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黒く塗り潰せ。

 大和田が係の者に案内されて個室の扉を開けると、久しぶりの再会となった――


「いやぁ、大和田君。久しぶりだね、元気そうで何よりだ」


「関田先生、御無沙汰しております。先生も精力的に活動されている様で……何よりです」


 関田は大和田の表情筋の動きを見て、洗脳されているか、口止めをされていると察知した。岸田や特定の団体の話はしない事にして、あくまでも自分の調査について聞く事にした――


「大和田君。君に依頼した調査の結果を教えてくれないか?」


「はぁ……」


「大谷家の御当主は気さくな良い人だっただろ?」


「はい。食べきれない程、料理を振舞って頂きましたよ」


「あっはっは、そうだろう。ところで……『例のお酒』は飲んだかい?」


 大和田の目の色が変わった――


「先生。例のお酒と云うのは……今、女性に大人気の『出雲ワイン』ですね。もちろん飲みましたよ」


「そうかい。あれは中々美味しかっただろ? はっはっは」


 大和田は関田が全てを察知して、アイ・コンタクトと間接的な表現で核心に触れない様にしている事を悟った――


「しかし、先生。鳥取、島根の料理も美味ですが、此処の料理は格別ですね。先付けは目に美味しく、揚げ物は香りが素晴らしく、食感が最高です」


「はっはっは。同感だね」


「あの『出雲ワイン』と同様に五感の全てを満足させてくれます」


 大和田の表情に関田の顔色が変わった――


「あぁ……」


「あのワインを飲んだ時、細胞が生き返った様な……身体の内側が熱くなりましたよ」


「本当に、君の言う通りだ……」


「まぁ、口当たりが良いので、単に飲み過ぎて酔っ払っただけでしょうけどね」


「あっはっはっは。私も酔っ払って、気を失う様に寝てしまったからなぁ」



 関田と大和田は八岐大蛇ヤマタノオロチの血の核心に触れる会話をしなくとも、お互いに理解している事を確認した――



「おいっ! ピースケ、隣の様子はどうだ」


「和樹兄貴。大和田にはマイクロチップが埋め込まれて、GPSで行動が監視されているだけでは無く、洗脳され薬を飲まされている可能性が有ります」


「何だって、それじゃあ何の手掛かりも掴めないではないかっ! こうなったら、監視役をサンダー・ショットで始末するか」


「焦らないで下さい、此処までの会話の流れから、関田も大和田のカバンの中に小型のカメラと会話録音する機材が入っていることは承知の上で会話しています」


「ピースケちゃん、ふたりの会話はW・S・U・Sに筒抜けを前提にしているって事だね?」


「はい。類推するならば、あのふたりにしか分からない特別な研究の成果を、世間話の様に他者には理解できないように話していると思われます」



 隣の個室の状況を固唾を飲んで見守る三人を余所に、めぐみと七海は舌鼓を打ちまくっていた――


「めぐみお姉ちゃん、これ、ヤヴァイよ。クッソ旨いよ」


「確かに。しかも、演出も季節感が有って綺麗だから食べるのが勿体無いね」


「もう既に食べ切ってんじゃんよぉー」


「早く次の料理が来ないかなぁ……」


「めぐみ姐さん、次の料理が来る前に奴らが来たようです。足音から察するに十人、いや、それ以上かも……」


「ふーん。ピースケちゃん、奴らも新年会なのかしら?」


「そんなんじゃぁ、有りませんよっ! もしかしたら、何か起こるかもしれません」


 〝 カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッツ! パタ、パタ、パタ、パタ、パタ、パタッ ″



「諸君、御苦労。怪しい者は居ないか?」


「ハッ、今の所、不審者は見当たりません」


「付近に『特殊なエネルギーを放出している存在が確認された』と連絡が有った」


「しかし建物の内部も外部も、怪しい者など誰一人としておりませんが……」


「所長からの命令だ、至急探し出せっ!」


「はいっ!」



 W・S・U・Sの職員達は血眼になって探したが、どこにも見当たらなかった――


「隊長。残された場所は店内だけです、大和田研究員の隣に有るふたつの個室のどちらかだと思われます」


「うむ。店内に潜入して待機して居たと云う訳だな。一体、何者だろうか……まぁ、何にしても袋の鼠だ。フッフッフ」



 めぐみ達の楽しい新年会も、先付・揚物・椀物・造り・焼物・冷物・煮物・食事と続き、残すは甘味で〆るだけだった――


「ふぅ。食った食った。めぐみお姉ちゃん、デザート食ったら、そのあとどーするん?」


「え? 何よ、まだ何処かへ行く気なの。そうさなぁ……ボーリングかカラオケやってからのー、ラーメンかなぁ」


「それ、乗ったっ!」


「まぁ、新年会だし、今日は思いっきりハジケるよんっ!」


 めぐみと七海がハイタッチをしてノリノリなのとは対照的にピースケの表情に緊張が走った――



「駿先輩、和樹兄貴、めぐみ姐さん……奴らが動き出しました」


「ピースケ、どう対処するのだ?」


「ピースケちゃん、顔色が良くないけど、もしかして……奴らはここへ向かっているとか?」


「はい。何故か分かりませんが、此処をターゲットにしています」


「どう云う事? 何で此処へ?」


「奴らの科学技術力の成せる業なのか、僕たちが特定されてしまっているみたいです……」


「ふんっ! 神に太刀打ちできるとでも思っているのか。人間と云うのは愚かだな」


「和樹兄貴。もしかすると敵は人間ではないのかもしれません」


「えぇっ!」


「ピースケちゃん、それじゃあ、奴らのボスは……」


「地上にて……善を悪へ塗り替える悪神に間違いないかと思われます……」


「けっ、子猫の様に震えている場合かっ! そんな奴、このオレが抹殺してやるから心配するなっ!」



 ピースケは顔色が青褪め、唇が紫色になっていた。全ての善をオセロの様にひっくり返し悪で塗り替え、真っ黒な暗黒世界にする力を持つ存在に怯えていた――

 




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