恋の女神は暗殺者。
ピースケは黙り込み、駿はため息を吐き、めぐみは途方に暮れていた。だが、和樹は冷静さを取り戻していた――
「ピースケ。その量子コンピューターとやらが、いったい何だと言うのだ?」
「和樹兄貴。令和の日本はITの進化が著しく、AIが社会生活に欠かせない物になっています」
「だから何だ」
「和樹ちゃん、落ち着いて」
「心配するな。オレは至って冷静だ。コンピューターなど取るに足らん」
「いや、ピースケちゃんの言う様に、これから人間の仕事がAIに取って代わられて、そのスピードはとても速い。もしかすると、レプティリアンとAIで同時に攻めている……と云う事なのかな?」
「駿先輩。それが一番、腑に落ちます……レプティリアンが国籍を乗っ取り、民主主義の根幹である選挙をコントロールして、奴等に都合の良い様々な法案を通すつもりでしょう。それと同時にAIが人間にとって代わり、どんどん非正規労働者が増えて、乗っ取らなくても支配出来る人間を量産する気なのではないかと……」
「やれやれ、事実は小説より奇なりと言うけど、恐れ入ったね。レプティリアンと奴隷化した人間の二本柱で支配とコントロールを盤石な物にするって訳か……」
「はい。でも、恐ろしいのは次のターンなのです。僕はW・S・U・Sで闇バイトをしている時に、ノンフィクション・ライターの鈴木と言う男に声を掛けられ、インタビューを受けた事が有るのです。でも、その時、僕は何も知りませんでしたから……」
「その人は、さっき言っていた、行方不明の人って事?」
「ええ。量子コンピューターに関わる企業リストや、名簿を見せられて、知っている者が居るかとか、写真を見せらたりしたのですが……談合や贈賄、大人の事情なんて、僕にはどうでも良い事でしたから。あの時、気付いていれば……まさかこんな事に繋がるなんて、思ってもみませんでしたから……」
和樹は、声が震え半ベソをかいているピースケを見て、冷静を通り越し感情が消えていた。そして、鋭い眼光で見据えた――
「なぁ、ピースケ。知っている事はハッキリと言え、その量子コンピューターで何をすると言いたいのだ?」
「はい。その新聞記者とノンフィクション・ライターの話から推測すると。量子コンピュータによる生産計画の『最適化』で人間の役割が無くなって行き、利用価値の無い不要な人間を抹殺するのではないかと……言い換えれば、無駄な人口を削減しようとしてるのです」
「何て事だ……オセロの様に白を黒にするだけかと思っていたけど、気が付いた時には……既に詰んでいるって訳か」
「はーっはっは。駿、ピースケ。降参するのは未だ早い。心配るな、必ず突破口が有る。さてと、オレは先に帰る。皆、ゆっくりして行くが良い。じゃあな」
「和樹兄貴……」
席を立ち、ひとり出口に向かって歩く和樹の背中に、これまで感じた事の無いオーラが出ていた――
「駿さん、和樹さん何だか凄いオーラが出ているよ……」
「和樹ちゃんは地上では無敵の軍神だからね。これまで、何の危機感も感じなかったのさ」
「でも、今は違う。いよいよ覚醒するのかもしれないわ……」
「めぐみ姐さん、和樹兄貴はAIの進化に足並を揃え、加速度的にパワーアップしている様です……でも、戦略を持たなければ勝ち目が無い事に変わりは有りませんよ」
「ピースケちゃん、あなたと初めて出会った時に、私の『縁結びの力』で色んな神様が集って来るって言っていたでしょう? きっと、未だ見ぬ神と出会うに違いないわ……」
その頃、W・S・U・S本部では関田に頭を叩かれまくって、時折バグってしまうマックスの修理が完了した――
「ふぅ。これで完璧だ……このマックスが地球を、人類を救う救世主だと云う事を世間はおろか、職員達も知るまい。フッフッフッフフ、ハーッハッハッハッハ」
マックスはバッテリー不要で大気中のチリと温度をエネルギー源とする、環境に優しくSDGsを高いレベルで達成していた。十二秒ほどで人間が意識が戻る様に自動復帰をした――
「ショチョウ、シュウリシテ、イタダキ、アリガトウゴザイマス」
「マックス。気分はどうだ?」
「スコブル、カイチョウデス」
「それは良かった。お前を頼りにしているぞ」
「アリガトウゴザイマス。サッソクデスガ、ホウコクガ、アリマス、」
「おぉっ、流石だマックスだ。報告とは何だい?」
「ハイ。タケミカズチガ、ショチョウト、W・S・U・Sノ、ソンザイニ、キガツキ、カクセイシタモヨウ」
「フッ。まぁ、気付いたところで手遅れだ。既に詰んでいるのだ」
「センキョウハ、ヒャクパーセント、バンジャクトハ、イエマセン」
「何っ! それは一体、どういう事だっ!」
「ゲンジョウデハ、ワカリマセン。データガ、フソクシテ、イマス」
「データが不足? もしや……それは、縁結命の事か?」
「ハイ。エニシムスビノミコトノ、ノウリョクハ、ミチスウデス」
「マックス、縁結命の既知のデータを読み上げてくれ」
「ハイ。エニシムスビノミコト。シユッセイハ、テンノクニ。チチハハ、トモニ、フメイ。テンノクニノ、ハタラキカタ、カイカクニヨリ、チジョウニ、ハケンサレマシタ」
「ん? 理由無く降臨はするはずが無い……マックス、地上勤務になった原因は何なのだ?」
「ハイ。シシャト、セイジャノ、エンヲ、ムスンデシマッタコトガ、ヤオヨロズノ、カミガミタチノ、ゲキリンニフレ、サセントイウカタチノ、ツイホウ、ショブンヲウケ、コンニチニ、イタル」
「ふーむ……なるほど。マックス、左遷という形の追放は八百万の神々達を欺くカムフラージュだと仮説を立てるとどうなる?」
「ハイ。オソラク、アメクニヌシノオオカミガ、オクリコンダ、アサシン」
「暗殺者だとっ! クソッ、天国主大神めっ、それならば、此方が縁結命を暗殺してやるまでだっ!」
南方は武御雷神の神力を恐れ、徹底的な根回しをしていたので、イレギュラーなめぐみの存在に苛立ちを隠せなかった――
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