モノノ怪とレプティリアン・ヒューマノイドの謎。
―― 十二月二十五日 友引 丁未
喜多美神社は邪悪な空気とモノノ怪たちの騒めきに包まれていた――
「ふーん、ふっふんっ、今日は鼻歌が絶不調。でも、昨日の高級中華は美味しかったなぁ……贅沢させて貰ったから、早出も文句は言わないよ。うふふっ」
未だ薄暗い中、神社の駐車場に自転車を停めると、駿のベスパが目に入った――
「あれ? 駿さんのベスパだ……こんな時間に……」
不審に感じつつ歩き出し、一の鳥居に差し掛かった時だった。めぐみは只ならぬ気配と異変に気付いた――
「ん!? 何だろう、変な雰囲気だよ……はっ! 結界が切られているっ!」
めぐみが一の鳥居をくぐると、察知したモノノ怪達は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。再び結界が張られ、喜多美神社は神聖な空気と静寂を取り戻した。だか、安堵したのも束の間、二の鳥居の下で倒れている人がいる事に気付いた――
「あれは‥…駿さん??! 駿さんじゃないのっ! 確りしてっ!」
「うっ、あぁぁ……めぐみちゃん……」
「どうしたの? どうして、こんな所で……」
「うぐっ……もう朝だね、おはよう……」
めぐみに抱き起こされて、意識が戻り、肩を借りて立ち上がると、駿は素戔嗚尊に報告に来た事を話した――
「駿さんが気になっていたのは、イブの夜に七海ちゃんと一緒に見た、流れ星の事だったのね……」
「あぁ。でも、命拾いをしたよ。良かった……殺されたかと思ったよ」
「ねぇ、駿さん。そのレプティリアン・ヒューマノイドが殺しに来たと云う事なの?」
「いいや、違うね。あのモノノ怪達はめぐみさんを狙っていたんだ。今朝、めぐみさんを襲う為に仕掛けをしていたのだろう。ところが、そこへ……間が悪い事に僕が報告に来てしまったので、口封じと云う訳さ……」
「私を……?」
「素戔嗚尊が祀られた本殿の結界を切る事は出来なかった。だから、モノノ怪達は悟ったんだよ……」
「結界が切れない事で、素戔嗚尊の存在確認をしたと云う事ね」
「あぁ。だから、報告に来た僕を止める事は出来なかった。でも、報告を終えて拝殿を出たが最後、一斉に襲い掛かって来たんだ……」
めぐみは駿と共に御神木の前に立つと、そこには呪いの藁人形が五寸釘で打ち付けられ、御神木に焼き印の様な痕が付いていた――
「駿さん、コレは? いったい……」
「七芒星の様だ……おそらく、モノノ怪はレプティリアンの使徒だろう……」
「丑の刻参りなら、今夜も来るのかしら……」
「いいや、もう来ないだろう。めぐみさんを襲う事も無く、逃げて行ったのだから違う手を使ってくると思う」
「何だか、怖い……」
「うん、僕も怖いよ。円周三百六十度を七で割っても割り切れない……実在しない物 を具現化し不可能を可能にする証が七芒星だと言うからね。和樹ちゃんと対決する気なのかもしれない……」
不思議な事に駿に外傷は無かった。そして、ゆっくりと休養を取る為、帰宅をする事にした――
「気を付けて帰ってね」
「あぁ。めぐみちゃん、七海ちゃんにはこの事は内緒だよ」
「うん。分かってるよ」
「ありがとう。それじゃあ、さよなら」
〝 べベン、ベン、べべべッベ―――――ン、ベーーン、ベ―――ン、ベ――ン、 ″
駿が去って行き、暫くすると紀子と紗耶香が出勤して来た――
「おはよう」
「お早う御座います」
「おざっすっ! 典子さん、昨日は有難う御座いました。お陰様で楽しい夜でした」
「本当にぃ、久し振りの横浜でぇ、あんな贅沢が出来たのもぉ、典子さんのぉ、御蔭なんですよぉ。有難う御座いましたぁ」
「あぁっ、もう良いのっ! その話はしないでっ!」
「あれ? 典子さん、随分、機嫌が悪いですね?」
「もしかしてぇ、めぐみさんとぉ、私を降ろしてぇ、ふたりきりになってぇ、何か問題でも有ったんですかぁ?」
「はぁ……ぶっちゃけるけどね、昨日のお食事代は私が出したのよっ!」
「えっ! マジですか? だって……」
「彼奴、全部スッて文無し。予約はお金のある時にしたんだって。だから私がカードで立替えたのよ」
「そんなぁ、酷過ぎますよぉ……」
「その上、ふたりきりになったらさぁ、もう……」
「えぇっ! 乱暴でもされたのですか? あの野郎、やっぱり変態だっ!」
「めぐみさん。私に手を出したら変態って、どう云う事よぉ。まぁ、私も少しは期待していたんだけどねぇ……」
「典子さんはぁ、あのままタクシーでぇ、シティ・ホテルに突撃するとかぁ、思っていたんですかぁ?」
「そりゃ、そうでしょうよ。悪い? そのつもりで、いたらさぁ、何て言ったと思う?『金貸してくれ』だって。もう、嫌になっちゃう」
「それ、絶対アカン奴でしょ?」
「最低じゃないですかぁ。でもぉ、早く分かってぇ、良かったじゃないですかぁ」
めぐみも紗耶香もホッとひと安心したが、典子の顔色は変わらなかった――
「典子さん……立替えたお金も踏み倒されるかもしれないのに……まさか……お金を貸したりしていませんよね?」
「えっ、だって、しょうが無いじゃないの……貸したわよっ!」
「えぇっ、嘘でしょうっ! 信じられないっ!」
「典子さんはぁ、頭がどうかしてますよぉ、そうやってぇ、ズルズルとぉ、お金を引っ張てぇ、癖を付けてぇ、断れなくさせてぇ、金ズルにしてぇ、ヒモになるのがぁ、悪い男の手口なんですよぉ。馬っ鹿じゃないですかっ!」
「フッ、私だって女よ。ホテルに行ってイク事を想像しちゃってさぁ……お酒も入っていたしさぁ……もう、軽く濡れちゃってたんだもんっ!」
「また、エロい事をぉ、可愛い風に言ってぇ、ムカつくんですよぉ」
「典子さん、確りして下さいよっ! 幾ら貸したんですか? まさか、大金じゃありませんよね?」
「うん……まぁ、大した事は……無いのよ。ゴメンね、心配させちゃって……」
「あれあれ? 何だぁ、その態度? 目を逸らさないで、誤魔化さないで下さいっ! 幾ら貸したんですかっ!」
〝 えぇっ! 五百万―――――っ! ″
「馬鹿確定、死刑確定、クソ過ぎですよぉ!」
「痛いなぁ……どうかしてますよ、今直ぐ返して貰わなきゃ。もう、典子さんたらっ、何でそんな大金を貸したりしたんですかっ!」
「えぇ……だってーぇ、倍にして返すって言ってくれたしさぁ。元々、彼がプレゼントしてくれたお金でしょう? だからっ。へけっ」
騙されているのに、ちょっぴり嬉しそうな典子の姿に、めぐみと紗耶香は開いた口が塞がらなかった――
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