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真昼の決闘。

  黙り込んで俯くめぐみを見て、珠美は励まそうと思って声を掛けた――


「めぐみ。そんなに落ち込むなよ。なぁ……まるで、私が悪い事したみたいだろ?」 


「ズバリ、あんたが悪いんだよっ!」 


「そんなに怒るなよ。その内、良い事も有るって。なっ!」


「その内じゃなくて、今直ぐ良い事しなさいよっ!」


「今直ぐは無理だけどさぁ……きっと、時が解決してくれるって」


「あんた無責任ねぇ……ん? 時が解決? と云う事は……」



 めぐみは珠美の腕を掴むと、世田谷区立喜多見公園まで引っ張って行った――


「何よ、こんな所へ連れて来て。まさか、もう一度勝負する気?」


「あんたと勝負はついている。あれを見なっ!」


 珠美はめぐみの指さす方向を見た――


「あれって……? 砂場で子供達が遊んでいるだけじゃないの?」


「黙って見てなっ! 目を反らすなよっ!」


 仲良く砂場で遊んでいる子供達をよく見ると、ひとりの男の子が女の子の作った砂の家を壊し、女の子が泣き出してしまうと、向かいで砂のお城を作っていたお兄ちゃんが立ち上がり、男の子の砂山を蹴散らした。すると、男の子も泣き出してしまい、今度は声を出してお兄ちゃんのお城を壊した――


「あーぁ、お兄ちゃんまで泣き出しちゃったじゃねぇか……」


「はい、ストップ。これがあんたのやっている事。分かった?」


 めぐみはクロノ・ウォッチに手を掛けると時間を戻した――


「珠美、今、私が何をするか良く見てなっ!」


 めぐみは子供達の所へ行くと、ひとりひとりに何を作っているのか尋ね、嬉しそうに話す子供たちを誉めた――


「わぁ。みんな凄い上手だねっ! でもなぁ……」


「お姉ちゃん、でも、なぁにぃ?」


「みんなで力を合わせた方が、も――っと、面白いんだけどなぁ……」


「みんなで?」


「どうやって?」


「お姉ちゃんに良いアイデアが有るんだけどなぁ」


「おせぇーてっ!」


 めぐみはお家の前に溝を掘って、山にトンネルを作って、お城の前に池を作った。そして、バケツで水を汲んできて流した――


「わーい、お池が出来たっ!」


「トンネルの中に水が流れて行くよっ!」


「おうちの前に川が出来たぁっ!」


「最後の仕上げはコレだよっ!」


 めぐみが小舟に見立てた枯葉を流すと、子供達は大喜びで、手を叩いて喜んだ――


「お姉ちゃん、ありがとう。又、遊んでね」


「これはねぇ、ママに貰ったの」


 女の子がグーの手で差し出したのは、ママに貰ったおやつのキャラメルだった――


「わぁ、お姉ちゃんにくれるの?」


「うんっ! あげる」


「ありがとう。じゃあね。またね、バイバイ」



 めぐみは、女の子が差し出したキャラメルを貰うと、珠美の元へ戻った――


「見たか?」


「あぁ……うん、見た」


「見たな」


「しつこい」


「分かったか?」


「何がよ…………」


「三方一両損は大岡裁き。三方大喜びで、神様の私まで御褒美を貰っちゃったぁ」


「だから……何よっ! キャラメルなんか……要らねぇよっ!」


「珠美っ! あんたも神様なら、私みたいに全員を幸せにしなさい。誰一人泣かしてはダメっ! 分かった?」


「……はぃ」


「声が小さいっ!」


「分かってるよっ! チッ、うっせーなぁ」



 珠美は不貞腐れ、目を反らし、そっぽを向いた――



「珠美、この数時間後に、あの子達は何も食べられなくなるのよっ!」


「えっ……」


「飢えて苦しんで、それからどうなると思う?」


「どうなるって……」


「教えてあげる。あの子たちの親は、子供達のために、必死で食べ物を探すわ……自分達だって何も口にしていないと云うのに……でも、無いの。誰かさんのせいで全て土に還って、どこにも食料が無い……あぁ、なんて可哀想なのかしら……」


「しょっ、しょうがないでしょうよっ! もう、天罰は下ったんだから、さぁ……」


 めぐみはそっぽを向いた珠美の肩を掴んで、向き直らせた――


「ひぃっ…………!」


 めぐみの頬にはゴルゴラインが、こめかみには血管が浮き出し、ドクンッ、ドクンッと脈打つのが分かる程で、両目は血走り、零れ落ちそうだった――



「珠美さんよぉ……おどりゃ、何したか分かっとんのかっ! 食い物の恨みはなぁ、食い物の恨みってぇ奴はなぁっ! どんな恨みよりも、上なんだよっ! 恨みの最上級、恨みのテッペンだからなっ!」


「…………」


「怒りは消えても、恨みは消えねぇっ! 必ず自分に返ってくるからな。よく覚えとけよ」


 めぐみは珠美の蛍光色のウインドブレーカーのジッパーを首元まで一気に上げると、肩をポンポンと叩いた――


「人を生かすために殺すなら……あんたも南方と同じ。フンッ。あばよっ!」


 背中を向けて立ち去るめぐみの姿を見送る珠美の顔は、能面の山姥の様になって固まっていた――




 ―― WSUS本部


「ショチョウ、大変です。喜多美神社で、珠美とめぐみが、真昼の決闘、デス!」


「何? それで勝敗は?」


「ショウハイハ、めぐみが勝った模様。ですが、天罰の撤回は、有りませんので、ご安心、クダサイ」


「そうか。それは良かった」


「ショチョウ、それから、先程、大臣から連絡が、有りました。日本全国食糧難で、大パニックに、なっています。可及的速やかに、対策をお願いします、との、コトデス」


「クックっクックック、ハッハッハッハ、ア―――ッハッハッハ。全く女と云うのは馬鹿な事を……ハッハッハ。オウンゴールか。それとも漁夫の利とはこの事か。笑いが止まらんっ!」


「ショチョウ、大臣に連絡を……」


「マックスっ! 食糧危機は我らにとって追い風だっ! 今こそ、昆虫食にシフトする絶好の機会だっ! 大和田研究員に昆虫を大量発生させるように指示をするのだっ!」


「ハイ、しかし、所長……」


「心配するなっ。大臣も政党の危機管理能力を誇示出来る上、有権者からの信頼を獲得し、政党の支持率も上がる。そして、我々は人間の支配力を高める事が出来るのだ。マックス、これが笑わずにいられるか? 珠美も所詮は女だなぁ。フッフッフフ。ア―――ハッハッハ」


「ハイ。畏まりました……」



 マックスは大和田研究員が繁殖している、不老不死の実験用の昆虫が通常の五倍の大きさである事を知っていた。そして、その昆虫が野に放たれ、更に進化をして巨大化し、全ての農作物を食い荒らした後、絶滅するのは時間の問題だと確信していたが、南方には言えなかった――






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