天罰とchatGPT。
めぐみに必殺高速ビンタを躱され、覚醒した珠美は足を肩幅より少し広く開いて腰を落とし、両手を胸の前で交差すると深く息を吐いた――
‶ ホワァ―――――――――ッツ、コォ――――――――ッ ″
「フッ。虎ひしぎをして超々高速ビンタを繰り出すつもりね。受けて立つわよ。掛かってらっしゃいっ! Come on!」
‶ どりゃぁ――――あっ! アチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョ! ″
「はぁーい、残念でしたぁ」
‶ アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタァ―――――アッ! ″
「ほほほいの、ほーいだっ!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、どうして、はぁ、はぁ、こんな超々高速を躱せるなんて……はぁ、はぁ、有り得ない……ぜぇ、ぜぇ、はぁぁ」
「フッ。あんたの技は既に見切っているのよんっ! このクロノ・ウォッチで自在に時を止めたり戻したり出来るから、抵抗しても無駄よ。参ったと言いなさい」
「ふざけんなっ! まだ、終わっちゃいないっ! うをぉ―――――っ!」
柔術の心得がある珠美が投げ飛ばそうと掴み掛かったその瞬間、合気道の達人であるめぐみに天高く飛ばされてしまった――
「あぁ―――――れ―――――っ!」
‶ ドスンっ! ″
「フッフッフ。私の合気道は柔術の上を行く……戦国時代、矢が尽き、槍が折れ、刀を失ったその時。当て身、人体破壊術、殺人術と今は失われし古の戦闘武術をベースに、女神であるこの私が、正しく神のレベルまで高めたもの……フッ、それでもまだヤル気かしら?」
万策尽きた珠美は最早、降参する以外、道は無かった――
「クソっ、参りましたぁ……」
「良い子ねぇ。じゃ、天罰は無しで。ヨロシクねっ!」
「あぁ? 残念、それは無理だよ。時間が進めば元通り、食品は消えて無くなるよ……天罰は撤回は出来ないから……」
「えぇっ! 何で?」
「勾玉が光を放った世界は変える事は出来ないの。あんた、そんな事も知らないの?」
「マジでっ……珠美っ! 食物神の癖に食べ物を粗末にして、何の罪もない人が餓死しても平気なのっ!」
「だって……神様だもン。」
「あ。何、可愛い子ブリっ子してんのよっ!」
「和樹様だって、地震や雷でさぁ、大量に死者を出しているしぃ。私だって、たまには怒らないとぉ、皆、感謝する気持ちを忘れてしまうでしょう?」
「はぁ? 感謝もクソも飢死したら出来ないでしょう? 死んだら、お終いだろ――がっ!」
めぐみと珠美の睨み合いが続いていると、三人の男が声を掛けた――
「あの……お取り込み中、申し訳ありません。おふたりとも喧嘩は止めて、仲良くして下さい」
「俺達はもう、スパッと、諦めましたので……」
「この度は、ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした。失礼します」
「あっ! あのっ、ちょっと……」
めぐみに呼び止められてもレプティリアンの三人は振り向かず、前を向いて歩いて行った――
「あーぁ、行っちゃったぁ……可哀そうに……義理も人情も無い珠美のせいで飢え苦しんで死ぬんだぁ……はぁ……」
「何だよっ! 私が悪いみたいな言い方しないでよっ! 義理とか人情とか? 彼奴ら宇宙人だろ? 関係ねぇーだろっ!」
「あーあ、小っちゃい、小っちゃい。呆れるよ」
「何だと?」
「大宇宙から俯瞰で見れば、地球人も宇宙人。生きとし生けるもの全ての命を慈しむ心を持てないなら、珠美っ! 神様なんか辞めちまいなっ!」
「ふざけんなっ! じゃあ、お聞きしますけどぉ、辞表出せるか? 神様は職業じゃないんだよっ!」
「ふーん。じゃあ、聞いてあげる」
「はっ? えっ??」
めぐみはケータイを取り出すと、神官に連絡をした。すると、自動でchatGPTの画面に切り替わった――
‶ ピロリロロン ピンッ! ようこそ、chatGPTへ。これさえ有ればQOL、爆上げ間違い無しっ! さぁ、新しい時代の扉を、今直ぐ開けようっ! ″
「大仰なキャッチコピーねぇ……QOL爆上げ間違い無しって言われても……」
‶ お答えします。QOLとは、クオリティ・オブ・ライフの頭文字です。意味は「生活の質」「生命の質」等と訳されまぁ――すっ。へけっ! ″
「どこかで聞いた様な……聞き覚えの有る、この声は……」
‶ はぁ――い、Navigatorはぁ、chatGPTのマスコット・キャラクターに任命された『巫女twin’z』でぇ――――――すっ! ″
「あんた達、出たがりねぇ……そんな事より、今、令和の大飢饉が始まったの。何とかする方法を教えてっ!」
‶ はぁ――い、えっと、ですねっ。珠美様の天罰によって、約三分の二の国民が死にますがぁ…… ″
「三分の二の国民が死ぬなんて、日本は滅亡するよっ! 珠美にそんな事をする権利は無いでしょっ!」
‶ はぁ――い、えっと、ですねっ。スリムになった日本は、好景気になってぇ、元気を取り戻して世界に類を見ない大発展をしまぁ―――――すっ! 以上 ″
「あぁ、そうなんだぁ。良かった『じゃぁ、OKね!』って言う訳が無いでしょうっ! ふんっ、そうなる迄に何年掛かるか言ってみ?」
‶ ほぁ? えっと、えっと、えっと……ですねっ。およそ三百十九年、掛かりまぁ―――すっ! ″
「ふざけんなっ! 神レベルのスケールでOKでも、人間の一生ではOKじゃないのよっ! 何が、以上よっ! chatGPT使えねぇなぁ……」
めぐみは、およそと言いながら三百十九年と刻んだ答えも気に入らなかったが、束の間でもQOL爆上げ間違い無しのchatGPTに期待をした自分にガッカリした。新しい時代の扉を開けた気になっても「生活の質」「生命の質」の向上は錯覚でしか無く、結果は殆ど変わらない事に愕然としていた――
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