作戦会議は藪の中。
めぐみとピースケはピリついた空気を和ませ、仲直りさせるために、ご機嫌を取った――
「僕ぁ、典子さんが羨ましいなぁ。階層化する、この日本で預金が二千万円以上あるなんて……」
「そうですよ、典子さん、リッチになったんですからぁ、ほら『金持ち喧嘩せず』って云うじゃないですか」
「だって、吾郎さんに騙されているとかさ、散々言われてさぁ、私だって頭に来るわよ……でも、めぐみさんの言う通り。結局、お金を持ち慣れていないから、直ぐにカッとしちゃうのね。でも、庶民感覚は失いたくないわ」
「庶民で、悪かったですよぉ、いちいち、嫌味なんですよぉっ!」
「可愛くないわねっ! ふんっだっ!」
典子も紗耶香も昼食の頃には、何時もの様に仲直りしていた――
「朝は一触即発だったのに、ケロケロっとおかずの交換なんかしちゃったりして、仲が良い事……」
「めぐみ姐さん。結局、あのふたりは、お互いを思いやる気持ちに溢れているのですよ」
「まぁ、ピースケちゃんたらっ。すっかり此処に馴染んで、昔から知っていたみたいな口振りね。典子さんは紗耶香さんが可愛くて構い過ぎだし、沙耶さんは悟朗さんに典子さんを盗られた嫉妬混じりで心配している『お互いを思いやる気持ちに溢れている』と言うより、溢れすぎなのよっ!」
「Over・Flowでも良いじゃないですか。微笑ましいですよ。喧嘩するほど仲が良いと言うじゃありませんか」
ピースケの言葉に、めぐみに何かが降りて来た――
「何っ!」
「どうかしました……か?」
「そうか、それだっ! 喧嘩するほど仲が良いのは、あのふたりも一緒かもっ!」
「うわっ! 大きな声を出さないで下さいよ……ビックリしたなぁ。ところで、めぐみ姐さん、あのふたりとは?」
めぐみは神官からのミッションをピースケに話した――
「しかし、驚いたなぁ……W・S・U・Sのボスが建御名方神だったとは……」
「まぁ、意地っ張りで強情な建御名方神と、真直ぐで正義感が強すぎて乱暴な和樹さんも、きっと仲良くなれると思うの」
「めぐみ姐さん。建御名方神の地上戦は既にレプティリアンを展開しているのですよ? そんな、簡単には行きませんよ……和樹兄貴は力を付けて来て居ると言っても、まだまだ実力不足です。このまま行けば、リベンジ・マッチで完膚無きまでに叩きのめされて、一巻の終わりです」
「だからぁ、一巻が終わって、又、一巻。第二巻でも良くね?」
「はっ。めぐみ姐さん、短絡的過ぎますよ……しっかし、神官も和解して改心させろとか、もうっ、無茶振りも大概にしろと言いたいですねっ!『じゃあ、お前がやってみんかいっ!』って、怒鳴りたくなるレベルですよ。はい」
二人の口論を背後で聞いていた典子が、二人の肩に手を掛けた――
「二人共、仲良くしなければ駄目よ」
「そうですよぉ、仲よき事はぁ……」
「美しき哉」
「みんな違ってぇ……」
「みんな良いっ!」
‶ ねぇ――――っ、きゃっほ、きゃっほ――――ぉ ″
典子と紗耶香は楽しそうに午後の仕事に向かった――
「めぐみ姐さんも、あのふたりには負けます、と言うより負けてます」
「私は負けでも良いけど、和樹さんは負けるわけにはいかないよ。二人にも連絡しておかなくっちゃ」
めぐみは駿に連絡をして、仕事を終えたら、和樹と一緒に何時ものカフェで作戦会議をする事にした――
「いらっしゃいませぇ――――っ! スター・ブルックスへようこそっ! 何時ものですねっ。はぁ――いっ、畏まりましたぁ――っ!」
「うっ……まだ、何も言っていないのに……まぁ、良いか」
店内を見回すと、奥のコーナーで和樹が手を上げた――
「おーい。めぐみさん、コッチだよ」
「あっ、和樹さん、駿さん、お待たせ」
「めぐみさん。ピースケはしっかり働いている様だな」
「勿論。最早、頼られる存在になっていますから。ねぇ、ピースケちゃん」
「はい。お陰様で……」
「はっはっは。ピースケが『お陰様』だなんて、成長したな」
「めぐみちゃん、お疲れ。早速だけど、話を聞かせてもらえるかな?」
めぐみは今朝の神官からのメッセージを駿と和樹に話した――
「建御名方がこのオレに挑戦? リベンジ・マッチ? あーっはっはっは。笑わせるな。出雲国から逃げ出し、信濃国から一歩も出ないと約束をしたのに破りやがって。タダじゃ済まさないぞっ! 両手両足をもぎ取って、達磨にしてやるっ!」
「和樹さん、熱くならないで。建御名方神こと、地上名、南方武を改心させるのがミッションなのよっ!」
「ふんっ! 改心する様なタマじゃあないね……」
「めぐみちゃん、和樹ちゃんの言う通りだよ。諏訪の龍蛇神が、八岐大蛇と結びつくとはねぇ……繁殖させて人類を支配するつもりなんだ。リベンジ・マッチはガチだと思うよ」
「めぐみ姐さん。駿先輩の言う通りです。そして、言いにくい事ですけど……ハッキリと言いますね。和樹兄貴には勝ち目が有りません。ですから、何とか話し合いで解決しなければなりません」
「おいっ! ピースケ。お前はどっちの味方だ? この俺に勝ち目が無いだと? 笑わせるんじゃあ無いっ!」
「いいえ。兄貴は天の国から地上に来て、247%のパワー・アップを果たしています……そして、南方武は兄貴の三分の一程度の力しか有りません」
「あぁ、そうだ。分かっているじゃないか。負ける気が全くしないね」
「いいえ。分かっていないのは和樹兄貴の方です。南方武は三千から五千、下手をすると八千人以上のレプティリアンと云う兵隊を保有しています。兵站で勝ち目は有りませんよ……」
「うーむ。和樹ちゃんのライトニング・サンダー・ボルトを躱す術を身に着けているからね。ピースケちゃんの言う通り、我々に勝ち目は全く無いね」
コーヒーの香りが漂う、明るく楽しい雰囲気の中で、めぐみ達のコーナーだけが暗く澱んでいた――
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