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キツネとタヌキに騙されて。

 吾郎は、その書置きを手に取った――


 〝 おじさん 昨日は親切にしてくれてありがとう 泊めてくれたお礼に 此れを置いて行きます 何かの役に立てば 嬉しいです さよなら ″



「何だよ、挨拶無しに帰っちまったのかぁ……水臭ぇ野郎だなぁ。此れを置いて行きますって……ん? 何だいこりゃぁ? 宝くじ? タカラくじはカラくじ。これが本当のタヌキだってオチか。洒落が分かっているのか、いないのか分かりゃしないぜ……」


年男がサイドテーブルの上に置いて行った宝くじは、たった三枚だけだった――


「十枚揃っているならともかく、三枚ぽっちで当たれば誰も苦労しねぇよぉ……」


 吾郎は手に取った宝くじの番号を確認した。すると、その宝くじの番号は124組 189721、189722、189723だった――


「ん?」



 〝 おじさん、節分が二月二日になるのは千八百九十七年、二月二日以来、百二十四年ぶりだったんですよ ″





―― 二千二十二年 元日 先負 甲寅


 年が明け、喜多美神社は神聖な空気と初詣の人で溢れていた――


「ピースケさん、補充、お願いっ!」


「はいっ!」


「ピースケ君、こっちもぉ、お願いなんですよぉ」


「はいっ! 僕に任せて下さい」


「ピースケちゃん、張り切っているなぁ。新年から飛ばし過ぎじゃね?」


「大丈夫ですよコレくらい。お安い御用ですっ!」


「頼もしいわねぇ。しかし、この神社に来て、こんなに人が切れないのは初めてだけど……お客さんは皆、落ち着いていて安心したよ」


 夏祭りの緊張と興奮、熱狂とは違い、新年を心新たに参拝するお客さんの表情は穏やかで、時折、笑い声が聞こえる静かで厳かな時間がゆっくりと過ぎて行った――



「の、の、の、のっ、典子さぁ――――――んっ!」


「あっ。変なおじさん」


「さすらいのギャンブラー!」


「あら? 吾郎さん?」


 吾郎は息を切らし、全力疾走で授与所の前にやって来た――


「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、ひぃ、ひぃ……ふぅ。典子さん、話が有るんだ……」


「えぇ。どうしたの? そんなに息を切らして……」


 吾郎と紀子を余所に、紗耶香とめぐみのヒソヒソ話が始まった――


「めぐみさん、どうせ又、お金をぉ、貸してくれってぇ、言うに決まっているんですよぉ」


「まぁ、それは、そうですよね……倍返しなんて、無理に決まってますからねぇ……」


「典子さんはぁ、悪い男にぃ、騙されている事にぃ、気が付いていないんですよぉ。破産確定なんですよぉ‥‥‥」


「フッフッフ。おふたり共、分かっていませんね。きっと、良い知らせですよ」


「ピースケちゃん、何か心当たりでも?」


 今度はヒソヒソ話をする三人を余所に、典子が絶叫した――


「えっ!? 宝くじが大当たり? 本当なの? 凄いじゃないの、吾郎さんっ! やったぁ――――――っ!」


「ほらね」



 〝 えぇっ! 一等前後賞合わせて十億円ですってぇ――――――――っ! ″


「実は全財産スッて‥‥‥死のうと思ったんだけどよぉ、そんな時に、ひとりの青年と出会ったって分けよ‥‥‥死なずに済んだのは、その青年のお陰‥‥‥でも、出会えたのは典子さんのお陰だからよぉ。ったく、銀行も怠けやがって休みだろ。支払いはもう少し先なんだけどよぉ、とにかく、いの一番に報告に来たって分けっ! これで実家の借金も全て完済して、まぁ、残りはほんの少しだけどさぁ‥‥‥倍にして、色付けて返すから待っていてくれよなっ! ほんじゃ、あばよっ!」


 吾郎が報告を終えて帰ろうとしたその時、ピースケが声を掛けた――


「待って下さいっ!」


「ん? 何だい兄ちゃん」


「あの。おじさん、その青年は僕と歳格好の似た感じでは有りませんでしか?」


「お、そうだなぁ。そう言われてみれば、ちょうど同じ位だなぁ‥‥‥」


「名前は‥‥‥」


「名前? 御神年男ミカミトシオって言ってたけど‥‥‥何だ、知り合いか?」


「いえ。それが分かれば結構です。どうぞ、気を付けてお帰り下さい」


「あばよっ!」



 吾郎が去って行くと、めぐみはピースケを呼んで話しを聞いた――


「ちょっと、ピースケちゃん。どう云う事?」


「どう云う事って、めぐみ姐さんは鈍感だなぁ……御神年男ミカミトシオはつまり、年神様ですよ」


「年神様っ! 年神様って‥‥‥鵜飼野珠美の弟!?」


「そうです。その通りです」


「でも、何で年神様が?」


「『大年の客』と呼ばれる昔話が日本各地に有るでしょう?」


「そんな事、知ってるわよ、それがどうして、吾郎さんの元に?」


「はい。おそらくですが‥‥‥山田家の先祖代々の土地にお稲荷さんが祀られていて、山田家を守ってくれたのでしょう」


「ふーん。だったら、御神年男だけで良いのに‥‥‥」


「いいえ。詐欺グループが、その先祖代々の土地を取り上げ、都市開発をする事に覚醒し、激怒した鵜飼野珠美が天罰を下そうとしていると云うのが、僕の推測です」


「詐欺グループ如きにそんな、大袈裟なぁ‥‥‥」


「フッフ。めぐみ姐さんは鈍感ですねぇ。その詐欺グループの連中が、もし、World Scientific Unification Society(世界科学統一学会)の関係者だったら? もしくはW.S.U.Sの手によって繁殖されたレプティリアン・ヒューマノイドだったとしたら、どうです?」


「そんな事が‥‥‥もし、そうだとするなら‥‥‥くわばら、くわばら。って、雷は味方かぁ? あぁ、この先どうなってしまうの、先が思いやられるわ」


「だから、初めて会った時に言ったでしょう、めぐみ姐さんの縁結びの力で、祀られている色んな神様が覚醒して姿を現し、集まってくるって」 


「マジか? そう云えば、そんな事を言っていたよね‥‥‥でも、集まってどーすんの?」


「それは、僕にも分かりません。それは、神のみぞ知るって事です‥‥‥」


「あなた、神様でしょっ!」


「You too、Me tooですっ!」


「ぐぶぅ‥‥‥‥‥‥面倒臭っ!」


「只、ひとつだけ言える事が有るとするなら‥‥‥」


「有るとするなら‥‥‥何?」


「鵜飼野珠美を怒らせない事でしょう。彼女をこれ以上怒らせると、トンデモナイ事が起こります」


「トンデモナイ事ってまさか‥‥‥」



 ピースケはめぐみの目をじっと見つめて、静かに頷いた――


 それは、令和の大飢饉を意味していた。めぐみは身体中の血液がごぉごぉと音を立てて逆流するのを感じていた――








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