表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
219/472

最後のメール。

 ―― 一月六日 先負 己未


 あれから関田は書斎に閉じ籠り、思考の沼に嵌まっていた。店主から頂いた三冊の史料。その内容は郷土史には御祭りの事が記され、もう一冊は表題に『因幡の白兎-外伝』とあり、目を通すと調べるに値しないと見向きもしなかった。だが、最後の一冊は大谷家と村人を含む、たたらの製法に関係したものだった――


「う―む。何度、読み返しても分からない……技術内容も難し過ぎて分からないが、この紙の材質は時代が特定出来ない、その上、書かれている書体は大変古い物だが、記されている内容は産業革命以降に思えて仕方が無い……時代がバラバラに感じてしまう……それとも、これ程の技術が既に日本には有ったと云う事なのだろうか……?」


 〝 コン、コン、コンッ! ″


「あなた。岸田先生からお電話です」


「分かった。今行くよ」


 書斎を出て階下へ行き、電話に出た――



「あー、もしもし、関田君。元気かね? 電話を頂いたそうだが、丁度、学会に出席していたものだから、済まなかったね。それで、大和田君には会えたかね?」


「いいえ、会えませんでしたよ。W・S・U・Sが、のらりくらりと嘘を吐くものですからねぇ、私も柄にも無くカッとなりましてねぇ。それで『警察に捜索願いを出しますよっ!』と言ったら……」


「ほう。そしたら、W・S・U・Sは何と?」


「急に態度を変えましてねぇ。何名か職員が出て来て。それで、結局、こちらに会いに来ると云う事で決着をしたのですが……」


「はぁ――ぁ、それは大したものだ。そうかい、会いに来るのか。良かったではないか。はっはっは」


「岸田君。笑い事では有りませんよ。君に『折り返す』と言ったきり音信不通なのだから、会いに来る保証は有りませんよ」


「ふーむ。連絡が来ない可能性も否定出来ないと云う事かぁ……」


「なぁ。岸田君。君……何かこの私に隠し事は無いか? いや、何か隠しているね?」


「うーん……仕方が有るまい。君の耳に入れたくは無かったのだが、どうもW・S・U・Sと云う組織が変節と云うのか変質と云うべきか……特定の宗教や政治団体と関係を強めているのだよ」


「それを指摘した君が、吊るし上げられて、出入り禁止なった話なら聞いたよ。資本主義である以上、研究にはお金と、それ以上に莫大な時間が必要なのだから、特定の団体に有利な研究をする事も仕方の無い事ですよ。今更、君がそんな事を言うなんてねぇ……しかし、大和田君は一体、何か特別な研究でもしているのかい?」


「君に、こんな話をすると笑われると思って、今まで黙っていたのだが……どうやら軍事に関わる事の様なんだ」


「軍事とは?」 


「最新兵器の開発が関係しているらしいのだよ」


「おいおい、島根や鳥取県人のミトコンドリアの研究が兵器に結びつくとは、到底、思えないがね。あっはっはっは」



 関田は八岐大蛇ヤマタノオロチ酒の事が脳裏を過った――



「関田君。詳しい事は私も分からないのだよ。だからこそ、大和田君に会って話を聞きたかったんだ」


「あぁ、分かったよ。しかし、大和田君がそんな物に関わっていたとしたら……もう、一生会えないかもしれないなぁ……」


「おいっ! 脅かさないでくれよ。あれ以来、ご家族も連絡が取れないそうなのだがW・S・U・Sから『重要な研究のリーダーに抜擢された』と連絡が有ったそうで、不信感は抱いていないのだよ。まぁ、私の取り越し苦労で済めば良いのだが……」


「うーん、怪しいと云えば、怪しいのだが……大和田君に会って話せば、全て解決するだろう。会えない時は『捜索を願いを出す』と言い切って来たのだ。あまり心配しない方が良いよ」


「あぁ、そうするよ。関田君、ここまで話したのだから大和田君から最後に貰ったメールを君に転送しておくよ。もし、会えたら私にも連絡をくれる様に伝えてくれ給え。では」



 電話を切って書斎に戻り、暫くすると岸田からメールが届いた。関田はそのメールを開いた――




 岸田先生 先日は有難う御座いました。


 まさか、調査の依頼主が関田正彦先生だとは思いませんでした。


 私の人生で、これ程、嬉しい日は有りませんでした。


 お陰様で、採取した大谷家当主の血液検査が無事終了しました。


 驚いたのは、この血液中に人類史上初めての発見が有った事です。


 類稀な性質を持っており、驚愕しております。


 詳しい事は話せませんが


 この血液を輸血したマウスがカピバラに迫るほど巨大化、成長しました。


 この血液は老化を止めるどころか若返りをする程なのです。


 僕は高齢者向けの『不老不死の薬』の研究と並行して


 医者の要らない『完全体』の研究をするプロジェクト・リーダーになりました。


 信じられない程の、大抜擢です。


 でも、あまり嬉しくは有りません。


 何故なら、研究費の拠出先が軍産複合体と宗教団体なのです。


 所長に理由を聞くと、製薬会社と医療機関は


 この研究が医療関係者の失業を意味していて


 猛反対だからだと説明を受けました。


 半分は納得出来ましたが、半分は疑っています。

 

 人間兵器の大量生産と云えば、荒唐無稽に聞こえるかもしれません。


 ですが、この研究を一部の人間が独占し、悪用される事を


 僕は恐れています



                        大和田健三


 

 関田はそのメールを読んで、脳内で散乱していた点と線が繋がった。そして、嗜好の沼から飛び出した――


「これは一大事だっ! 八岐大蛇ヤマタノオロチの血液では無く、御当主の血液を採取していたとは……動物実験も済み、臨床試験に入ろうものなら……人間兵器とはつまり、特定の人間を改造して不死身の人間兵器を作ると云う事か……」


 関田は史料を手に取ると、三冊を開いて並べた――


 〝 村人は、その酒を酌み交わし 三日三晩 休む事無く 打ち続け 踊り続けた ″   


 〝 海水では傷口が酷く痛むが 三つの岩と二つの池 湧き出でたる 清水にて 傷口を洗うが良い ″


 〝 その鋼で出来た鏃《鏃》 千里を飛び 岩をも貫き通す 力有り ″



「この、たたらの製法で作れるのは今までにない超合金であり、祭りの記録はその手順を解説した物だっ! そして、この『因幡の白兎-外伝』は材料の調達と加工について暗号化されているに違いないっ!」



 関田は自分自身が若返り、それ以上の力が漲っている事に


 まだ、気付いていなかった――






お読み頂き有難う御座います。


気に入って頂けたなら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と


ブックマークも頂けると嬉しいです。


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ