羽目になったんだからさぁ」


「めぐみ姐さん、良く見て下さいよ、様子が変ですよ……魂抜かれたみたいですよ。ザマぁ無いですね。クックック」


「ふんっ! 珠美の奴、クソ親父に叱られで観念したか。どれどれ……ん?」


 超速の足運びで音も無く昇殿した先程とは打って変わって、顎を上げて、口は半開き、肩は下がり、両手をだらりと下げて、足を引き摺る様なだらしない歩き方で、同一人物とは思えない程だった――


「違うっ! 身体の全ての腱と筋肉から脱力しているっ! あれは『風吹けば柳の如し、雨降れば流れる水の如し』変幻自在に変化する構えだっ! 珠美の奴、一瞬で奥義を体得しやがった……恐るべし、食物神パワーっ!」



 珠美は授与所にやって来ると、典子と紗耶香に挨拶をした――


「喜多美神社の皆さぁ――ん、かぁんにちはぁ―――――あ! 何時もお世話になってまぁ――――すっ!」


「あら、珠美さん。お世話だなんて、飛んでも御座いません。珠美さんのお陰で、今日も美味しい食事が出来ます。有難うございます」


「世の中はぁ、昆虫食なんですよぉ。コオロギ、イナゴ、タガメにぃ、ゴキブリまで食しているんですよぉ。世も末なんですよぉ。美味しいお野菜と自然食がぁ、本当に有難いんですよぉ。感謝してもぉ、し尽せないくらいなんですよぉ」


「有難う御座いまぁ―――すっ! 足りない物が有ったら、何でも言って下さいね――――ぇ!」


 珠美は授与所の中で背を向けて無視をする、めぐみとピースケを発見した――


「あっ、めぐみさん。お話が。すみません、ちょっと、めぐみさんをお借りしますねぇ―――っ!」



 珠美は授与所の中にズカズカと入るや否や、めぐみの襟首を掴んで、竹林に連行した――


「離せっ! 子猫じゃないんだよっ!」


「だから、話すって言ってんだろ」


「ふんっ! まず、謝るなら許してやるけど? 話はそれからだっ!」


「あぁ。分かっている。この通りだ。済まなかった。私が悪かったよ、反省して出直すから。以後、宜しく、お願いね……」


 珠美は話し終わると静かにお辞儀をした。その姿にめぐみは心の中で呟いた――


「ぬぬぅ。身体だけではなくメンタルも力が抜けて素直になっている……『全てを受け入れ、あるがままに生きる』どんな攻撃さえも無力化してしまう受け身の姿勢、受け身こそ最大の防御であり、攻撃であると……」



 日も傾き、喜多美神社の参道を冷たい北風が吹き抜けていった――




 ―― P.M 5:00 東京港月島埠頭 


 本橋直哉と池田拓斗は大蛇の姿のまま檻に入れられていた――




「拓斗、確りしろっ!」


「うわぁっ! 蛇だっ!」


「違うだろ、記憶を失っているのか?」


「あぁ……本橋さん、此処は……?」


「月島埠頭だ」


「じゃぁ、俺達はやっぱり、沈められるんですね……」


「馬鹿っ! 俺達は小笠原諸島、父島へ身を隠すために此処に来たんだ。覚えていないのか?」


「ううぅっ……そうだ、八岐大蛇に食われたんだっけ、そう云えば金田が……」


「フッ。どうやら、ふたり供、意識が戻ったようだな」


「金田っ! おいっ、こんな格好にさせらて……俺達は大蛇の姿で身を隠すのか?」


「まさか。心配するな。君達はあそこに見える共勝丸で父島へ向かうのだ」


「共勝丸って……貨物船じゃないか」


「そうだ。人間に戻してからでは怪しまれるからな。船内では寝ているが良い」


「あんたは、どうする気なんスか?」


「私は明日、竹芝桟橋から『おがさわら丸』で父島へ向かう。現地で貨物の受取人は私だから、そこで人間に戻してやる」




 ―― 一月十八日 先負 辛未


 日本全国で昆虫食が始まると『昆虫が以外にイケる』と話題になる一方で、気分が悪くなる人も続出していた。そして、早晩、起こるであろう昆虫不足が懸念された――



―― W・S・U・S本部


「ショチョウ、報告が有ります。大和田研究員の、飼育した、昆虫は、通常の、五倍の大きさ、デス」


「マックス、良いじゃないか。大きければ大きいほど、数が少なくて済むのだ」


「ハイ。しかし、その昆虫が、進化し続けている事が、危険デス」


「進化し続けている……? まさか……」


「ハイ。既に、ゴキブリが、180gの、ハンバーク大に、なっています。数日後には、鯛か鰤くらいに、なっている事が、予測されマス」


「マックス! 何故、それをもっと早く言わなかったのだっ!」


「モウシワケ、アリマセン。しかし、昆虫の生態の不思議と、同時進行の為、研究を止める事は、デキマセン」


「不味い事になったな……昆虫が異常な進化と巨大化をした場合、予測が出来ない。地上の全ての物を食い尽くす事態になれば、自殺行為だ」


「ショチョウ。喫緊の問題は、昆虫が、日農連の、田畑を荒らす事デス」


「日農連!? いや、珠美の生産者は守られているから、昆虫も寄せ付けないはずだ。だが……万が一にも、その様な事態にでもなれば、逆鱗に触れる事になる……」


 南方は『支配とコントロールの計画』を進めた事が、逆に後退を招く結果になる事を恐れた。そして、それが自然の恵みから昆虫に移行したところで『食物神の管理下に有る事』に変わりがない事を思い知った――








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