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福笑いなんて笑えねぇ。

 麗華は参拝を済ませると、授与所にやって来た――


「ごきげんよう。めぐみさん、お元気そうね」


「麗華さん、お久しぶりですね。今日は神恩感謝ですね」


「はい。勿論、それだけでは有りませんけど」 


「ほぇ? それだけでは無い??」


「めぐみさん、今日は何の日ですか?」


「え? 今日は十五日でしょう。五の付く日と云えば……ん? もしかして!?」



 喜多美神社周辺の閑静な住宅街に大音響が鳴り響いた―― 


 〝 ザン、ザン、ザン、ザンッ、パンパカ、パッパ、パ――――ンッ! ザン、ザン、ザン、ザンッ、パンパカ、パッパ、パ――――ンッ! ″


 ‶ あーあ、あーあ、大日本、帝国、農業、ザン、ザンッ、連合ぉ―――――っ、ダダダ、ダンッ! ″


 ‶ 日照りの時もぉ、雨ぇの日もぉ、風の時さえ、野良に出て――ぇえ  ″


‶ 先祖代々、命を懸けて、守った土地ぃが―――ぁ、今日も恵みを、与えてくれるぅ―――うぅ  ″




 爆音を轟かせてやって来たのは 御存知、お稲荷さんこと鵜飼野珠美であった。迫りくる爆音、そして、路地を曲がり神社の横道に入ってくると、何時もの様にマイクを入れた――


「アー、テス、テスッ。ど――も――――、どーも、でぇーす。皆さん、かぁんにちはぁ―――! やって参りました、鵜飼野珠美ちゃん、どぉぇ――――すっ! お元気ですかぁー? 私はぁ、元気っ、どぉぇ―――――すっ! ご町内の皆様ぁ、かぁんにちはぁ。窓から応援、有難う御座いまぁ――すっ!  お梅さん、応援、有難う御座います、お菊婆ちゃん、有難う御座います。 L・O・V・E、愛してまぁ―――――すっ!」



「めぐみさんも、珠美さんから購入すると幸せになれますよ。それでは、ごきげんよう」


「あぁ……はい」


 めぐみは参道を後にして駐車場で珠美と挨拶を交わし、オーダー・シートを渡して嬉しそうな表情で去って行く麗華の後姿を見送った――




「さぁ、さぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。商品、サービス何でもござれの大東京。それでも、買い物難民爆増中とはこれ如何に? お金さえ払えば何でも手に入る夢の街で、お金を出し渋る馬鹿と阿呆の絡み合い。お金じゃ買えない真心と、値段じゃ計れない価値をお届けに、やって参りましたぁ―――――あ!」



 何時もの様に黒山の人だかりになり、珠美の商売は盛況だった――


「おい。おいっ女! お前ぇ、誰に断わって此処で商売してんだ? おぉ」


 珠美は驚いて接客の手を止めて、声の主の方に振り向いた。すると、そこに居たのは仕立ての良い黒いスーツに、黒のネクタイ、黒のプレーントゥ、黒のサングラスを掛けた三人の男だった――


「誰にって……ここは喜多美神社の駐車場でぇ――す。喜多美神社に決まっているじゃないですか。あはは。きちんと許可を得て営業しておりますので、誤解の無い様に御願いしまぁ――すっ!」


「ふんっ。喜多見神社が許可しようと、この俺が許可しねぇ……と言ったら? あぁ」


「そんな……私はきちんと許可を得て……」


「きちんと許可を得れば、何をやっても良いとでも思ってんのかっ! おぉ? ゲリラみてぇな真似しやがって、手前ぇのせいで周辺の八百屋もスーパーも商売あがったりなんだぁ。まっとうな商売をしている堅気に迷惑をかけてんじゃあ無いよ。サッサと失せな」


「言い掛かりは止めて下さぁ――い。警察を呼びますよっ!」


 三人の男は、その言葉にスイッチが入ったのか形相が変わり、突然、暴力をふるい始めた――


「女っ! 舐めた口をきいてんじゃねぇっ! ブスっ!」


「こいつ、お多福みてぇな面しやがって、舐め腐ってるぜ。ブスがぁっ!」


「このブス、痛い目に合いてぇみたいだからよぅ、福笑いみたいにしてやろうぜ、へっへっへ」


 髪の毛を掴まれ、引き摺り倒され、顔に腹に背中に腰に三人の男の足跡が付くと、集まっていたお年寄りが口を開いた――


「お若いの、およしなさい」


「何ぃ? クタバリ損ないが出しゃばるんじゃねぇよっ!」


「ちょっと、あんた。さっき言った周辺の八百屋とは八百久の事かい? それだったら思い違いだよ?」


「そうだよ。八百久の爺さんはおいらの二個上で、部活の先輩だぁ。息子に先行きの暗い、こんな、みじめな商売は継がせられねぇってんで、爪に火を点す様な暮らしをしながら国立にやったんだっ! 今じゃ一部上場企業の重役で、息子には『お父さんも高齢なのだから、商売なんて何時、辞めても良いんだよ』って言われているんだよ」


「三丁目の八百信だって、青山青果だって、ビルのテナント収入で余裕綽綽だろ? 道楽でやっている様なもんだ」


「道楽だからさぁ、殿様商売でいけないよ、半分痛んだ野菜だって、値引きもしやしないんだ。文句を言ったら『よそで買いな。二度と来るな』って。あたしゃぁ、それで見限ったんだ。お客が離れて当然だよ」


「あぁ、そうだ。大体、元はと云えば大手スーパーが進出したせいじゃないかっ! そっちに言いなさいよっ!」


「そうだそうだっ! どこで買うかは消費者が決めるんだよっ! おととい来やがれってんだっ!」


「ふんっ。消費者だぁ? クタバリ損ないの高齢者が良く言うぜ、サッサと失せな。言う事を聞かねぇんならこうだっ!」


 男はおじいさんの杖を取り上げると膝で真っ二つに折り、おばあちゃんのカートを蹴飛ばし、野菜の入った箱をひっくり返した。そして、落ちて折れてしまった大根が足元に転がってくると、力一杯に踏み潰した――


 ‶ グシャグシャッ、グチャ ″


 引き摺り倒され、蹴られて蹲っていた珠美が起き上がった――


「この私をブスと笑うのは許してやろう。だが、お年寄りに手を上げるのは許さない。敬老精神ゼロにして、先祖代々、守り抜いた田畑で収穫された天の恵みを足蹴にした上、踏み潰しやがった……」


「おい、このブスが許してやるだってよ」


「おうっ、ブス。何を上から目線で物を言ってんだぁ。おぉ」


「クタバリ損ないの耄碌ジジイにクソババアとブスなんてぇ汚らしい生き物はよぅ。他人を不快な気分にさせて迷惑を掛けるだけの存在だぁ。つまりなぁ……この世のゴミだっ! 粗大ゴミだっ!」



‶ いよぉ――――――ぅ、ぽぉ―――――――んっ ″



 その時、何処からともなく鼓の音が聞こえた――





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