年神様は音信不通。
麗華の隣人に対する配慮は無駄だった――
「最初は音楽で誤魔化せていましたが、人間は本能には抗えないのです。って、僕も同様でありますっ!」
受験生は熱くイキリ立つ自分の息子を握りしめていると、突然、押入れの扉を開けられて驚いた――
「うわぁぁあっ! あっ、奥さん……」
「こんな所に入って盗み聞きするなんて……悪い人」
「すみません、つい、興奮してしまいました」
「見せて御覧なさい。あら? 元気ね。うふふっ」
「あっ、いやぁ、そのお……僕、童貞なんですっ! 威張る事では有りませんが」
「あなたは正直で素直なのね。じゃあ、私が筆下ろしをしてあげるわ」
〝 ぱくっ ″
「あぁっ!」
〝 じゅっぱ、じゅっぱ、じゅるっ、じゅるっ ″
「あぁっ…………うっ! はぁあ……」
「あら? もう、逝ってしまったの? 可愛いわね。じゃあ、またね」
「待って下さいっ! これだけでは物足りないのです。僕の息子は合体したいのです」
「試験に合格したら……ご褒美に私の下のお口で、たぁ――っぷり、可愛がってあげるわ……うふふふっ、あははははぁ――――――」
「あぁ、奥さん……奥……はっ! 夢かぁ……」
徹夜続きの受験生は押入れの中で居眠りしてしまい、スケベな妄想の夢を見てしまった――
「あぁ、情けない。こんな事で若いエネルギーを浪費して時間を無駄にするなんて。僕には時間が無いのであります。一に勉強、二に勉強なのですっ!」
気を取り直して机に向かい、猛勉強を始めると麗華の声が聞こえた――
〝 試験に合格したら…… ご褒美に私の下のお口で…… たっぷり ″
「はっ! たとえ儚い夢でも、お父さん、お母さん、受験に勝つために利用するのが正解なのです。早漏で候などと洒落ていてはいけないのですっ! よーしっ、頑張るぞっ! 絶対、合格! 絶対、合格! 合体、合格! 合体、合格! あ」
麗華と康平は沈黙のSEXが「特別なプレイ」の様になって却って興奮してしまい、受験生は性欲を推進力に換える事が出来てウイン・ウインの関係になった――
―― 十二月二十九日 赤口 辛亥
喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――
「ピースケさん、伝票纏めておくから、これを社務所に運んでね」
「はい。直ぐやります」
「ピースケ君のお陰でぇ、年末年始がぁ、大助かりなんですよぉ。余裕すら有るんですよぉ」
「大祓も初詣も怖い物無しですねっ! うふふふっ」
「めぐみ姐さん。僕ぁ、皆さんのお役に立てて、嬉しいなぁ」
めぐみは怖い物無しと言ってはみたものの、実は怖い物が二つ有った。それは、レプティリアン・ヒューマノイドと昨日神社にやって来た鵜飼野珠美だった――
「あっ、そうだピースケちゃん、私も手伝うから一緒に社務所に行こう。ねっ」
「えぇ? このくらい、僕一人で持てますよ……」
めぐみはウインクをして合図をした――
「はい。分かりました。では、よろしくお願いします」
荷物を持って授与所を出ると、めぐみはピースケに言った――
「ピースケちゃん、素戔嗚尊とナシ付けて来るから。後はよろしくね」
「あぁっ、ちょっと、めぐみ姐さん…………もう、勝手なんだからなぁ」
拝殿に昇殿して本殿に直行すると、素戔嗚尊の姿が見えなかった――
「あれ? 居ないよ。帰っちゃったとか? おーい、神様。お留守ですかぁ? 鯉乃めぐみが来ましたよんっ!」
「留守じゃないぞよ」
「なーんだ、居るならサッサと出て来てよ」
「すまんのう。又、珠美が来たのかと思ってのう。トホホ」
「実の娘に居留守使うって……どんだけ、病んでるのよっ!」
「ほぇー、すまんのう……」
「ん? ずいぶん元気が無いじゃないの。何時ものエロおやじ風な感じもしないんですけど……大丈夫? 具合悪いの?」
「はぁ……」
「まぁ、そんな事より鵜飼野珠美よ、ウカノミタマノカミが来たでしょ? ねぇ、なんであんなに切れキャラなの? 『何時でも勝負してやっからっ!』とか、啖呵切られて良い迷惑よっ! もう、あの二重神格をどうにかして下さいよぉ」
「すまんのう……娘が迷惑を掛けて、申し訳ないのぅ……」
「謝ってばかりいないで。もう、確りして下さいよぉ。何か事情でもあるんですか? 有るなら言って下さいよ」
「言えぬ!」
「はぁ? 聞いてやってんだろっ! 言えっつーのっ!」
素戔嗚尊は背中を向けてその場を去ろうとした――
「あっ。逃げんなっ! チンとして祀られていようとすんなっ!」
めぐみに襟首を掴まれて、引き戻されると正座をさせられた――
「ぐぶぅ……」
「ちっ、まっ、色々と事情があんだろ? あーぁ、分かるよぉ。人には言えない苦しみ悲しみが有る。口には出来ない、したくない事が有る事位は分かってますよぉ」
「実は、斯々然々《かくかくしかじか》と、云う訳なんじゃ……」
「省略すんなっ! そこを言わなきゃ分からないでしょう? あーもう、娘が切れキャラになるのも、分かるよぉ」
「うむ。では話そうかのぅ。櫛名田比売の後妻に神大市比売を迎えて、儲けた子供が宇迦之御魂神なんじゃぁ……」
「えっ! そこから? 話し長そうねぇ……でっ?」
「昨今のグルメ嗜好・コスパ主義・農業政策・食料自給率など、難しい事ばかり言うのじゃよ。最初は聞いてあげていたんじゃがのぅ、此処へ来ては文句ばかり言うので、嫌になってしまって聞き流しておったんじゃが……」
「あぁ……それって、マッチポンプでしょう?」
「ある日突然『聞いてんのかクソ親父っ! 聞いてんなら、やれやっ! おぁ? テメーがやんねぇなら、コッチにも覚悟があっぞっ! どうなっても知らねぇーぞっ! 知ってっけど!』とヤンキーみたいな口振りで、このわしを恫喝したんじゃよ」
「うん。まぁ、気持ちは分かるわ。っで?」
「あの娘を怒らせると、大変なのじゃっ! 弟の大年神が居れば何とかなると思ったのじゃが、連絡が取れないんじゃ……」
「そりゃ、年神様は正月まで来ないよぉ……つーか、どうして男って奴は流離ってしまうのかしらねぇ。女にはそんな暇無いのよっ! 分かってる? 洗濯は? 掃除は? ご飯どうすんの? おぁ? 生活に追われているコッチの気も知らないで、ロマンに浸って居る場合かっつーのっ!」
珠美に恫喝され、めぐみに説教された素戔嗚尊はチンとしていた――
お読み頂き有難う御座います。
気に入って頂けたなら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と
ブックマークも頂けると嬉しいです。
次回もお楽しみに。