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天罰に打つ手なし、座して死を待つのみ。

 男達がラーメン屋に到着すると、長い行列が出来ていた――


「おい、見なよ。今日は大勢並んでいるぜ……」


「皆考える事は同じだな……」


「今日はタンメンの日だな。アハハ」


 行列に並ぶと程無くして店員が出て来て、並んでいる客の数を数え始めた。そして、男達の前に来て言った――


「あの、何名様ですか? 此処まででスープが終わりでして……」


「はあぁ? 一人しかダメか?」


「何だよ……仕方ないから他に行くか?」


「そうだな。又来るよ」


「申し訳ありません。有難う御座いました――ぁ」



 男達はタンメンの口になっていたので、タンメンを求めて隣町まで歩いた。だが、次の店も次の店も売り切れていて、タンメンを食べる事は出来なかった――


「今日はついて無いなぁ……」


「本当に今日は『タンメンの日』かって思うほどだぜ」


「駅前の店まで臨時休業なんて……有り得ないよなぁ」


 男の呟いた『有り得ないよなぁ』の言葉に、脳裏を過ったのは宇迦野珠美の顔だった――


「何か今……変な物が見えた」


「お前も?」


「えぇっ! お前らも見えたのか?」


「気のせいに決まっている……」


「あぁ……そうだな……」



 凍り付いた男達が歩いていると、その目に飛び込んで来たのは、タンメンの名店だった――


「おいっ、あれを見ろよっ! いつも大行列の名店が空いているぜ」


「本当だ。やっぱり気のせいだったな」


「やっとツキが回って来たか? よぉし、突撃だぁ」



 店内は六割程度の客入りで、労せず席に着いた――


「おいっ、親父っ! タンメン特大、全部増し増しで三つ。頼んだぜっ!」


 厨房から返事は無く、傍に居るお客の黙々とタンメンをすする音だけが店内に響いていた――



「おい、何だよ……返事が無いけど大丈夫か?」


「オーダー通っていないんじゃないか?」


「しょうがねぇなぁ……ちょっと行って来る」



 男は席を立ち上がり、厨房の暖簾をくぐると、注文の確認をした―――



「よぉっ、親父っ! 聞いてる? 注文だよ。タンメン特大、全部増し増しで三つ。頼んだぜ」


「……………………」


「ん? おいっ、お客様が、わざわざ厨房まで来て注文してやってんだから、返事位いしろよ」


「……………………」


「返事しろやっ!」


 男が怒鳴ると、親父が言い返した――


「お前に食わせる、タンメンは無ぇ――っ!」 


「何だと? 手前ぇ、それが商売人の言うセリフかよっ! もういっぺん言って見ろっ!」


 壁に向かって麺を茹でている親父の首がグリグリグリっと百八十度回った。振り向いた親父の顔は宇迦野珠美その人だった――


「何度でも言ってやんよ。お前に食わせる、タンメンは無ぇ――っ! お前達には、未来永劫、金輪際、口に入れる物は無ぁ――――――しっ!」


「ひぃい――――――ぃ」


 男はもんどりを打って倒れ、それを見た男達も腰を抜かし、四つん這いになって店を出た――


「……おい、俺達どうなっちまうんだよ?」


「本当に未来永劫、金輪際、口に入れる物は無いんじゃ……ないか?」


「そんな事、有り得ねぇ……食物神には、そんな力が有るのか?」


「本部の話では、あのお多福に手を出したらお終いらしい……何でも、女の神様に暴力を振るったり、侮辱なんかした日にゃ天罰覿面だと……あわわわ」


「あぁ、ブスなんて言うんじゃなかった。俺、顔を踏んずけちゃったよ……」


「俺は蹴り入れちゃったし、ブス連呼したし、頭を小突いたし」


「神様なんて、迷える子羊は更に迷わせ、そうでない子羊もそれなりに迷わせる事で生計を立てているんじゃないのか?」


「はぁ……腹が減って死にそうだ」


「とにかく本部に戻ろう。今の俺達には所長に泣き付く事しか出来ないよ……」



 ―― W・S・U・S本部


 南方はカンカンになって怒った――


「一体、お前たちは何をやっているんだっ! 大変な事をしでかしてくれたな」


「申し訳ありません。食物神だと知らなかったもので……」


「知らないで済む事ではないっ!」


「しかし、所長。めぐみとピースケの会話を傍受して居る所に、大音量で街宣してきた物ですから……変な女と思い込んでしまいまして……」


「報告・連絡・相談を徹底しろと、毎朝、ブリーフィングで言っているのに、そんな言い訳が通るとでも思っているのかっ!」


「申し訳御座いません。所長っ! お多福に天に代わって罰を与えられてしまい、何も口にしていないのです……」


「所長っ! 知らぬ事とはいえ、此処までの道すがら、コンビニやスーパー、個人商店にも寄りましたが、食べる物が何も無かったのです。何でも良いですから、何か食わせて下さいっ!」


「俺達、一滴の水も飲んでないんです……どうか、何か食わせて下さいっ!」


「あぁ。分かった。マックス、三人に食事を用意してくれ」


「ハイ。イイエ……珠美の神力で食物が分解されてしまい、土に還って仕舞います。最早、打つ手は有りません。餓死決定で、ゴザイマス」


「そんなぁ……どうすれば良んだぁ――――――あ!」


「餓死なんて冗談じゃないっ!」


「本部が何もしてくれないなら、あのお多福に土下座して、許しを乞うしか……」


「無駄だ。珠美を怒らせたらお終いなのだ……」


「ハイ。ショチョウノ、言う通りです、天罰の威力凄まじく、皆さんが立ち寄ったコンビニ、スーパー、個人商店から食品が消えています。それは、補給路が断たれる事を意味しています。皆さんは、これ以上、何処にも、立ち寄っては、いけません。地上からどんどん食品が消え、パニックになってしまいます。オネガイシマス」


「何とか……神様の怒りを鎮める方法を教えて下さいっ!」


「そんな方法が有れば私も怒ったりはしない……マックスが言う様に、打つ手が無いのだ。座して死を待つのみ……残りの時間は好きにするが良い。ご苦労さん」



 日本の海域で輸送船は沈没、飛行機は謎の竜巻で着陸出来ず、輸入食品の全てが購入出来なくなり、国内の食糧だけが頼りになったが、その食料が土に還るのも時間の問題だった――






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