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地上の住人になりました。

 運命の日は大安、不成就日、復日であった――


 地上に降りた鯉乃めぐみは、住む所を探す事から始める事となった。神官から貰った天の国発行のガイドブック「地上の歩き方」と「ろろべ」は景勝地やアミューズメント・パーク、グルメ・ガイドばかりで役に立たなかった。


 道行く人に尋ねると「それなら、不動産屋に行きなさい」と言われたが、それが何か分からず街を彷徨った。


 それでも何とか、不動産屋に辿り着き「在り過ぎて、分からなかったぁーっ」と反省しつつ、ドアを開けた。


 入店すると「いらっしゃいませーっ!」と歓迎を受け、席に案内された。

 

「どの様な物件をお探しですかー?」


「部屋を借りたい!」


 そう告げると、担当者はパソコンをカタカタカタカタッとタイプして「駅近で? セキュリティはセキュリティはオートロック? 安心安全の女性専用が良いですよね? 日当たりが良い新築が一番ですよね? ご予算はどれ位でお考えですかーっ?」と様々な条件の質問攻めにあった。


「駅から遠くても問題無し、オートロックで無くても問題無し、女性専用でなくても問題無し、日当たりも、新築でなくても問題無し……」と、要するに住めれば良かった。


 不動産屋も心得たもので「さっさ」と案内をして終わりにしようとした。そして、契約をする時に、めぐみに保証人が居ない事に気が付いた――


「あの……ちょっと失礼しまーす」そう言って担当者が奥へ行くと、店長と何か「ひそひそ」と話をしている。


 担当者は小声で言った――


「あの、店長、あのお客さん、保証人が居ないそうなんですけど……」


「忙しのに、もうっ、保証人が居なくても良い物件を勧めれば良いだろっ!」


「只、その……あの若さでぇー、お金なら幾らでも有るみたいでぇー『そう云うお客さんは気を付けろ!』って言ってましたよねぇー、家出とか、風俗とか反社がどうとかって……」


 店長はゆっくりと振り向いて、めぐみを見ると顔色が変わり、緊張感が走った――


「若いのにあの髪型といい、ジャンプ・スーツにコンバット・ブーツ……地雷だ! 地雷確定だな! 大家と揉め事になるのは御免だぞ!」


 大人の事情で貸さない大家が居れば、同じ事情で貸す大家が居ると云うのは世の常である。



 商店街の外れにその物件は有った――


 コインランドリーにリノベーションをした物件で、投資回収に四苦八苦している大家が、放置状態の二階の部屋を貸したいと申し出て、その物件を借りる事になった。


 めぐみの新生活は、そんな平凡な街に住む、ひとりの住人として始まった――



 めぐみの部屋は、元々、大家の娘が勉強部屋として使っていたもので、机と家具が置いて有り、給湯器に冷蔵庫とベッドまで備え付けで有ったため、寝具を新調するだけで済んだ。


 生活に必要な物を買い揃えるために、何度も商店街を往復をした。日も傾き始めて、空には白く輝く上弦の月がビルの合間に隠れようとしていた――



 めぐみは部屋の窓から外の景色を眺めながら思いに耽っていた――


「地上勤務と言っても、何から手を付けて良い物やら……」


 ケータイの様な物を取り出し、アプリを起動して、二階の窓から待ち行く人達の測定を開始すると、誰も彼もが低い数値で、若者の多くが測定出来ない程の低い数値を示した。


 めぐみは更に精密な測定をする事にした。

「測定した数値が低い若者の殆どが、何らかの理由で恋愛を諦めているのか……?」


 めぐみはノート・パソコンの様な物を巾着から取り出すと、ブラウザを立ち上げて「パスワード」を打ち込んだ。『データ記録/収集』をクリックすると、サンプルの採集のために街へ出かけた。


 商店街は夕飯の買い物客で賑やかだった。そして、仕事を終えて帰宅する人や、塾へ向かう中高生まで幅広くサンプルの採集が出来て都合が良かった。


 順調にサンプルの採集を済ませる事が出来たので、ひとまず分析のため部屋に戻る事にした――

 


 部屋に戻ると、早速ノート・パソコンの様な物に接続して、採集したデータの入力作業を始めた。


「恋愛したい組」と「恋愛したくない組」に分ける作業を簡単に済ませると、「したい組」の中の「積極派」「消極派」に分けて行った。


「したい組・積極派」の中には「燃える情熱系」「絶対手に入れる系」と「人の物が欲しい系」が多く「したい組・消極派」は「良い人が居れば系」「告白されたら考える系」「自信ない系」などが多かった。


 そして「したくない組・積極派」は「自己実現が優先系」「共同生活は絶対無理系」と「結婚にメリットを感じない系」が多く「したくない組・消極派」は「ひとりでは不安系」「子供は欲しい系」と「自信が無い系」など、混沌としていた。


「これは時間が掛かるなぁ……いや、時間よりもこの混沌とした人達を組み合わせて、縁を結ぶ事を考えると先が思いやられる。今の心境を漢字一文字で答えるなら『鬱』」


 そう言って、ベッドにダイブした瞬間だった。


「ピン・ポーン」と呼び鈴が鳴った――






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