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今夜、駆け落ちします。

 康平が去って行き、ひとり淋しく部屋に戻り、物思いに耽っていると、瞳がやって来た――


 〝 コッツ、コッツ、コッツ ″


「お嬢様。準備が整いましただぁ」


「準備? 何の事ですか……」


「さっきスイッチを入れた、サウナの準備が整っただよ。もう、入れる様になっただよ」


「あぁ、そうでしたね……分かりました。今、支度します」


「お嬢様、入浴に必要な物は用意してありますだ。クローゼットの奥にタオルとバスローブが仕舞って有るだ。それだけお持ち下せぇ」


「はい」


 麗華は瞳と共にサウナハウスに赴き、シャワーを浴びるために、脱衣所で服を脱いだ。すると、ポケットに入れた御守りが床に転げ落ちた――


「いけない、私とした事が、大切な御守りを粗末にして……」


 渡された御守りを拾い上げて良く見ると、紐が緩んでいる事を不自然に感じて確認をすると、小さなメモが入っていた――


「……何かしら?」



 〝 今夜、お迎えに参ります あなたの王子様 康平より ″



「よっしゃぁあ―――――――っ! 来たぁ―――ぁぁあ――――――っ!」



 突然、大声で叫ぶ麗華に驚き、瞳は飛び上がった――


「お嬢様っ! どうかしなすっただか? お怪我は有りませんか?」


「瞳さん、何でも有りません。お気になさらないで。うふふっ、うふははははっ」


 〝 ふん、ふん、ふふーん、ふん、ふん、ふふーん、ふん、ふふ、ふんっ、ふふふ、ふふふっ、ふーん、ふん、ふふーん、ふん、ふん、ふん、ふーん、ふん、ふふふーん、ふんっ!」


「お嬢様、そっ、それは結婚行進曲っ! しかも、メンデルスゾーンじゃねぇですか……」


「あら? 瞳さん、分かります? 今日は鼻歌が絶好調。さぁ、サウナに入りましょうっ!」


 瞳の心配を他所に、麗華は御機嫌でサウナ室に入って行った――


「何て気持ちが良いのかしら。この寒い季節に真夏の太陽が輝いている様ね……嗚呼っ、この瞳も唇も、乳房も柔肌も爪の先まで、全てが康平さんの物になるのよ。情熱の太陽が輝ているぅぅぅ―――――――っ! 最高っ!」



 瞳は本館に戻ると祥介に報告をした――


「旦那様っ、たったったった、大変ですだぁ」


「おいおい、瞳さん。どうしたと言うのだ、そんなに慌てて」


「おっ、お嬢様がキャラ変しただっ!」


「きゃらへん??」


「急に、ヒャッハ――――ッ! って、パリピみたいなギャルになっただよぉ」


「パリピ? あっはっははっは、良いでは無いか。いやっ、それで良いのだっ! あ――はっはっは」


「旦那様……」



―― その日の深夜


 康平は軽トラに乗って尾原家に現れると、門の横に停めてエンジンを切った――


 〝 ブーンブブッ、ブンブン、プスッ ″


「フェラーリは跳ね馬、おいらの軽は農道のフェラーリの異名を持つ軽トラで白と来たもんだ。差し詰め白馬に乗った王子様ってぇ訳だ。麗華さんをさらって行くぜっ! 旦那様も瞳さんも悪く思わないでくれよ、コレが男の心意気ってモンだからよっ!」



 麗華は自室の窓から見張っていて、ヘッドライトの灯りが門の脇で消えた事で康平の車が到着した事を確認した――



「遂にこの時が来たのね。何も言わずとも‥…跪いてキスをした私の王子様。この御屋敷を去り、運命の人と共に生きて行くのよ……」


 麗華は全身真っ黒のトラックスーツに身を包み、ダッフルバッグに一週間分の着替えを入れると、ジッパーを閉めて、ニットキャップを被り、寝静まった本館の階段を静かに下りた――



「フッフッフ。麗華の奴、集中コントロール室で門のロックを解除して出て行く気だな。鉄壁のセキュリティを抜けられると思っている様だが、ロックを解除しても監視カメラは作動しているとも知らずに……まだまだ子供だ。何時まで経っても子供だ」


「旦那様、このまま見逃して良いだか? お嬢様が出て行っても良いだか?」


「瞳さん、これで良いのだ。何時までも子供ではいられない。巣立つ時が来たのだ、喜んで見送ろうでは無いか」


「だども、旦那様。おらは心配だぁよ……身の回りの事は全部、おらがしていたから、ひとりじゃ何も出来ねぇ気がしてならねぇだよ……」


「瞳さん。心配など要らぬ。何とかなるさ。それに、家を出て他人と生活すれば出自出生、文化も違う事に気付き、嫌気が差して、喧嘩をして戻って来るかも知れない。だが、その時は優しく迎え入れて下さい。麗華には良い経験になるだろうからな。はっはっはっは」



 麗華は門をそっと開けて外に出た。ネックウォーマーを目の下までして、まるで特殊部隊かスパイのような格好だった――



「康平さん、康平さんっ! 私よっ! 麗華よっ!」


「うっわぁ、ビックリしたなぁ、もう。誰だか分かりませんでしたよ。さぁ、乗って下さい」


「はいっ!」


 麗華は乗り込むなり康平に抱き付いた――


「会いたかった、もう、放さないでね」


「勿論ですよっ! 誰が何と言おうと絶対に放しませんよ。麗華さん」


「麗華と呼んでっ!」


「麗華っ! さぁ、出発だっ!」



 康平の軽トラは実家に向っていた。自分のアパートでは狭過ぎて、ふたりでは生活が出来無い為、やむを得なかった――






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