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幸福はトラックに乗って。

 店長は恐る恐る麗華に真意を尋ねた――


「『でもね』と申されますと、何か……」


「このお店の商品は添加物で汚染され、遺伝子組み換え、産地ロンダリングの商品で溢れています」


「は、はい。重々承知しております。ですが、当店を利用するお客様は……低所得者が殆どで御座いまして、お嬢様の様な高貴なお方の立ち入る場所では御座いませんので……そのぉ……」


「そんなの言い訳ですっ! 良心的でお値打ち価格。庶民の味方などと烏滸がましいっ! これは詐欺ですっ!」


「あ、あの、お言葉ですが、詐欺は言い過ぎでは有りませんか? オーガニックだの安心・安全・健康に留意した商品を並べても売れないのです。価格が、ニーズと合わないのです。理想を言っていたら、庶民は何も食べられません」


「では、低所得者は汚染された食品を食べて成人病になって然るべきだと?」


「いえ、飛んでも御座いません、只、食べないよりは……食べた方が、生命を維持するのには良いかと……」


「ですから詐欺だと言ったのです。低所得者を安さで釣り成人病に導く。その結果、将来に高額の医療費を支払う事になります。医者は手を汚さず患者の確保が出来る分けですから左団扇ですねぇ。命を繋ぐはずの食品で命を犠牲にしては結局、高く付くのではありませんか。それが、庶民の味方と言えますか?」


「ご尤もでは御座いますが、そのぉ……」


「世間知らずのお嬢様と思ってらっしゃるのでしょう? 世の中、間違いだらけです。世間が間違っているのですっ!」


 麗華が大きな声で怒りを露わにすると、そこへ身元引受人として瞳がやって来た――


「あぁ、懐かしいヒステリックなお声。地獄耳のおらが来たからもう安心だぁよ」


「あら? 瞳さん。一別以来ですね」


「お嬢様、心配していただよ。ついに食い詰めて万引きを、尾原家の家名を汚す様な事をしたのかと……」


「誤解です。それに、まだ一週間足らずです。食い詰めるだなんて大袈裟です」


「はい。お嬢様は1ナノメートルも間違ってねぇだ。お前等っ! 只じゃぁ済まねぇどっ!」


「はっ、ははぁっ……」


 店長が土下座をすると、万引きGメンのふたりも慌てて、それに倣った――


「瞳さん。この方達に罪は有りません。忠実に職務を全うしているだけです。さぁ、手を突くのを止めて、顔を上げて下さい」


「はい、有難う御座います。この度は、誠に申し訳ありませんでした。あのぉ……」


「御心配無く。会社を訴えたり、この事を他人に言いふらしたりしません。さぁ、瞳さん。帰りましょう」


「はい、お嬢様。お前等、命拾いをしただ。この事が旦那様の耳にでも入ったら首じゃぁ済まなかったどっ! ったく、気を付けろっ!」



 麗華と瞳が去って行き、残された三人は魂が抜けた様になっていた――


「あの……店長。調子に乗って飛んでもない失敗をやらかしました。首にして下さい」


「先輩、僕がいけなかったんです。店長、僕も首にして下さい」


「もう良いんだ、全て終わった。あの方は全てお見通しなんだよ」


「店長……」


「これからも宜しく頼むよ。私も頑張るよ」


「はいっ!」



 スーパーを出ると、麗華は競歩の様な足取りで瞳を振り切ろうとしていた――


「お嬢様、待って下せぇ」


「瞳さん、付いて来ないで下さいっ!」


「お嬢様、逃げなくても良いじゃねぇですか」


「来ないで下さいっ!」


「待ってけろっ!」


「駆け落ちした私に何の用ですか? もう、尾原家とは何の関係も有りません」


「親子の縁は切っても切れねぇだぁよ。お嬢様に何か有ったら、直ぐに連絡が入る様になっているだ」


「私は丸山麗華に生まれ変わって生きているのです。こう云うの……何だか、とっても恥ずかしいの」


「お嬢様、安心するだ。お節なら、おらがこさえて持って行ってやるだぁ」


「でも……」


「デモもテロもねぇだ。尾原家のお節をふたりで食うだよ。それとも自分の旦那に変な物食わす気かっ!」


「うぐっ、はぁ――ぁ。時間も無いし、今回は特別にそうしましょう。それにしても、康平さんの給料では思い通りの買い物が出来ない事に変わりは有りませんね……そうよっ! せっかく瞳さんと再会したのだから、ふたりで喜多美神社に参拝に行きましょう」


「あぁ。そりゃ都合が良いだよ。めぐみさんにお礼を言いたかっただよ」




 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「ピースケさん、その箱が終わったら、後片付けをして終わりにして下さいね」


「はい。有難う御座いますっ!」


「ピースケちゃん、良く頑張ったわねぇ」


「ピースケ君はぁ、頼りになるんですよぉ」


「頼りにされちゃった。僕ぁ、嬉しいなぁ」



 四人が和気藹々で楽しく仕事をしていると、神社の駐車場に移動販売のトラックが停まり、ひとりの女が降り立ち、鳥居をくぐった――



「あれ? 何だろう、あのトラック」


「あぁ、めぐみさん。あれはきっと行商の人よ」


「以前はぁ、駐車場でぇ、色んな物を売っていたんですよぉ。最近は全く来なかったですけどぉ」


 参道を歩いてくる女は、年の頃なら三十位。ちょっと分け有りの雰囲気で、プリントの入った蛍光色のウインドブレーカーにストレッチするスラツクスを穿いて、足元は汚れたスニーカーを履いていた。その顔はまるでお多福というより、お多福その物だった。そして、参拝に来たのではなく授与所に真直ぐ歩いて来た――


「どーもー、どーも、でぇーす。皆さん、かぁんにちはぁー。お元気ですかぁー? 私は元気でぇーすっ!」


「かっ、かぁんにちはぁ?」


「めぐみさん、発音が変だと突っ込む以前に、コール・アンド・レスポンスが完結しているわっ!」


「良い人オーラ全開でぇ、無視したりぃ、そっけない態度を取ったらぁ、こっちが悪者になってしまう、苦手なタイプなんですよぉ。用心しなくてはダメですよぉ」


「聞こえてまぁ――す。心配しなくて大丈夫でーす。では、また後でぇー。失礼しまぁ――すっ」



 その女は、何も言わず拝殿に向かい、昇殿すると本殿の方に消えていった――







お読み頂き有難う御座います。


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