『運命の日』の謎。
昼休みが終わり、めぐみは落ち着きを取り戻していた。すると、懐かしい顔がふたつ、喜多美神社の鳥居をくぐって来た――
「ようっ! めぐみさん、久しぶり」
「めぐみさん。お久しぶりです」
〝 新年、明けましておめでとう御座います。今年も宜しくお願い致します ″
「誰かと思えば津村武史と陽菜さんじゃ有りませんか。お久しぶりですね。明けましておめでとうございまぁ――す」
「本当は年末に挨拶に来たかったのだけど、陽菜が忙しくてね。冬休みとは名ばかりで、年が明けてしまったのさ」
「ふーん。あんた、少し顔つきが変わったわね」
「そうかい? どんな風に?」
「少し、優しい顔になったような感じがする」
「うふふっ。めぐみさん、実は私達、報告が有るの‥‥‥」
「陽菜さん。そんな、あらたまって報告って‥‥‥もしや?」
「フッ。そうだよ。その、もしやなんだぁ。照れるなぁ‥‥‥」
「おめでたなのねっ! やったー! 重ね重ね、おめでとうございますっ! 陽菜さん良かったですねぇ。」
「ありがとうございます。今、七カ月なの‥‥‥」
「それも、これも、全てめぐみさんのお陰だよ。本当だったら、オレはもうこの世にいないんだからね‥‥‥」
「ちょっと、あんた。泣いてんの?」
「主人は、子供が出来た日から、やけに涙もろくなってしまって。可笑しいでしょう?」
「人は変われるって事ですよ。主人かぁ‥‥‥すっかり、良い夫婦におなりになって、めでたし、めでたし」
「めぐみさん、松の内は、こっちで過ごすつもりなんだ」
「そうなんだ。まぁ、あの殺風景な豪邸も陽菜さんと一緒に居れば住み心地も良いでしょう」
「あはははは、まぁね。それじゃあ、めぐみさん。また来るよ」
「さようなら。お腹の中にもう一人居るのだから、気を付けて帰ってね」
「あぁ、そうするよ。じゃぁ、さようなら」
子宝に恵まれ、三人になったふたりが去って行くと、ピースケがめぐみの袖を摘まんで引っ張った――
「えっ? 何よピースケちゃん。そんな真面目な顔をして、何か?」
「あのふたり。あのふたりは何者なのですか? めぐみ姐さんが何者か知っていますね?」
「えっ、あぁ‥‥‥まぁ。私が地上勤務になった切っ掛けのふたりだからね」
「地上勤務になった切っ掛け?」
「そう。あの男。津村武史が交通事故で死んで‥‥‥まぁ、正確には死ななかったんだけど『死者』を選択したの。その身辺整理で地上に同行した時に、陽菜さんと縁を結んでしまったの。神様の手違いで死ぬはずの者が死なず、死ななくて良い者が死ぬ事になり、それを解決するには、そうするしか無かったの。ところが、死者と生者の縁を結んだ事が、八百万の神々の逆鱗に触れて、左遷という形で天の国を追放されたって訳。分かった?」
「そうだったのですね‥‥‥」
「そう。それがどうかしたの?」
「いえ‥‥‥ところで、あのふたりは、此処へ何をしに来たのですか?」
「新年の挨拶と報告だけど?」
「報告とは?」
「夫婦の報告と云えば、決まっているじゃない。おめでた。御懐妊の報告よ」
それを聞いてピースケの顔色が変わった――
「何よ? あのふたりが恋の女神だと知っていたら都合が悪い事でも有るの? 他人に話したって誰も信じやしないわよ。安心しなさい」
「めぐみ姐さん。交通事故は神様の手違いでは無かったのかもしれません。しかし、今はその事はスルーしますっ! 遂にニュー・タイプの誕生ですっ!」
「ニュー・タイプ!?」
「そうですっ! 彼女の身籠った子供がニュー・タイプで間違い有りませんよっ!」
「はぁ‥‥‥」
「新たな日本神話の誕生ですっ!」
「って、言われても‥‥‥」
「もっと喜んで下さいよっ! レプティリアン・ヒューマノイドも太刀打ちできない存在なんですよっ!」
「そうなん? それなら、もう安心ねっ!」
「いえ、そんな簡単じゃぁ有りませんよ……しかし、邪神や悪神達が焦っているのはこのせいなんですから。これは、面白くなって来ましたね。フッフッフ」
めぐみはピースケが『交通事故は神様の手違いでは無かったのかもしれません』と言った事が気になっていた――
「あの、運命の日の交通事故が神様の手違いでは無かったのだとしたら……何者かによって仕組まれた事のか? 見えざる手が動いているという事なのかなぁ……」
その頃、既に駿は動いていた――
「和樹ちゃん、久しぶり。あれ? 相棒のピースケちゃんは?」
「おいおい、止めてくれよ。相棒だなんて」
「いやぁ、てっきり二十四時間一緒に居るものだと思ってね」
「ピースケなら、年末年始はめぐみさんの所でバイトしているよ。そんな事より、そっちの守備はどうなんだ?」
「まだ関係者の洗い出しが終わっていない。手掛かりが無いんだ」
「そして、証拠も残さない‥‥‥中々、手強い連中の様だな」
「あぁ。ピースケちゃんの情報を元にW・S・U・Sの調査をしたけど、社会貢献度の高い権威有る団体で不審な動きは全く無いんだ。奴らは人間になりすまして生活しているけど、イザとなったら何をしでかすか分からない‥‥‥」
「駿。お前、不安なのか? 大蛇が本性を現し、人間を食おうものなら一瞬で抹殺してやるさ。心配するなっ! はっはっは」
「和樹ちゃん、実はひとつだけ気になる事が有るんだ。大谷家に調査に入った研究者が消息不明なんだよ。ピースケちゃんに、心当たりが無いか聞いてみてくれないか?」
「なぁーんだ、駿。お前が聞きたかったのはそれか? ピースケがお目当てとは恐れ入ったな、はっはっは」
「いやぁ。ピースケちゃんの情報収集能力、嗅覚が必要なんだよ」
「分かった、分かった。そんなに必死になるな。連絡するように言っておくよ」
「ありがとう‥‥‥」
「ふぅ‥‥‥どうやら、ピースケは本当の相棒になるのかも知れないな‥‥‥」
天の国では役立たずの烙印を押され虐められていたピースケだったが、地上では皆に頼られる存在になりつつ有る事を和樹は悟った――
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