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ピースケのアルバイト。

 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


 めぐみは参道の掃除をしながら、人間社会の闇に触れた気がして心がザワついていた。そして、只ならぬ気配を感じて振り返り、御神木に目をやると子猫が覗く様に顔を半分出して覗いている者が居た――


「むっ! 何者だっ!」


「めぐみ姐さん、オレだよ。ピースケだよぅ」


「ピースケちゃん? こんな所で何をしているの? 和樹さんは?」


「めぐみ姐さん、聞いてくれよぅ。兄貴がさぁ、オレに辛く当たるんだよぅ。ゴロゴロしていないで働けって言うんだよぅ。それで、大祓と初詣は此処でアルバイトしろって。仕方なく社務所に言ったら履歴書を持って来いって言われるし、未成年ならダメって言われてさぁ……やらなくて済むならそれも良いけど、兄貴が怒るのが目に見えているしさぁ。どうしたら良いのか分からないよぅ」


「あら、嬉しいっ! 助かるよーぉ、やる事いっぱい有るから。よろしくねっ!」


「ちょっと待ってくれよぅ、オレは労働が嫌いだって言っただろ?『神社に断られたから許してあげて』って、兄貴に言って欲しいんだよぅ」


「はい、ダメぇ――っ! 素戔嗚尊スサノオノミコトには私からナシ付けておくから」


 めぐみが呪文を唱え「ピースケは、この神社で働く事とする!」と大きな声で告げ「かららーん、かららーん!」と鈴を鳴らすと、神職の者達は覚醒し会釈をした――


「良しっ、これでOK。ピースケちゃん、今直ぐ着替えておいでっ!」


「えぇ―――――っ! 働くのかよぅ……最弱とは言え祀られる身分なのによぅ……とほほ」


 ピースケが着替えて来ると、めぐみは授与所に案内した――


「典子さん、紗耶香さん。紹介します。今日からアルバイトに来て頂いたピースケちゃんですっ!」


「あっ、ど、どうも、初めまして。今日からお世話になります、ピースケと申します。どうぞ、よろしくお願いします」


「私は典子。ピースケさん、年末年始は大忙しだから、よろしくね」


「私はぁ、紗耶香でぇす。よろしくお願いします……」


「典子さんに紗耶香さん。分からない事ばかりで、御迷惑をお掛けするかもしれませんが、僕、一生懸命頑張りますっ!」


「あれ? ピースケちゃん、僕? 一生懸命頑張る? ふーん、皮被っちゃって」


「やぁーねぇ、めぐみさんたら、皮じゃなくて猫でしょう? 皮被っちゃってたら大変じゃない。あっはっはっはっはっは」


「童貞以前の問題ですよね。きゃはははぁ――っ!」


「ふたり共、止めて下さいよぉ。ピースケ君がぁ、困っているじゃないですかぁ。ゴメンねぇ、おばさん達の下ネタがキツくて。気にしないでねっ! うふふんっ」


「ちょっと紗耶香さん、シレっとおばさん扱いして何よっ! ひとりだけ若者ぶって感じ悪いわよっ!」


「典子さんだってぇ、さっき『私が惚れたぁ』とか、さりげなくブッ込んで来たじゃないですかぁ。これで、お相子なんですよぉ」


「まぁ、まぁ。そろそろ休憩の時間ですから、お茶にしましょう」


「ピースケ君。紗耶香お姉さんがぁ、お茶の準備の仕方をぉ、教えてあ・げ・るっ!」


「はいっ! でも、ふたりと違って、紗耶香さんと僕はそんなに歳が離れてないですよね? だから、紗耶香ちゃんって呼んでも良いですか?」


「可愛いぅぃっ! じゃあぁ、紗耶香ちゃんって呼ぶのをぉ、許してあ・げ・るっ!」



 めぐみと典子はふたりの目がハートになっている事に驚いていた――


「典子さん、紗耶香さんて、年下好みだったんですねぇ……」


「めぐみさん、紗耶香さんは童貞を飼いならす……小悪魔だったのよっ! 恐ろしい娘」



―― 三時の休憩中


 ピースケは紗耶香の指導で丁寧にお茶を淹れて、急須から湯飲みに注ぐと、皆に配った――


「はぁ。他人の淹れてくれたお茶は美味しい。しかし、酷い連中が居たものよねぇ。全てグルだなんて。吾郎さんが可哀想だわ」


「保証人になんかなってはぁ、絶対に駄目なんですよぉ」


「でも、そんな事をして心が痛まないのかなぁ?」


「めぐみ姐さん、悪い奴等は、心が痛むどころか、せせら笑っているんです」


「本当よねぇ。ピースケさんの言う通り……そう思うと、ゾッとするわ」


「せせら笑うかぁ……人ってそんな風に他人を騙せる物なんですか?」


 ピースケの表情に緊張感が漲った――


「めぐみ姐さん、例えば、誰かが事業を起こしますよね。すると、銀行の借り入れや経営状況を調査したりする輩が居て保証人が居たらマークされます」


「そうなの? ピースケちゃん、詳しいわねぇ。マークされたらどうなるの?」


「はい。すると、次に保証人の資産状況を調べ上げます。事業が破綻すれば取り上げる事が出来ますから。駅前の土地等を所有していると、それを奪う為に色んな仕掛けをして来るんです。まぁ、駅前の土地の様な資産価値の高い物件を地主が所有している場合、逆にそっちから調べる訳です。破綻させて手放さざるを得ない状況に追い込む訳です」


「そうやってぇ、人の足元を見てぇ、ツケ込んでくるんですよぉ。ピースケ君はぁ、ちゃーんと、分っているんですよぉ。偉いですよぉ」


「今回の場合、山田家の情報漏洩は麻沙美さんの婚約者でしょう。保証人になっている情報を掴んで接近したか……いや、婚約者として接近して油断させ、第三者の事業の保証人になって貰い、頃合いを見て投資話を持ち掛けワザと破綻させて婚約破棄。人の生き血を啜る悪行三昧とはこの事です」


「ピースケさん、あなた若いのに良く分かっているわねぇ。賢いわ」


「ピースケ君はぁ、子供に見えて大人なんですよぉ。出来る子なんですよぉ」


「幸せだなぁ。僕ぁ、褒められる事が、一番嬉しいんだぁ……」


「まだ夕闇に包まれて無いよっ! ピースケちゃん、そいつらをやっつける方法は無いの? もし吾郎さんが一文無しになったら全部取られちゃうよ」


「めぐみ姐さん、御心配無く。吾郎さんは必ず勝ちます。そして麻沙美さんも幸せになれますよ」


「ピースケさん、本当? 嬉しいわぁ。誰かさんと違って、ポジティブで良いわぁ」


「ピースケ君。あんまりぃ、無責任な事はぁ、言わない方がぁ、良いですよぉ。ぬか喜びさせてもぉ、後が大変なんですよぉ」


「ピースケちゃん、何か心当たりが有るのね?」


「ええ。絶対に大丈夫です。皆さんの前で誓います」



 ピースケは天の国では何時も虐められ、馬鹿にされていたが地上で労働をして褒められる事に無上の喜びを感じていた――








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