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夢見る十七歳。

 下を向いた弥助が顔を上げると、精いっぱいの笑顔でピースケに話し掛けた――


「ねぇ。ピースケ君は最近、アルバイトに来なくなったけどさぁ。今、何をしているの?」


「あぁ。僕は逃げ遅れて逮捕されちゃっただろ? だから、もうバイトは出来ないんだよ」


「保護観察みたいなの?」


「うん。まぁ、そんな感じ」


「そっか。じゃぁ、もう来れないんだね……」


「うん」


「はぁ……つまらないなぁ」


「でも、皆が居るじゃない。仲間だから、直ぐに仲良くなれるよ」


「ふーん。仲間かぁ……友達がさぁ……誰も居なくってしまったんだぁ」


「えっ? 誰もって……どうして?」


「ピースケ君が居なくなった頃からかなぁ……この数カ月、僕らの待遇は酷いものでね。皆、集まらなくなっているんだよ……W・S・U・Sの職員の人達も僕らに冷たいんだ……」


「えぇっ? 皆、親切で、あんなに好待遇だったのに……」


「うん……何かさぁ、八岐大蛇ヤマタノオロチプロジェクトが、いよいよ完成間近らしいんだ」


「うん。それで?」


「僕らは……もう、お払い箱なんだって」


「そんな馬鹿なっ! 誰がそんな事を?」 


「バイト・リーダーが……」


「W・S・U・Sがそんな事を云う訳が無いよ。ガセだよ、ガセ。噂を信じちゃいけないよ」


「ガセなんかじゃないよっ! バイト・リーダーが夜勤明けに本部に給料を取りに行った時に『地下の牢屋に入れられた新聞記者と週間誌の記者から聞いた』って。『本部は僕らを利用している』から、ピースケ君の言う様にそんな事は絶対に言わないけど、もう、終わりなんだよ……」



 ピースケの話を聞いてめぐみは驚いた――



「ふーん。驚いた……出会っちゃうんだぁ……そんな風に、あの日あの時あの場所で偶然に……で?」


「でって! 驚くポイントはそこじゃないでしょうっ! 『新聞記者と週間誌の記者が生きていた事』でしょうよ。人間に成りすましたレプティリアンなら、そこいらじゅうに居ますよっ!」


「まぁまぁ。そんなに熱くならないでよ。だんだん和樹さんに似て来たね」


「似てなんかいませんよっ!」


「ねぇ、ピースケちゃん。今の状況では手も足も出ないよ」


「分かってます。しかし、何としてでも、W・S・U・Sの野望を打ち砕かなければならないのですっ!」


「焦っても無駄よ」


「でもっ、このままでは……」


「ふーん。熱くなると先が読めなくなる所も和樹さんに似ているわね?」


「からかわないで下さいよっ!」


 真剣な表情で目に涙を浮かべて訴えるピースケに、めぐみは自信たっぷりに答えた――


「フッ。その野望っ! 破綻すると見たっ!」


「えぇっ……め、めぐみ姐さん……」


 ピースケは、堂々としためぐみの言葉にモヤモヤが消えてスッキリした。そして、何時も受け身で楽観的なめぐみが、実は懐の深い器の大きい女神だと悟った――



「さぁ、帰ろっ。大将、たこ焼きマンボでなんぼ?」


「おうっ、ふたりで千二百万両つ!」


「あいよ。釣りは要らないよ。とっといておくれ」


「いよっ! 気風の良いイキな姉さんだねぇ。ありんしたぁ―――っ!」


 めぐみは、大将の言葉を背中で聞いて、爪楊枝を咥えたまま暖簾をすうっと潜ると、良い事をした自分に満足をして晴れやかな気分になった――



「あぁ、めぐみ姐さんっ! 待って……」


「ピースケちゃん。あんた、まだまだ子供だねぇ。早くおうちに帰ってお休み」


「今、二千円出したつもりでしょう? 二万円出しましたよっ!」


「えぇっ! あぅっ……やっちまったなぁ……」


「確りして下さいよ。大人なんですから――ぁ」


「あぁ。その言い方は無いでしょう」


「二千円ならデー野口。諭吉と見分けが付かないなんて、地上では致命傷ですよ」


「諭吉? それは知らなかったよ。なんとなく色で決めていたんよねぇ」


「諭吉ぁんは『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり。されば天より人を生ずるには、万人は万人皆同じ位にして、生れながら貴賎上下の差別なく、万物の霊たる身と心との働きをもって天地の間にあるよろずの物を資り、もって衣食住の用を達し、自由自在、互いに人の妨げをなさずして各々安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。されども今広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥との相違あるに似たるは何ぞや』と学問のすゝめで言った、慶応の創始者ですよ」


「そうなんだぁ。イッケイさんもそうだけど、地上では当たり前の事を全力で思いっきり言う人が人気者なんだね。あぁ、一万八千八百円かぁ……」


「めぐみ姐さん、お札の事、ちゃんと覚えておいて下さいね」


「うん。和樹さんが何時も言っているでしょう?『未だ試みずして、先に疑うものは、勇者ではない』なっ」


「知ってるじゃないですかっ!」


「あははははは」


「あははははは」


 

 ―― 一月十五日 赤口 戊辰


 喜多見神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「はぁ、忙し、忙し。今日は七海ちゃんのお誕生日。イッケイさんのサプライズ企画で小林シェフのビストロ・フルール・エ・レーヴでプチ・パーティなんだもんね」


「めぐみ姐さん、駿先輩も行くんでしょう?」


「との当然ですっ!」


「良いなぁ……僕も行っても良いですか?」


「勿論よ。そのつもりで予約してあるから」


「マジっすかぁ! やったー、パーリィ、パーリィ、パーリィ・ピーポーっ!」


「あら? そんなに嬉しい? じゃあ、今度、ピースケちゃんのお誕生日もしてア・ゲ・ル」


「きゃっほ――い。嬉しいな、楽しいな」



 めぐみは、永遠の十六歳が、たった一年で夢見る十七歳になる事をしみじみと感じていた。そこへ、丸山麗華が参拝にやって来た――







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