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諸悪の根源、見付けたり。

 ――目的地の神社に着くと愕然とした。


 アルバイトの募集はおろか、神職も見当たらない。仕方なく「地上の歩き方」を取り出して他を当たる事にした――


 しかし、何処の神社も募集は無く、或る小さな神社の神主が「全国的に有名な、大きな神社に行けばあるかもしれないですゾ」と勧められ、赴いてみると「巫女のバイト募集は年末年始のみで、春から初夏に募集している社は何処にも無いと思いますよ。況してや……その格好で面接などと、あなた、非常識では有りませんか!」と軽く叱責された。


 めぐみは落ち込んでいた。

「世を忍ぶ仮の姿とはいえ、この様な虐待を受けるとは……」


 歩き疲れて日が暮れて、カフェに入ると「いらっしゃいませ! スター・ブルックスへようこそ! 御注文をどうぞ!」と折れた心に鬱陶しい笑顔が「キラッキラ」していた。


 カフェ・ラテのトールを注文してテラス席に着くと、隣のカップルがグランデとショートなので「夫婦サイズだなぁ―」と呟いて、「ふぅぁ―」と溜息を吐いた。


 すると「夫婦サイズなんて、メニューには無いわよ」と声がするので振り向くと、愛菜未が優しく微笑んでいた。


 愛菜未は仕事の帰りに何時も寄るカフェにめぐみが居る事に驚いていた――


 めぐみは見知らぬ街の、見知らぬ場所で、愛菜未に出会った事に「何か」を感じた。


 めぐみは今日の出来事を話すと少し気が晴れた――


「でも、その格好で面接は『非常識』と言われても仕方が無いわね。私の服で良ければめぐみさんに着て欲しいなぁ……気に入って貰えれば良いのだけれど」


「良いんですか! あっ、でも、それでは申し訳ないかなぁ……」


「遠慮しないで、一度しか着なかったリクルート・スーツや、出番の無くなった服をめぐみさんが使ってくれるなら嬉しいわ」


 めぐみは時間が有れば服を買うつもりだったが、就職活動で日が暮れてしまい、愛菜未の嬉しい申し出に飛び付いてマンションに行くことにした――


 途中で靴を2足買い、上機嫌でマンションに到着すると、コインランドリーの2階とは隔世の感がする立派な建物に驚いた―― 


 愛菜未の部屋は最上階で見晴らしも良く、上品な雰囲気にうっとりしていた。そして、ウォーク・イン・クローゼットに案内されると、色々試着して、気に入った洋服を貰う事になったのだが、ダッフル・バッグに巫女装束、買った靴が2足で、とても一度に持って帰れる量では無かった。


 めぐみが貰った洋服をダッフル・バッグに仕舞う際に、一旦、巫女装束を取り出したので愛菜未は驚いた。


「えぇっ! めぐみさん、アルバイトって巫女なの? でも巫女装束を持参しているのだから……本職が巫女なのね!」


「そうなのです。でも、何処にも募集なんて無くて……参りました」


「そうかぁー、服装よりも募集が無い方が原因なのね、普通の仕事では無いから無理もない……求人誌にも出ていないのなら、根気良く足で探すしかないわね」


「はい、明日からは愛菜未さんに貰った綺麗な洋服で、新しい靴を履いて頑張ります!」


 愛菜未はめぐみの買い物に同行し、夕食の買い物をせずに帰宅をしたので、宅配でお寿司を注文して二人だけの小さな引っ越し祝いのパーティーをする事にした。


 お寿司が到着するとめぐみは大喜びで、愛菜未は美味しそうに食べるのを眺めて幸せを感じていた。「いつもひとりで食事をしているから、今日は本当に楽しいわ!」そう言うと日本酒とワインを勧めた。


 めぐみは寿司ネタや、お酒の話しをした流れで核心に入った――


「愛菜未さんは、好きな人がいますね。なのに何故、いつもひとりなの?」


 愛菜未は驚いて一瞬、言葉が出なかった。そして一生懸命言葉にした――


「祝福されない恋愛は、上手く行かないものね……家族が反対なの」


「家族が反対? 愛菜未さんが幸せになるのに? 反対する理由なんて無いでしょう? 誰が? どうして? 意味が分からないです」


 

 愛菜未はゆっくりと話し始めた――


「私の彼は大学の二年先輩で、学生恋愛の間は父も母も交際を認めていたし、彼が卒業して大手企業に入社してとても喜んでいたの。それに結婚の約束もしていたのよ。でも、私が卒業する頃、家業を継ぐことになって突然、実家に帰ったの」


「家業を継ぐ事が悪い事なの? 実家が凄く遠いとか?」


「彼の実家は農家なの。それで父は猛反対、唯一の味方の母も別居中で、私も大企業から内定貰っていたし……何もかも上手く行かなくなってしまって」


「農家の何が気に入らないの? えっ、農家だと何が問題なのか、全く分かりませんっ!」


「私立から国立だったし……父は頑固で責任感が強くて、何事も自分の思い通りにならないと気が済まない人なの。一流の大学を出て大企業に勤めている人と結婚をして、豊かな暮らしをして欲しいと願っていたから……『農家の嫁なんて経済的にも不安定で姑の問題も心配だ! 農家の嫁にするために育てて来た訳ではないぞ! 第一、お前に農家が勤まる分けが無い! 諦めろ!』と言って聞かないのよ」


「先の事なんて誰にも分らないのに、勝手なお父さんねっ!」


「めぐみさんの住んでいる家は元々祖母の物で、父は高校入試の頃から学費捻出のために色んな投資や副業をして失敗ばかりして、母とは教育方針や生活の事で食い違う事が多くなり、喧嘩ばかりする様になって、私は身の置き所が無くなって、勉強部屋が必要だと嘘をついて祖母の家に逃げ込んだのよ。


 大学に在学中に祖母が亡くなって、一階が空いたからフランチャイズでコインランドリーを始めると言い出したのが原因で、母との関係が決定的に悪くなって別居したの。皮肉なものでコインランドリーは順調だったから、母との関係も何時かきっと良くなると信じていたの。でも、繁盛したのが災いして強盗に何度も入られてしまって……それで、二階を賃貸に出したの。私のせいで苦労ばかり掛けてしまったのよ。


 父は、私の前では絶対に愚痴は言わないけど、その分、母には随分と負担を掛けていたのを知っていたから、私も反対を押し切るのではなくて、理解して貰えるまで待とうと思ったの――」



 めぐみの瞳の奥が鋭く光った。そして確信した――


「諸悪の根源は父親と見付けたり!」


 愛菜未は息を飲み硬直した――





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