第246話 不都合な真実達。
南方は、がっくりと肩を落として項垂れる珠美に最後の言葉を掛けた――
「もう、話す事は有りませんなぁ……」
「あぁ、分かったよ。話せば分かるなんて思った私が馬鹿だったよ。お前と話す事など何も無いっ! 無駄だった。サッサと、解放してもらおうかっ!」
珠美がモニター画面を睨み付けるや否や、南方がニヤリと笑った――
「それでは、鵜飼野珠美さん。どうぞ……ごゆっくり」
「ゆっくりなんか、してられねぇっ……」
‶ カチッ! ″
南方がボタンを押すと『別室』の床が開いて、珠美は地下へ落ちて行った――
‶ あぁ―――――― れぇ――――――っ! ″
ドスンと鈍い音を立てて落ちると、頭を打って気を失った――
「お嬢さんっ! 大丈夫ですか?」
「おい、怪我は無いようだが、気を失っている様だ」
「お嬢さん、しっかりっ!」
「あっ……痛っ、痛たたたぁ……」
気が付いた珠美の顔を二人の男が覗き込んでいた――
「良かったぁ。気が付きましたね」
「うわぁっ! すみません、有難う御座います……あなた達は一体誰? 此処は何処?」
「私は毎朝日々新聞の記者の本橋直哉と申します」
「おいらは週間バンクの専属で、ノンフィクション・ライターやってます。池田拓斗って云う者です。ヨロシクっ!」
「拓斗。こんな所でヨロシクじゃ無いだろ」
「あっ、そうっスね」
「お嬢さん。此処はW・S・U・Sの秘密の地下牢ですよ」
「えっ? 地下牢? 秘密なの? 何で私がっ!? あなた達は何でこんな所に?」
「まぁ、あれっスよ。W・S・U・Sの秘密を知り過ぎた……若しくは、都合の悪い存在って事っスよ」
「そう。我々は不都合な真実を知ってしまった者同士と云う事です。最後が何時なのかは分かりませんが、それまでは、お互い仲良くやりましょう」
「ちょ、本橋さん。レディを前に『仲良くヤリましょう』は無いっしょ?」
「あっはっは。馬鹿だなぁ、この状況でそんな下ネタが言えるお前を尊敬するよ。お嬢さん、何カ月もこんな所に閉じ込められていると、笑うきっかけさえ失ってしまいましてね。気を悪くしないで下さいね」
「あっ……はい。あの、おふたりはW・S・U・Sの秘密を知り過ぎた『都合の悪い存在』だと云う事ですけどぉ……それは一体、どんなん?」
お多福顔でにっこり笑う珠美とは対照的に、直哉と拓斗の表情は一瞬で曇ってしまった――
「あのぉ……聞いちゃ、いけなかった、ですかねぇ……あはは」
「いや、一瞬で現実に引き戻されて、落ち込んだだけです。なぁ」
「そうっスね」
「お嬢さん。私は量子コンピューターが社会にどれほどの価値が有るのか、又、悪用されないか、安全性について調べていましてね。ところがひょんな事から、その裏側で国民を管理して、支配を企んでいることを突き止めたのです」
「おいらは量子コンピューターの導入、納入に関する談合について調べていたっス。金の流れを調べていたら、W・S・U・S本部にブチ当たったと云う訳っス。」
「あぁ。お互いにアプローチは違ったのですが……なぁ」
「ところで、お嬢さんの名前をまだ聞いて無いっスね」
「あっ、申し遅れまして失礼しました。初めまして。私は鵜飼野珠美と申します」
珠美は懐に入れていた名刺入れを取り出すと、直哉と拓斗に差し出した――
「大日本帝国 農業連合 代表 関東大和会 相談役 鵜飼野珠美……あっ! 有機野菜と自然食品で有名なあの日農連の代表!? でも、どうして? 何でこんな所へ来てしまったのか知りたいっス」
「それがですねぇ、私が天罰を……いえ、日本国内の食量が全部腐ってしまい、食べ物が無くなってですね、今日から昆虫食なんですよ」
「そんな馬鹿な事が有るものかっ、輸入食品だって冷凍食品だって……」
拓斗は直哉の目を見ると首を横に振った――
「マジっすよ。珠美さんが此処に居ると云う事は、奴らの仕業っス」
「はぁぁ……農家は全滅かぁ。生活に関わる一番重要な食を支配したと云う事か……」
「だから、言ったじゃないっスか。彼奴ら本気っス、上級国民だけが知識と情報を独占して、一般人は上級国民の養分になるだけっス。奴隷っスよ。いや、奴隷以下の虫ケラっス」
「昆虫を食って虫ケラ扱いかぁ……人を馬鹿にするのにもほどが有るっ! 珠美さん。あなたは、その昆虫食について、何か重大な秘密を握っているのですか?」
「いやぁ……そのぉ、南方に直接、文句を言ったら、こうなってしまって……はい」
「南方武に直接会ったっスか? そりゃ凄いっス。おいらなんて何時も門前払いっス」
突然、入り口のドアが開く音が地下牢に響き渡った――
‶ ガッシャン、ギイィ―――――――――ィ、ガッ、シャン! ″
「誰か来るぞっ!」
‶ カッツ、カッツ、カッツ、カッツ、カッツ、カッツ ″
「足音が止まった牢屋の中の人間が処刑されるっス、珠美さん、覚悟して下さい」
‶ カッツ、カッツ、カッツ、カッツ、カッツ、カッツ……カッ、カッツ ″
「そ、そ、そんなぁ……」
‶ カシャンッ ″
覗き窓が開くと、ぎょろりと大きな目が牢の中を見廻した――
「本橋直哉と池田拓斗だな、両名、出してやるから支度をしろ」
「何だと? 全て取り上げておいて、支度なんて有るわけ無いだろっ!」
「出してやるなんて言ったって、騙されないっス、処刑されるのは分かっているっス!」
「うむ。分かっているなら……早くし給え。君達は私の育てた、八岐大蛇に食われて死ぬのだ。フッフッフ」
「クソッ、こんな事をして、人として心が痛まないのかっ! この人でなしっ!」
「人でなしとは、言い得て妙だぁ……だが、喜ぶが良い。八岐大蛇に食われて死ぬのは一時。人型爬虫類、シン・八岐大蛇となって甦るのだっ! それは……永遠の命。終わり無き神話の始まりなのだっ!」
‶ ガチャッ、ギィィ―――――――ッツ! ″
牢屋の扉が開くと、そこに立っていたのは金田と巨大な八岐大蛇だった――
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