邪神の身元引受人。
和樹はめぐみの日報と調査報告書を突き合わせて、悪神の消滅の確認をした――
「何て事だ……グランドに居た教師や生徒達に悪心が入り込んでいたとは……このオレに出来ない事が、めぐみさんには出来るのか……」
「はい。自覚が無いだけで御座います。恐らくは……将来的には時読命になる定めと心得ます」
「時読命に? 三貴神に並ぶ存在になると言う事か……」
和樹はショックに言葉を失った。そして、死者のゾーンに赴き、邪神を連れて地上に戻る事を決意した――
―― 死者のゾーン入口にて
「おい。姉ちゃんよー、オレは何時まで此処に居なきゃぁなんねぇんだよぅ……お迎えが来るなんて言ってたけどよ、お迎えが来たから此処に居るんだろ?」
「死者のゾーンに入る為には許可が必要です。あなたは人間では有りませんから死者にはなれませんっ!」
「何でそんな意地悪すんだよっ! おい、無視すんなよ、神権蹂躙だぞっ! なぁ、頼むよぉ、なんか旨いモン食わせてくれよぉ。ついでに酒もネーチャンもヨロシクなっ! 退屈で死にそうなんだよぉ」
邪神が調子に乗って言いたい事を言っている所に、お迎えが来た――
「退屈なまま死ねっ! クズがっ!」
「ひぃっ! お前は、武御雷神っ! なんだよぅ、もう、雷はこりごりだ、勘弁してくれよぉ。これ以上、弱い物虐めをするなよ。虐待を止めろよっ!」
「ふんっ、何もしておらんっ! 気様の様なクズを引き取って地上に戻らねばならんのだっ! オレの方がよっぽど災難だっ!」
「それでは武御雷神様。此方に身元引受人のサインをお願いします」
「身元引受人? って事は、おれは地上に戻れるのか? 戻れるんだな? やったぁ――っ! 神様、仏様、武御雷神様っ! 有難ぇ、仲良くしようぜ兄貴ぃ。ウッシッシ」
「えぇぃ、汚らわしいっ! 馴れ馴れしく触るなっ、天国主大神様の命令だから仕方なく連れて行くのだ、調子に乗った真似をしたらこうだっ!」
邪神は和樹のサンダー・ショットを食らった――
〝 バチバチッ、ビリビリリ―――――ビリッ! ″
「ギャぁオッ! 勘弁してくれよぉ、何でも云う事聞くからよぉ、助けてくれよぉ、頼むよぉ……」
和樹は項垂れて、邪神を連れて死者のゾーンを後にした。そして、足取りが重いまま軌道エレベーターに乗った――
「なぁ、兄貴ぃ。地上に戻らたら何食う? おれはジャンク・フードが食いてぇなぁ。健康に良いヤツは無しっ! やっぱ、背脂ギトギトのラーメンか、トランス脂肪酸がたっぷりでⅡ型糖尿病で即死しそうなハンバーガーとかよぉ……」
「即死などするか、馬鹿者がっ! 黙っていろっ!」
「そんなに、おっかねえ顔するなよぉ。なぁ、兄貴ぃ。これからは、ず――っと一緒なんだからよ。ウッヒッヒ」
「クソッ! 何で貴様のような邪神と行動を共にしなければならんのだっ……」
「諦めが悪いねぇ。それは、天国主大神様の命令なんだろ? 従わない訳にはいかないよなぁ、これからはヨロシク頼むぜ、兄貴っ! ウッヒッヒ」
和樹は軌道エレベーターを降りると、邪神を連れてめぐみのアパートに向った――
〝 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ″
「竹見和樹だ、めぐみさんは居るか?」
「はぁ――い。居ますよっ! 開いているから、どうぞ入って」
「失礼するっ」
「ごめん下さいなっ!」
めぐみと駿と七海は、聞きなれない声に驚いた――
「誰……?」
「皆、申し訳ないが此奴は……」
「やあっ! 皆、おれはピースケってんだ。ヨロシクなっ!」
「初めまして。ねぇ、ピースケちゃんは和樹さんのお知り合い?」
「知り合いって云うか、まぁ、兄弟みたいなもんですよ。お世話になりますねぇ。へっへっへ」
「あんだお、アニキに弟分が居たんか? 最近、顔見ねぇーから、皆、心配していたんだぜ。元気そうじゃんよー。あっシの丹精込めたビーフシチューを召し上がれっ!」
「こりゃあ、有り難いねぇ、腹減ってしょうがなかったんだ。まぁ、何でも良いや、早く食わせてくれよ。頼むぜ姉ちゃん」
「おい、ピースケとか言ったなぁ。テメー初対面で図々しいなぁ? アニキの分はやんないよっ! こっちの残りがおまえの分だおっ!」
「ちぇっ、コレっぽっちかよ。まぁ、良いや」
和樹とピースケは料理とワインを堪能していた――
「和樹ちゃん、何か訳アリな感じだけど、彼は一体、誰なの?」
「実は、邪神なんだ。天国主大神様に行動を共にする様に命令されたのだ」
「えぇっ! 和樹さん、どうしてそんな事になったの?」
「悪神を退治出来ずに取り逃がした。その結果、八百万の神々が怒って、罰を受けたのだ。よりにもよって、こんな奴と一緒とは情けない……」
「和樹ちゃん、天国主大神様が命じた以上、これにはきっと何か訳があるよ」
ピースケは七海が後片付けと洗い物をしているのを確認すると口を開いた――
「おれが八百万の神々の中で最弱の神だからだよ……兄貴はよぉ、天手力男命とアーム・レスリグをして腕の骨を折った怪力で、雷を操るだろ? おれみたいな弱い神を助ける運命なんだよ。ウッシッシッシッシ」
「最弱の神? 弱さを認めている点で最弱とは思えないな」
「おっと、あんたは火之夜藝速男神だろ? 中々、良い所に目を付けるじゃないか。邪神だったら今頃チリとなって消えているよ」
「ピースケって言ったわね? つまり、あなたは邪神では無く、一応、神様なんだ?」
「縁結命さんよぉ、一応では無く、れっきとした神様だよん。言ってみりゃ皆、あんたの力で集まっているんだぜ。ヒッヒッヒ」
「私の力?」
「そうともよ。あんたの縁結びの力で、まだまだ、これから色んな神が現れると思うぜ、ウッヒッヒ」
めぐみは落ち込み、駿は考え込み、和樹は沈黙した――
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