天罰には恵みで。
八岐大蛇は金田の背後で鎌首を上げており、直哉と拓斗は長い舌を出した瞬間、目が合ってしまった――
「うわぁっ! 足が動かないっス、まるで、石の様で、あぁっ! 腰まで固まってしまったっス」
「メデューサの……うぅっ」
直哉と拓斗は八岐大蛇に睨まれると石になってしまった――
「おいっ! お前っ! こんな事が許されるとでも思ってんのかぁ、おぁっ!」
珠美が掴み掛ろうと立ち上がると、それを制する様に金田が歩みを進め牢屋の中へ入って来た。そして、手に持ったファイルを開いて珠美に見せた――
‶ 心配するな、私は味方だ。この地下牢は穴蔵だ。入り口と廊下には監視カメラが有るが、この部屋の中には監視カメラは無い。だが、音声はマックスに筒抜けなのだ。だから、声を発してはいけない。分かったらフィンガー・サインを ″
珠美は筆談になった展開に驚いたが、サム・アップして了解した――
‶ ふたりは石になって固まっているだけで、意識は有るから心配するな。この二匹の大蛇は牙を抜き無毒化している。ふたりを飲み込んだ後、解放するための寝袋の様な物だから安心し給え ″
珠美はサム・アップして了解した。金田は動けなくなったふたりに見せると、更にページを開いて見せた――
‶ 本橋直哉と池田拓斗、此処から解放さらたら、直ぐに東京港月島埠頭に向かってくれ ″
‶ 目的地は小笠原諸島、父島。そこへ身を隠すのだ ″
‶ 私も後から行くから、そこで落ち合おう。運が良ければだが ″
‶ 珠美さん。あなたは暫く此処から出られません。だが、何らかの手続きが終わり次第釈放されますので、ご安心を ″
金田は手に持ったファイルを閉じると、廊下へ出て八岐大蛇に命令した――
「さぁ、食い殺せっ! そして、八岐大蛇となって甦るのだっ!」
八岐大蛇が牢屋の中にするりと入り込み、大きな口を開けて無毒化された液体を頭から掛けると、石になったふたりはコンニャクのように柔らかくなり、ぺろんっと、丸呑みにされてしまった――
‶ ウゴッツ、ウゴッツ、ウゴッツ、ゴフッ、ゴックン! ″
金田と八岐大蛇が去って行き、牢屋には珠美がひとり残された――
「あぁ『何らかの手続きが終わり次第釈放されます』って言っていたけど、天の国で神法会議の結果が出るまでって事かなぁ……やってらんねぇなっ!」
―― 天の国 神法会議
八百万の神が集り、珠美と南方のトラブルの審判が行われていた――
「これは、天罰の無効化だ。妨害行為だっ!」
「あぁ、まるでカウンター・パンチを食らったような格好だ」
「馬鹿かお前ら? 天の恵みを与えて豊作にして、値崩れ起こして、結果として天罰になった事を忘れたのかよ」
「大体さぁ、地上では天罰の渋滞が起こり過ぎなんだよぉ。こんなの取り合っていたらキリが無いって……」
「そう云う事だ。結論は、今回の珠美の主張は受け入れられないと云うだ」
すると、風も音も無く、社は白い雲に覆われ、天国主大神が現れた――
「皆の者。今回の結論を受け入れよう」
「ははぁ――――ぁっ」
「だが、その事は珠美にとって、いや、全ての神にとって、天罰の無効化状態に陥った場合、新たな天罰、若しくは恵みを与える事にお墨付きを与える事である。良いな」
「は、ははぁ――――ぁっ」
―― W・S・U・S本部
八百万の神々による神法会議の結果と、天国主大神直筆のお墨付きが南方の元に届いた――
「うむ。珠美の奴、これで観念するだろう。マックス、珠美を地下牢から釈放する」
「ハイ。ショチョウ、了解しました」
「マックス、釈放の際に、この、お墨付きを珠美に渡してくれ」
「ハイ。これは……」
「中身は確認しなくて良い。珠美には分かるから、それで良いのだ」
喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――
珠美は釈放されると喜多美神社へ向かった。そして、鳥居をくぐると、目にも見えない速足で、拝殿に昇殿して本殿の素戔嗚尊の元へ駆けて行った――
「めぐみ姐さん、典子さんと紗耶香さんには見えないでしょうけど、今、何かが……駆け抜けて行きましたよね?」
「うん。ピースケちゃんには見えたんだ?珠美が半ベソで、駆けて行ったよ」
「あぁ、そう云う事ですか。やはり、珠美も親に泣き付くんですね」
「まぁ、ヤキ入れたから。反省するまで絶対、口聞か無いから。頭下げて来ない限り、なぁ――んも、してやんないからねっ!」
本殿では素戔嗚尊の胸で、珠美は号泣していた―――
「うええぇ――――ん、びぃえぇ―――――ぇん、うっがぁぁ―――――――ぁ、おい、おい、ぶっすん、うっごぉぉ――――――お!」
「珠美。思いっ切り泣くが良いぞ」
「ちっくしょうっ! めぐみにも南方にも負けた上に説教されて、悔しくて悔しくて死にたいよ――――ぅっ! うええぇ――――ん」
「神様は殺すに刃物は要らぬのぅ……おや? 珠美、この、ポケットの手紙は……」
「南方は悪く無いって、天国主大神直筆の手紙だよ。ダメ押しなんだよぉ――――ぉ! うええぇ――――ん」
「どれどれ……珠美。此れはお墨付きだ。このお墨付はのぅ、天国主大神の宣戦布告とも受け取れる内容じゃ」
「へぇ?」
「つまり、天罰に天罰をぶつけて相殺する事も、天罰に恵みを与えて無効化する事にも、お許しが出たと云う事じゃのう」
「本当に? それじゃ、めぐみと南方にやり返しても良いの?」
「勿論じゃ。しかし、めぐみちゃんにも南方にも、今の所は何も問題が無いからのぅ。仕返しも何も無いのぅ」
「ぐっすん。良いもんっ! 何時か必ず、この恨みを晴らしてやるもんっ!」
「恨みと云うヤツは、消えないのぅ……」
珠美はその言葉に、めぐみを思い出して背中に冷たい汗が流れるのを感じていた――
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