紳士協定は悪の臭い。
―― W・S・U・S本部
所長は不審者の確保はおろか、特定すら出来ない事に苛立ちを感じていた――
「ええいっ、何をモタモタしているのだっ! 未だに特定すら出来ないとは……」
「ショチョウ、イエ、ゴシュジンサマ。トクテイガ、デキマシタ」
「おぉっ! マックス。君は頼りになるなぁ。人間と来た日には雁首揃えて何も出来やしない。それで、あのエネルギーを放出する不審者は何者だね?」
「ハイ。ヒトリハ『ピースケ』ト、ナノル、サイジャクシン。モウヒトリハ『ヒノヤギハヤオノカミ』モウヒトリハ『タケミカズチ』モウヒトリハ『エニシムスビノミコト』ソシテ、ニンゲンガヒトリイマス」
「でかしたぞ、マックス。やはり奴らか……しかし、よりにもよって何故こんなに神が集まっているのだ。そして『人間がひとり居る』とはどう云う事だ?」
「ハイ、ゴシュジンサマ、セツメイシマス。スベテハ『エニシムスビノミコト』ノ、エンムスビニ、ヨルモノデス」
「はて……聞いた事の名前だ。マックス、その『エニシムスビノミコト』とは何者だ」
「ハイ、ゴシュジンサマ、オコタエシマス。アリトアラユルモノノ、エンヲ、ムスビツケル、チカラヲ、モツ、カミデス。サクネンノ、シガツニ、チジョウデビュー、コウリン、シテオリマス」
「うーむ、昨年の春頃からどうも地上の様子がおかしいと思っていたが『エニシムスビノミコト』の神力で神が集まり始めていたということか……」
「ハイ、ゴシュジンサマ、エニシムスビノミコトハ、テンノクニヨリ、アメクニヌシノオオカミノ、ニンメイニヨリ、チジョウキンムニ、ナリマシタガ、ワレワレニトッテハ……」
「我々にとっては何だ? マックス、マックスっ!」
「ワレワレニトッテハ……ワレワレニト……ワレニトッテハ……ワレワワレワレニトッテハ……」
「クソッ、関田の奴が頭をバンバン叩いたせいで、時折バグるな……」
「ワレワレニトッテハ………………シカクデス!!」
「刺客だと……タケミカズチのライトニング・サンダー・ボルトを躱す事さえ出来る今、我々の戦略に死角は無いっ!」
「タケミカズチハ、ヒニヒニ、チカラヲ、ツケテイマス。ナニヨリ、エニシムスビノミコトト、チカラヲアワセルト、パワーガ、ニジキョクセンテキニ、ゾウダイシマス」
「マックス、エニシムスビノミコトの情報をもっと集めてくれ。クソッ、タケミカズチめ、親の七光りで好い気になりおって……此処で会ったが千年目、今度という今度は完膚なきまでに叩きのめしやる」
大和田と関田の会食も終わり、新年会もお開きとなった――
「それでは先生、本日は貴重な時間を有難う御座いました。又、研究、調査に進展が有りましたらご連絡しますので……」
「あぁ、大いに期待していますよ。それより、あまり焦らず無理をせず、じっくりとやる事だ。体を壊したら何もならないからね」
「はい。それでは失礼します」
大和田は迎えの車に乗り、関田は待たせていたハイヤーで帰宅した――
「全く、バカバカしい。やれやれだぜ。何の手掛かりも掴めなかったな」
「いいえ。和樹兄貴、関田と大和田の会話から、どうやら八岐大蛇が関係している事が読み取れました。そして、レプティリアン・ヒューマノイドの繁殖もその事が関係しているようです」
「和樹ちゃん、ピースケちゃんの予測通りの様だよ。あれを見なよ、ほら」
和樹達の居る地下駐車場は、何時の間にか出入口や柱の陰、エレベーター周囲にW・S・U・Sの職員に監視されていた-―
「ほう。随分、大袈裟な歓迎だな……」
「和樹兄貴、ヤバいですよ。彼奴らは何をしでかすか分かりません……」
職員の中から、リーダーらしき男が前に出て歩いて来た――
「今晩は、諸君。我々の事は既に知っているな」
「あぁ、知っているとも。それが何か?」
「フン、W・S・U・Sの事を嗅ぎ回っているそうだな」
「嗅ぎ回られたら、何か困る事でも有るのかい?」
「フッ、火之夜藝速男神地上では火野柳駿を名乗っているそうだな。ハッハハ」
「何が可笑しいっ!」
「おっと、そうカッカするな。子供じゃあるまいし」
「随分と態度のデカい野郎だぜ、この俺のサンダー・ショットをお見舞いしてやろうかっ!」
「武御雷神、地上名は竹見和樹。お前ら全員、照会済みだ。腹の探り合いやハッタリ、意地の張り合いは時間の無駄だ。どうだ? 手短に、紳士的に行こうじゃないか」
「紳士的ねぇ。良いだろう、お前らの要求は何だ」
「簡単な事だ。この件から手を引け。それだけで良い」
「お前らの都合の良い世界にする訳には行かないね……」
「何故だ。神にとって善も悪も表裏一体の物。悪が支配しようが、どうでも良い事だろ?」
「確かに、神にとってはどうでも良い事だ」
「聞き分けが良いな。では、商談成立と云う事で。くれぐれも余計な真似はしない事だ。無駄に時間を使い、騒がしくなるだけだからな」
職員のリーダーが背中を向け立ち去ろうとしたその時、駿が声を掛けた――
「どうでも良いなら、善が支配しても良いんじゃないのかな? 神にとってどうでも良い事でも、人間にとっては死活問題って事もあるしねぇ」
「そうだな。駿、お前の言う通りだ。どうでも良い事なのだからな」
職員のリーダーが振り向くと、形相が変わり、瞳が赤く光っていた――
「何だと?」
「うわぁっ! 兄貴、先輩……ヤヴァイですってっ!」
「紳士的にと言っているのに……理解力の無い奴はコレだから嫌なんだぁ。痛い目に合わなければ『ゴメンナサイ』が出来ないのだからなぁ、時間ばかり、無駄になる」
リーダーが口笛を吹いて合図をすると、地下駐車場は隠れていた職員で包囲され、絶体絶命になった――
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