アイツと彼奴は熱いのです。
周囲の者を凍り付かせる氷の女王の麗華さえ、息を飲み込んだまま止まっていた――
「やぁーだぁー、みなさん、元気出して下さいねぇー、私は元気でぇ―――すっ!」
「くっつはぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ」
麗華は気を取り直して質問した――
「珠美さんと言いましたね。あなたが元気なのはつまり……」
「はぁ――いっ、何時も美味しいお野菜をたくさん食べているからでぇ――すっ!」
「ピースケちゃん、お野菜だけであんなふっくらする分け無いよね? 肉食ってるよ、絶対!」
「めぐみ姐さん、黙って。心の声も全て筒抜けになっています」
「えぇっ! マジで?」
〝 いよぉ―っ、ポ――――――ンっ! ”
「だから、さっきから言ってんだろうがぁ、添加物や加工食品を食ってりゃぁ最低でも中高年で二回、高齢者で三回は病院の世話になっぞ! その上、病気になったら自分が痛い苦しい思いをして、周囲に迷惑と心配まで掛けんだろ? それに引き替え私の持ってくる野菜や食品はなぁ、医療費不要の医者要らずと来たもんだ。しかも、ピンピン生きてコロッと死ぬPPK。激安、爆安、クソ安いと言って欲しいねぇ。まぁ、そう思えば安いもんだろ? おぁ?」
「くっつはぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ」
珠美はにっこにっこのお多福顔に戻ると、何事も無かったかの様に話をした――
「だからぁ、安いか高いかはぁ。お客さん次第でぇ――――すっ!」
「二重人格ならぬ二重神格……」
「みなさぁ―――ん、人生百年時代と急に下駄を履かされた令和の時代でぇ――――すっ! あなた様の人生、あと何年ですかぁ? ん? 七十五年ですね? 一年、三百六十五日掛ける七十五年はぁ、二万七千三百七十五日、時間にして六十五万七千時間でぇ――――すっ! 毎日、毎日、今現在も減ってまぁ――――すっ、気が付けば人生終了でぇ――――すっ!」
「あんだか、細かい計算とヒステリックな感じが、お嬢様に似ているだぁ」
「瞳さん、ヒステリックは余計です。珠美さんは健康で有る事を自らの体形と顔色で証明しているではありませんか。販売する農産物は毎日を健康で健やかに過ごす食べる薬と言えましょう。是非、この私にそのお野菜を分けてくださいな」
「はぁ―――いっ、喜んで。正規の販売は新年明けてからですけどぉ、こうして出会ったのも何かのご縁でぇ――――すっ。今日は特別にお分けして帰りまぁ―――すっ!」
「めぐみさん。この神社に来るといつも奇跡が起こるわ。有難う。さようなら」
「さようなら。麗華さん、また来て下さいね。うふっ」
麗華と瞳がトラックに向かって歩き出し、去って行った――
〝 いよぉ―っ、ポ――――――ンっ! ”
「おい。ピースケ、お前、ちょっと人間に褒められたからって調子に乗ってんな――ぁ。一々めぐみにチクってんじゃねぇぞ。それから、めぐみ。お前、態度デカいっつったろ? おぁ? オヤジとは違うからな。甘く見んなよ。何時でも勝負してやっから。分かったな。分かりゃあ良いんだよ。じゃあな」
「くっつはぁ、はぁ、はぁ、はぁ。ピースケちゃん、食物神が何であんな二重人格キャラなのよ」
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ。分かりませんけどぉ、心の声は筒抜けなので慎んだ方が良いですよ」
「全部お見通し、筒抜けなんだから意味ないでしょう、もうっ」
「そうですね……」
珠美はにっこにっこのお多福顔に戻ると、何事も無かったかの様にトラックに戻り店を開いた――
「こちらが、今日お持ちしたお野菜でぇ――――すっ! どれでも好きな物を選んで下さいね。どーもでぇ―――すっ」
「お嬢様、びっくり価格だぁ。てっきり、大根もキャベツもワンコインで買えるか心配していたけんど、百六十八円だぁよ、どれもこれも……こりゃあ、安い。買いだよ」
「でも、どうしてこんなにお安いのかしら?」
「こちらのお野菜はぁ。農協を通していないこと。つまり規格外でぇ―――すっ」
「お嬢様、言われてみれば確かに形が揃ってねぇだ。規格外のB級品だから安いだよ」
「農作物はぁ、天の恵み、大地の恵みなのでぇ―――すっ! それを人間の都合で規格品にする事の方が烏滸がましいでぇ――――すっ!」
「うんっ、おっとりして人を反らさねぇお多福顔な人だけんど、話に筋が通っているだ。間違い無ぇ、B級品だなんて言って済まなかっただよ。お嬢様この人から買って間違い無ぇだ」
「はい。それでは此方と此方とコレを下さいな」
「はぁ――い。有難う御座いまぁ――――すっ! 来年より毎月、五の付く日に参りますので、よろしくでぇ――――すっ!」
「本当に助かります。これからもよろしくお願い申し上げます」
麗華は瞳と別れ帰宅すると、既に公平が帰って来ていた――
「ただいま」
「麗華、お帰り」
「今日は早かったのね」
「何時もの事だろ?」
「あら? もうそんな時間なのね。つい買い物が長くなってしまって。ごめんなさい」
「馬鹿だなぁ。謝らなくたって良いよ。おれ達は夫婦なんだからさぁ。それより何か変わった事でもあったのかい?」
「ううん、あっ、そう言えば、やっとお隣さんにご挨拶が出来たわ」
「なーんだ、そんな事? ほっときゃ良いんだよ、挨拶する程のモンじゃないよ、アイツはさぁ」
「彼奴?」
麗華はお隣さんと康平が互いに「アイツ」と呼び合う事に不信を感じ嫉妬を覚えていた――
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