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珠美の殴り込み。

 鬼の形相で睨む珠美に南方の存在を教えるべきか迷ったが、これも『何かの縁』と割り切って口を開いた――


「地上名、南方武。建御名方神タケミナカタノカミじゃ」 


「なっ、なんですって? 一時は和樹様のライバルと目されていたけど、実はヘタレだった建御名方神タケミナカタノカミが何で?」


「和樹のライバルと云うよりも……今は、南方の方が勝っておる。和樹を制して南方が地上を支配する事になるのも時間の問題じゃ。国譲りが起こる寸前なのかもしれんのぅ……」


「南方武……企みやがったなっ! 私の和樹様に、ちょっかい出したらタダじゃ済まねぇっ! ちっくしょうっ! その、南方のヤサは何処だっ!」


「南方武はW・S・U・S本部の所長じゃ。お前が逆立ちしたって勝てない、歯が立たない相手。和樹でさえも打つ手が無いのじゃ」


「勝負は時の運、勝敗の結果は神聖。やってみなきゃ分かんねぇだろっ! 逆立ちがダメならバク転してやんよっ! 歯が立たないなら爪を立ててやんよっ! ぎゃふんと言わせてやっからなっ!」


「あっ、おいっ、珠美っ……」


 

 珠美は威勢よく啖呵を切って本殿を飛び出すと、駐車場のトラックに飛び乗ってW・S・U・S本部に向かった――



 ―― W・S・U・S本部


 大和田研究員は一人焦っていた――


「研究所の虫の数には限りが有る……所長は日本全国の大気中に薬剤を噴霧して全ての昆虫を大量発生させる指示を出したが、その後は農作物だけでなく森林さえも破壊する恐れが有る……生命維持のための食糧確保が最優先とは言え、自滅の道を辿っている事に変わりはない。何よりも輸入の再開を急がなければ……」



 ‶ ビイィ――ッ、ビイィ――ッ、ビイィ――ッ、ビイィ――ッ、ビイィ――ッ、ビイィ――ッ、ビイィ――ッ ″


 ‶ 緊急アラートです、玄関ロビーで、女が奇声を上げて暴れています ″


 ‶ 研究者及び、所員の皆さんはドアをロックし、機密保全の徹底をお願いします ″



「おいっ! 所長の南方を出せっつってんだろ? テメーらじゃ、話になんねぇんだよっ!」


「モウシワケ、アリマセン。アポイントが、無い方の、面会は、お断りしています。対応が、デキマセン」


「チッ、アポ無しだろうと鵜飼野珠美が来たと言えば分かるんだよっ! サッサとしろやっ! おのれ、ブチ壊したろか? おおぉっ!」


「ハイッ……暫く、お持ち、クダサイ……」


 

 マックスは珠美が人間ではない為、予測不能に陥ってしまった。だが、同時に

脅しではない『破壊のパワー』を感知して南方の元へ向かった――



「ショチョウ、大変です。鵜飼野珠美が、会わせろと言って、聞きません。完全に殴り込みデス」


「マックス。心配するな。こちらは最初から織り込み済みだ。フッフッフ、珠美かぁ……会ってやるとも」



 ロビーでは珠美がしびれを切らして、ソファから立ち上がり、強行突破をしようと研究所のドアの前に立ち、ハンドルに手を掛けようとした瞬間、ドアが開いた――



「初めまして。所長の南方武です。今日は何の御用でしょうか? 鵜飼野珠美さん」


「おぁ? 言うまでも無いが、言ってやんよっ! お前がやっている事は神法違反だからなっ!」


「ハッハッハ。人聞きの悪い事を言ってはいけませんよ。違反など、一切しておりません。それどころか、食糧難に喘ぐ人のために、最善の事をしてあげているのですよ。言い掛かりは止めて頂きたいですなぁ……鵜飼野珠美さん」


 珠美は南方の堂々とした態度と射貫くような眼に硬直した――


「鵜飼野珠美さん、此処で立ち話もなんですから『別室』でお話ししましょう。マックス、案内してあげなさい」


「ハイ、畏まりました。どうぞ、コチラヘ」


 珠美はマックスの案内で長い廊下を歩いて行き、幾つものシャッタードアを抜けていくと、完全に方向感覚を失った。そして、別室の中に入ると、高い位置に細く切った採光の窓が有ったが、中から外を窺い知る事は出来なかった――


「おいっ! 何だよっ! まるで取調室か独房じゃねぇかっ!」


「鵜飼野珠美サマ、ソレデハ、ごゆっくりどうぞ」


 ‶ カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ、ガッ、チャン ″


「うわっ! ロックしやがったなっ! ちくしょう、開けろっ! 南方、卑怯だぞっ!」


 珠美がドアを壊そうとする姿を、コントロール室で監視していた南方は声を出して笑った――


「ハッハッハッハ。馬鹿な女よ。飛んで火に入る夏の虫とはこの事だ」


 ‶ カチッ! ″


 南方がスイッチを押すと『別室』の天井からモニターが降りて来た。そこには南方が映し出されていた――



「おのれ、南方っ! こんなところに閉じ込めて何をする気だっ!」


「おやおや。別室で落ち着いて、ゆっくりと話をしましょうと申し上げましたよ。フッ。案の定、感情的になって真面な会話が出来ませんなぁ。鵜飼野珠美さん」


「おい、南方っ! 天罰を無効化するのは神法違反だぞっ! こんな事をしてタダで済むと思ってんのかっ!」


「ハッキリと言ってやろう。天罰は下り、既に人間達は食糧難に陥りパニックになっているではないか。昆虫食は提案であり、強制では無い。神法に何ら触れてはいないのだ」


「法に触れなきゃ、何をやっても良いって云うのかよっ! お前、それでも神様かっ!」


「ハッハッハッハ。神法に何ら抵触して居ない上に、人間達に救いの手を差し伸べている、この私に命令・指図・強制する、お前こそ、神と言えるのか?」


「何を……」


「フッ。感情的な口答えほど無駄な物は無い。今、お前のやっている事こそ神法違反であり、人間の法律でも恫喝及び脅迫罪だ。口を慎めっ!」



 珠美は何も言い返せなく、悔しかった。人間達のために、東に病気の子供あれば、行って看病して、高額医療の手続きをしてやり、西に疲れた母あれば、行って、マッサージをしてヨガを教え、南に死にそうな人あれば、行って怖がらなくても良いと天国でのライフ・プランを説明し、北に喧嘩や訴訟があれば、つまらないからやめろと手打ちにさせて、言粉骨砕身お世話をして来た。なのに、なのに、めぐみにも南方にも『お前はそれでも神様か』と説教をされ、遂に、心の中の箍が壊れた――






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