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Shall we Dance?

 瞳は男性達に見放された麗華を心配しつつも、心の中では康平に心が有る事を再確認していた――


「例え下らない男達でもプライドの高いお嬢様が、あんな事を言われたままで、反論もせず、気にも掛けず、清々しい表情をしている所を見ると……やっぱり、あの男が本命で間違いねぇだっ! 後は旦那様の説得だ……」



 康平は祥介と茶道の家元と共に中に入ると、バーカウンターで飲み物の提供を受け、祥介の音頭で乾杯をした――


 〝 カンパーイ ″


「うん、これは旨い……いえ、美味しいですっ!」


「はっはっは。季節外れのモヒートが気に入ったようだね。ラム酒では無くレモンとライムジュースをベースにして有るから、飲みやすいだろう? はっはっは」


「季節外れかぁ……皆、上等なワインやシャンパン、それにカクテル。本当においらにゃぁ、場違いだぜぇ……さっさと、帰ぇりてぇってもんだ。ふぅ……」


「ん? 何か言ったかね?」


「いいえ。何でも有りません、独り言で御座いますぅ」



 祥介は瞳がこちらへ向かって歩いて来るのに気が付くと、康平に向って言った――


「そうだ、康平君。せっかくだから麗華と踊ったらどうだ? ほら、ひとりぼっちでいる今の内だ」


「旦那様っ! 私は社交ダンスなんて……とんでも有りません。精々頑張っても……盆踊りっくれぇでしてぇ、へい。お恥ずかしぃ、限りでぇ御座います……」


「何? 盆踊りの達人だと? それならワルツ位なら大丈夫だ。麗華に習うと良い」


「あっ、いやぁ、達人だなんて、ひと言も……」


「麗華っ! 麗華っ! 康平君にダンスを教えてやってくれ」



 麗華は祥介の言葉に驚き、康平は顔が真っ赤になり、説得に来た瞳は出鼻を挫かれた――


「だっ、旦那様、おらは……話してぇ事が有るだよぉ……」


「分かっておる。だが、その前に康平君を案内してくれ。さぁ、ふたりで踊って来なさい」


 瞳は仕方なく、康平をホールへ案内した――


「ほれっ! お嬢様の所に行って、Shall we Dance? って聞くだよ。分かったな」


 康平は瞳に背中を叩かれて、前のめりに躓く様に一歩前に出た――


「おーっとと、足がもつれちまったぜ……ふぅ」


 体勢を立て直した康平の目の前を、美しく優雅にワルツを踊る来賓客がナチュラル・ターンで横切って行った――


「はぁ……おいらにゃ無理だよ、こんな優雅な世界……」


 その先には長椅子にひとり座りパートナーを待つ麗華が、後ろを振り返れば腕組みをして睨む瞳。康平は覚悟を決めた――


「あ、あのぉ……麗華さん……」


「康平さん」


「私と、そのぉ……Shall we Dance? です」


「えぇ。もちろん、喜んで」


 康平は差し出された手を取ると、麗華がスッと立ち上がり、見つめられると緊張で足が震えた――

 

「でも、康平さん。社交ダンスの心得は無いのでしょう?」


「へい、おっ察しの通りでして……そのぉ、生まれて初めてなんで……」


「そう? それなら、今度は私が教えてあげる番ねっ! さぁ、来て」


 麗華は康平の手を取ってレッスンを始めた――


「ワルツ・ステップ 3/4拍子、男性は ステップ前、スッテップ横、クローズで閉じる。スッテップ後ろ、スッテップ横、クローズで閉じるのよ。元の位置に戻るボックス。簡単でしょう?」


「えぇと、左、右、左。右、左、右。1、2、3。1、2、3と…‥」


「上手よ、それがクローズド・チェンジ。次はターンね。左足前、左へ90度向き変え、クローズで閉じる。右足前、右へ90度向き変え、クローズで閉じる。さぁ、やってみてっ!」


「へい、左、向き替え、揃えて閉じる、右、向き替え、揃えて閉じるっと!」


「うわぁ、凄いっ! ナチュラル・ターンもリバース・ターンも完璧。さぁ、本番よっ! 右手を私の背中に回して支えて、左手はこの高さをキープ。音楽に合わせて踊りましょう」


 康平は麗華との距離に鼓動が聞こえる程だった。そして、背中に回した右手が素肌に触れると、顔が真っ赤になった――


「左、右、左。右、左、右。1、2、3。1、2、3と」


「康平さん上手よ。もっと力を抜いて、リードして」


「へい、何だか楽しくなって来ましたっ!」


「そうよ、その調子っ! うふふっ」


 何事も物覚えの早い康平は、ステップを覚えると麗華と見事にワルツを踊っていた――



「旦那様。おらは話してぇ事が……」


「瞳さん、留守にして悪かったね。さぁ、一杯やろうじゃないか。瞳さんはビール党だったね? 君、ビールを頼みたいのだが、何がお勧めかね?」


「はっ、尾原様、只今でしたらアンカー社のクリスマスエールが御座います。ハーブやスパイスで風味付けされた特別限定エールで、毎年違うレシピで醸造され、開栓するまで、その年の味わいが全く分かりません。ラベルも毎年変わるのも楽しみの一つで御座います」


「あぁ、それを頂こう」


 祥介はバーカウンターの奥に座り、開栓するとスチームの名の通りシュッパっと音がした。そして、瞳のグラスにビールを注ぎ始めると、グラスに注ぐ音と泡の弾ける音を追いかける様にフルーティなフレーバーが漂った――


「あぁ、旦那様に注いで貰うなんてぇ。勿体ねぇ事だぁよ……」


「まぁ、まぁ、良いじゃないか。はっはっは」



 瞳は、ゴクッツ、ゴックとビールを飲んで喉を潤すと、意を決して祥介にふたりの事を話そうとした―― 



「瞳さん。ふたりの事だろう?」 


「えぇっ! はい……尾原家と、あの男とでは、身分が釣り合わねぇだよ。だども、旦那様に許して貰いてぇだよ……」


「はっはっは。許すも許さないも、ふたりがそれで良いのなら構わぬ。瞳さんが身分を心配する必要などない。ほら、見て御覧なさい。楽しそうに踊っているではないか」


「ほぇっ!? だっ、旦那様、反対しねぇですか? こりゃぁ、おったまげたなぁ」


「はっはっは。瞳さん、反対しないとは言って居ないぞ。我々大人が、あのふたりに出来る事は……つまり……」


 祥介は瞳にそっと耳打ちをした――


「旦那様っ! 有難うごぜぇますだぁ……」


 瞳は想像だにしなかった、祥介の言葉に驚いていた――






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