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人生の夜明け。

 康平の軽トラは軽快に走り続けていた――


「麗華。シートは固ぇし、うるせぇし、こんなオンボロ車でごめんよ……」


「そうですか? 全く気になりません。ふたりだけの空間が却って素敵です。康平さん、気になさらないで。うふふっ」


「そう言って貰えると有難いねぇ。言われてみりゃあ、確かにツーシーターだ。あははは。でも、康平さんはよそよそしいなぁ……もっと、なつっこい言い方にして貰いてぇな」


「じゃあ、康平だから……康ちゃんにしましょう。ねっ、康ちゃんっ!」


「康ちゃんだなんて、照れるなぁ。でも、良い感じ。麗華っ!」


「康ちゃんっ!」


「麗華っ!」


「康ちゃんっ!」



 ふたりが楽しく車内でイチャイチャしていると、軽トラは実家に到着した――


「麗華、もう深夜だから、家族は全員寝ている。音を立てずにそっと中へ入りますよ」


「はいっ!」


「し――っ!」


「はぃ…… 」


 玄関のカギを慎重に音を立てずに開けると、麗華を中に案内した――


「さぁ、真っ直ぐ奥に……おっとっとっ、行き過ぎですよ、それは裏口ですよ。この階段を上がって右手の一番奥の部屋です……ってそこはトイレ。ココですよ」


「まぁ、コンパクトなお家ですね。てっきり物置かと思いましたが、此処に人が住めるのですか?」


「住んでますよっ! 立って半畳、寝て一畳って言うでしょ? 尾原家ほどの財力は有りませんからねぇ、庶民はこんなモンなんです。おいらのアパートはもっと狭いんで、これでも避難したつもりなんですよ……」


「そうだったのですか? でも私、小さなお家を非難した訳では有りませんよ。使い勝手が良くて結構な事です」


「まぁ、とにかく、今日の所は此処で我慢しておくんなさい。布団は綺麗なヤツを用意して有りますから、寒かったらヒーターを使って下さい。それでは、おやすみなさい」


「康ちゃん『おやすみなさい』って、何処に行くの? 此処で一緒に寝るのでは?」


「いやっ、幾ら何でもそれは出来ません。先ず、おいらの家族に紹介して……それから、旦那様にも連絡をしないと心配しますよ」


「書き置きを残して来たので、捜索願いが出される心配は御無用です」


「兎に角、軽トラを駐車場に戻して、朝になったら戻りますので、それまで、此処でおやすみ下さい」


「わかりました。でも、別れは辛いものですね……朝になったら戻って来て下さいね」


「勿論です。おやすみ、麗華」


「おやすみなさい、康ちゃん」


 康平は自分のアパートに戻り、翌朝に備えた――



―― 十二月二十三日 赤口 乙巳


 康平の実家の朝は早かった――


 〝 ジリリリリ―――――――ンッ! ジリリリリ―――――――ンッ! ジリリリリ―――――――ンッ! ジリッ! ″



「ふぅわぁ……もう、朝かぁ。後、五分寝ていたいよぉ……」


 康平の妹の優香が目を覚ますと、誰も居ない二階の奥の洗面所の方から物音が聞こえた――


「ん? 何か物音がする? えっ、誰か居るっ! 痴漢? 泥棒!?」


 そっと、部屋のドアを開けて様子を窺った――


「ふ―――ん、ふふふ――ん、ふふふん、ふふん、ふふふ――ん、今朝は鼻歌が超絶好調っ! 曲名は映画La Vita è Bellaより、Abbiamo Vinto! 素晴らしい朝、人生の夜明けよっ!」


 〝 ガラガラッ、ピシャッ! ″


 麗華が窓を開け放ち、朝日と風を呼び込んで、全身で喜びを表現しているのを見て優香は声を掛けた――


「あのぉ、すみません。どちら様でしょうか?」


「あら? お早う御座います。初めまして、尾原麗華と申します。あなたは?」


「あっ、はい、お早う御座います、初めまして、丸山優香と申します……」


「優香さん、良いお名前ね。これからよろしくね」


 麗華は宝石のような瞳で優香を見つめ、手を差し出すと、優香はつられて手を出して握手をした――


「えっ、ちょっと待って。よろしくって言われても……何の事か、麗華さんは何故、此処に居るの?」


「何故って、私が康ちゃんのぉ、お嫁さんだからですっ! うふふっ」


 麗華は宝石のような瞳を更に輝かせて、嬉しさと照れ臭さを隠しきれずに笑った――


「こ、こ、こっ、康ちゃん? こ、こ、こっ、婚約者って事? お兄ちゃんにそんな人がいたなんて、初耳なんですけどぉ……」


「もう分かったでしょう? これからは、お姉さんって呼んで下さいな。私はもう済みましたから、さぁ、歯を磨いて顔を洗って、朝食にしましょう。ふふふふっ」


 麗華はそう言うと優香の肩を軽く叩いて、階段を下りて行った。すると、寝ぼけ眼の悠太が優香と思って突き飛ばした――


「トイレは僕が先だよっ! あれ? お姉ちゃんじゃなかったっ!」


「お早う御座います。初めまして、私は尾原麗華。あなたは?」


「お早う御座います。あっ、初めまして。僕は弟の悠太です……ごめんなさい」


「良いのよ、謝らなくて。私はあなたのお姉さんになったの。だから、正解なのよ。うふふふっ。でも、トイレは何時でもレディ・ファースト。便座は常に下げて置く事。分かったわね」


「あっ、はい」


 麗華がトイレに入ると、悠太は慌てて台所に行き、母に報告をした――


「母ちゃん、大変だっ! 誰か知らない人が居るよっ! お姉ちゃんでも、お姉ちゃんの友達でも無いよ、でも、お姉ちゃんになったんだって……」


「あぁ? あんだって、朝っぱらから馬鹿な事を言うんじゃないよっ!」


「だって、見た事が無い人だよ……」


「見た事が無い人? 泥棒かっ! よぉーしっ、コッチへおびき寄せな。この手でやっつけてやるっ!」


 康平の母は手にツバを付け擂り粉木棒を握り締めた――


「悠太君、お先に失礼。空きましたよ。どうぞ……あら、何処に行ったのかしら?」


 麗華は悠太を探して隣の居間に入った――


「コラッ! チョッと、あんた、此処で何してやがるっ! おうっ!」


 台所から飛び出し、睨む母に気が付くと、麗華は正座をして、三つ指を突いて挨拶をした――






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