喧嘩するほど仲が良い?
W・S・U・Sの職員達は、死んだはずの金田哲也がそこに居る事に驚きを禁じ得なかった。そして、誰かが何かを言う前に、本人が口を開いた――
「所長、皆さん。夜遅くまで、お疲れ様です。いやぁ、参りましたよ。大帝国ホテルで目が覚めましてね……」
「目、目が覚めた……だと?」
職員達に緊張が走った――
「えぇ。でも、何処だと思います? ベッドの上ではなく、なんと、地下駐車場のコンクリート上だったのです。で……不思議な事に何故そんな所に居たのか……いくら思い出そうとしても……どうしても、思い出せないのです。ここ何週間の記憶が……全く無いのですよ」
「そうか……記憶が無いのか。今日、君は博士と会食のために大帝国ホテルに行ったのだ。きっと飲み過ぎて、寝てしまったのだろう。念のため脳の検査をした方が良いだろう……」
「いえ。それには及びません。何週間か記憶が無いだけで、頭はスッキリとして、体は軽く、信じられないほど快調なのですから。それでは私は研究に戻ります」
金田は所長と職員に軽く会釈をして、自分の研究室に向かった――
「マックス、金田の状態は?」
「ハイ。ショチョウ、カネダハ、イタッテ、ケンコウデス。カレノコトバニ、ウソハアリマセン。ノウハノ、ミダレモ、アリマセンデシタ」
「記憶が戻る可能性は何パーセントだ?」
「ハイ。コンゴ、キオクガ、モドル、カノウセイハ、ゼロパーセント、デス」
「そうか。それならこのまま国籍乗っ取りと繁殖の研究を続けさせよう」
「ハイ、ショチョウ。タダシ、カネダハ、ウソヲ、ツイテ、イナイ、ダケデ、スデニ、キオクガ、モドッテイル、カノウセイハ、ヒテイ、デキマセン」
「記憶が戻っている? なるほど……言葉に『嘘』は無いか。奴め、何か企んでいるな。金田を監視しろっ!」
「はいっ!」
W・S・U・Sがザワついている頃、めぐみ達を乗せた車はアパートの前に到着した――
‶ ブォ――――――ン、キイ――――――ィッ! ″
「めぐみちゃん、今日は楽しかった。お疲れ様」
「どういたしまして。おやすみなさい」
「駿ちゃん、おやすみんゴ」
「あぁ、七海ちゃん、お休みなさい」
七海が車を降りる時に、駿が助手席のドアを開けてあげようと腕を伸ばして、顔を近づけ、ほっぺにキスをした――
「きゃはっ、眠れなくなっちゃたりなんか、しちゃったりして。ぐふっ」
「良かったわね、七海ちゃん。和樹さん、おやすみなさい。ピースケちゃん、明日も早いからすぐに寝てね。じゃあね」
駿の車を見送ると七海とふたりで部屋に戻り、お風呂に入ると直ぐに眠りについた――
―― 一月十一日 友引 甲子
めぐみはスッキリと目覚めると、七海を見送り、部屋の掃除をして部屋を出た――
「あれ? 何だろコレ? 七海ちゃんを見送った時には気が付かなかったけど……」
ドアを開けると死角になる場所に小包が置いてあった――
「置き配ってヤツね。とりあえず、確認確認……」
小包みを開けると、そこにはテープレコーダーが入っていた――
「テープレコーダー? 昭和かよっ!」
めぐみが呟くと同時に自動でスイッチがオンになり再生を始めた――
‶ おはよう、めぐみ君。クロノ・ウォッチとバトル・スーツの感想は如何かな? さて、スキルアップのガイドは今後はアプリとなり、質問はchatGPTが受け付けるのでそのつもりで ″
‶ 同封した写真の男はW・S・U・Sの所長、南方武。御存じの通り建御名方神の地上での名だ。『国護り』でタケミカズチとの戦いに敗れた彼は、リベンジ・マッチをして地上の国の統治権を奪還する気だ ″
‶ 君の任務は彼を説得し、改心させることだ ″
‶ 例によって君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないから、そのつもりで。尚、この録音テープは自動的に消滅する。成功を祈る ″
‶ シュシュゥ――――――ゥ、ポワンッ ″
「あ。消えた。神官も暇だねぇ。手が込んでると云うか……凝っているけど、肝心な事はザックリなんだから。でも、まぁ、結局、悪神の正体が分かったから良しとしよう……って、良い訳ないじゃんっ! 説得して改心させるなんて、出来るかなぁ……」
‶ 出っ来るかなっ、出っ来るかなっ、ふん、ふふん、ふふ ″
「到着っ! 今日は鼻歌が、まぁまぁ好調」
めぐみが社務所の更衣室で着替えて授与所に行くと、何時もと違う香りがした――
「おざっす! あれれれ? なんだか良い匂いがする……」
「おっはー、めぐみさん、典子さんがぁ、浮かれているんですよぉ」
「浮かれているって……どうかしたんですか?」
「あら? めぐみさん、おはよう」
「めぐみ姐さん、お早う御座いますっ!」
「あっ、典子さん良い匂いがする。どうしたんですか?」
「えぇっ、そう? そんなに匂うかしら? シャワーで落としたはずなのよ。めぐみさんが言うなら、本当なのね」
「典子さん、私がぁ、嘘なんてぇ、言う訳がぁ、無いんですよぉ」
「それが嘘でしょうっ!」
めぐみは典子と紗耶香が火花を散らしているので、ピースケに尋ねた――
「何っ? どーなってんのよっ!」
「めぐみ姐さん、典子さんは吾郎さんから例の現金二千万を受け取ったのです」
「二千万っ! 倍にして、色を付けたのね。良かったじゃないのぉっ!」
「それが、紗耶香さんの不機嫌の原因なんです……」
「はぁ? 何で、典子さんがリッチで幸せになって、紗耶香さんが不機嫌になるのよぉーっ!」
「ですから、典子さんが余計な事を言ってしまったのです」
「余計な事? 何よ……」
「After・fiveにフランス製の高級な香水をつけていたリッチな自分に、紗耶香さんが嫉妬していると……」
「あっ。それはダメでしょ、それは典子さんが悪いよぉー」
「聞こえているわよ。ピースケさん、めぐみさんに余計な事は言わなくて良いのよっ!」
「はいっ。サーセン……」
「典子さん、ちょっとリッチになったからって、同僚を見下すのは良く無いですよ」
「見下してなんか、いませんよぉ―――だっ! 紗耶香さんが小姑みたいに私のやる事成す事、一々、注文付けるから、言い返してやっただけよっ!」
「典子さんはぁ、神に仕える巫女のぉ、自覚がぁ、足りないんですよぉ、香水なんかつけて遊んでいるのがぁ、悪いんですよぉ」
「何よっ!」
二人は睨み合い、お互いに一歩も譲らなかった――
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