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W・S・U・S・の嘘。

 AIロボットのモニターはクルクル回るばかりで埒が明かず、いつも穏やかで紳士的な関田も、とうとう堪忍袋の緒が切れた――


「ちょっと君っ! 来客に対して、こんな対応をするなんて失礼ではないかっ! こんなオモチャで人をからかっているのですかっ!」


 関田はAIロボットのマックスの頭をバンバン叩いて怒りを露わにした――


「申し訳ありません、私たち職員は直接、来客と接触する事は禁じられています。規則なのです」


「規則であっても例外は有りますよっ! 研究員の大和田君はもう半年も行方が分からず、岸田先生に折り返しますと言ったきり、連絡もしていませんね。調査を依頼した本人が来ているのに、席を外せないと言ってみたり、出張だと言ってみたり、どっちなんですか? 上の者を呼んで来なさいっ! 呼んで来ないなら此方にも考えが有りますっ!」


「……はぁ、あの、考えとは……どの様な……」


「警察に消息不明の届け出をします。不服が有りますか?」


「あ……いえ、少々お待ち下さい……」


 職員は血相を変えて、施設の中に消えて行った――



「所長っ! 大変です、関田正彦氏が面会に来ています」


「慌てるな。マックスが適当にあしらってくれるだろう」


「いえ、そのマックスの頭をバンバン叩いて『こんなオモチャで来客の対応をするなんて失礼だ』と、上の者を呼んで来いと……もし呼んで来ないなら、警察に捜索願いを出すと申しておりまして……」


「マックスをオモチャ呼ばわりとは……不愉快な奴め」


 所長の周りには数人の職員が居た。その中の一人が進言した――


「所長、今は大事な時です。面倒になってはいけません。対応を」


「うむ。元はと云えば関田の調査依頼が有って、手に入れる事が出来た手柄だが……」


「所長、面倒事は綺麗サッパリと解決したいものです。関田を始末しましょう」


「いや、待て。急いては事を仕損じる。今、警察沙汰や騒ぎにされては、世間体が良くない。『彼奴ヤツら』に『何事ですか?』かと首を突っ込まれても対応が面倒だ……一旦、監視を付けて外出させて関田と岸田を黙らせるのが……得策であろう」


「御意」


「御意にございます」



 職員達は正面玄関の横のラウンジに待たせていた関田の元へ向かった――


「お待たせして申し訳ありません。関田先生、それで……」


「おっほん、大和田君は此処に居るのですか、居ないのですかっ! 出張中なら直接、連絡しますから、出張先を教えなさいっ!」


 AIロボットに適当な対応をされ、ロビーで待たされた関田は激高した。すると職員の一人が話し掛けた――


「いやぁ――っ、これはこれは関田先生、当方の対応に粗相が有った事をお詫びします。この通りです」


 職員達は一列に並んで、関田に対して深々と頭を下げた――


「関田先生、捜索願いとは穏やかでは有りませんなぁ。私共W・S・U・Sは日本の科学技術、先端技術を結集しております」


「えぇ、もちろん存じ上げております。ですが……」


「関田先生、その性質上、産業スパイや情報漏洩が命取りになります」


「だから、何ですか」


「関田先生、大和田君は大変、優秀な研究者です。彼は極秘の研究をしており、その内容、居場所についてはお答え出来ないのです。我が国にはスパイ防止法も有りませんしねぇ……」


「規則ですか?」


「はい。規則の為、先生に失礼な対応をした事を、どうかご理解下さい」


「そうですか。そう云う事なら仕方が有りませんねぇ」


 職員達は、関田が穏やかな表情に戻った事で安堵した――


「只、極秘であろうと居場所を教えられなくても一向に構いません。連絡くらいは出来ますよね?」


 再び厳しい表情になった関田の目を見て職員はニヤリと笑みを浮かべた――


「関田先生、勿論で御座います。近日中に日程のすり合わせをして、大和田君を其方に伺う様に手配を致しますので。それまで、お待ち頂けませんか?」


「うむ。分かりました。連絡無き場合、問答無用で警察に捜索願いを出しますので、それでよろしいですね」


「はい。どうか信用して下さい」



 関田はW・S・U・Sを後にした。だが、帰路の電車の中でもモヤモヤは解消されるどころか、疑惑は深まって行った――


「あんな子供じみた嘘を吐かれるなんて……私も安く見られたものだ。先端技術である以上、全ては極秘だ。席を外せないだの、出張中等と嘘を吐く必要は無い……何か隠しているに違いない。まぁ、大和田君に会って話せば解決するだろう……」


 関田は国会図書館は無駄足になり、W・S・U・Sでは成果は無かったと暗澹たる思いになったが、古本屋で手に入れた史料を思い出して気持ちを切り替えた――


「そうだ……カッとなって忘れていたが、今日の成果は何と言ってもこの史料だな。忙しくなりそうだ……ふっふっふ」


 関田が機嫌を直して、前向きなっていると横から悲鳴が聞こえた――


 〝 キャァアアアア――――――――――ッ! ″


「この俺が優先席に座っちゃいけねぇのかよぉ。身体が不自由なんだよっ! 文句あんのかババアッ!」


「階段を駆け上がって、飛び込み乗車したクセに、何が不自由なのよ……」


「何だぁ、コラッ!」


 関田は怒りが込み上げて、若者を注意した――


「待ちなさい。大声を出して人騒がせですよ。慎みなさい」


「何だテメェは? ジジイはすっこんでろッ! 怪我すっぞ」


 関田は八岐大蛇ヤマタノオロチ酒の効果で、夜はビンビン、昼はギンギンになっていて、怒りを抑える事が出来なくなっていた――


「君は身体が不自由なのではなく、心とおつむが不自由な様だなぁ……」


「何だジジイ、痛い目に合わねぇと分かんねぇのかよ。舐めんなよ、やってやんよっ!」


 男が席から立ち上がろとした瞬間、関田の人差し指と中指が喉を突いた――


「うっがぁ、くっ、苦しい……息が出来ねぇ……」


「まだやるか?」


「ちっくしょ―――、覚えてやがれっ!」


 関田は高齢になると前頭葉が委縮して怒りっぽくなるから『深呼吸をして、5秒待って、アンガー・コントロールをして下さいね』と妻に言われていた。しかし、時々刻々と若返る身体が、反射的に行動をする事に気付いていなかった――






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