和樹と駿と七海と私。
何も知らないめぐみは、上機嫌で喜多美神社を後にした――
「自転車、自転車、らん、ららーんっ! ふんふんふんっ、ふんふんふんっ、ふーんふっ、ふんふんふんっ、今日も鼻歌絶好調ぉーっ! 何の歌かは知ぃーらないけれどっ! 到着っ!」
めぐみは自転車を停めると、何時ものカフェに寄った――
「いらっしゃいませ! スター・ブルックスへようこそ!」
「こんにちは、キャラメル・マキアートのトールで、おなしゃーすっ!」
「かしこまりましたぁーっ!」
めぐみはコーヒーを受け取ると、空いている席を探したが、混んでいて座れなかった。すると、聞き覚えのある声がした――
「めぐみさん、こっちこっち、此処へどうぞ」
「あら、和樹さんっ! こんな所で会うなんて、ビックリ」
「地上に来ると喉が渇いて仕方が無いんだ。以前、めぐみさんに此処へ連れて来て貰っただろ? 他は知らないからね。何時も此処なんだよ」
「そうなんだ。どうせなら、駿さんみたいに地上に住めば良いのに」
「あぁ、検討しておくよ。そんな事より、ご機嫌だね。何か良い事でも有ったの?」
「うふっ。良い事が有ったのでは無くエラーコードが無いから、何もする事が無いの。ひと足早い冬休みって感じかなぁ」
「そうなんだね。では、ひと足早い冬休みをゆっくり楽しんでくれ。オレはそろそろ行くよ」
「あぁ、ちょっと待って、せっかくだから聞きたい事が有るの」
「いいとも、オレに答えられる事ならね」
和樹がカウンターに行き、新たにコーヒーを注文して戻って来ると、真剣な表情に変わっていた――
「それで、聞きたい事とは具体的に何だい?」
「時の使い方と駿さんの事なんだけど……和樹さん、このカフェであなたに時の動かし方を習ったでしょう? でも、使い方が分からないの。時を止めたり戻したり、進めたり出来るけど……」
「はっはっは。歴史を書き換えてしまえば、未来が変わってしまうからね」
「そう。その人だけじゃなく、周囲の人の人生も変わってしまうでしょう? だから、使えないの。宝の持ち腐れって感じなのよね……」
「だから、言っただろ? 人間の歴史を書き換えるのはイタチごっこだ。迷宮に入ってしまうよ。始末するのが正解なんだよ。放っておいても人間はいつか必ず死ぬ。だから深刻に考える必要など無い。ましてや、ひとりひとりに関わっていたら時間ばかり掛かる」
「それじゃ意味が無いのよ。七海ちゃんのお父さんを蘇らせたいと思ったけど……そうすると、今は無くなってしまうでしょ。それが怖いの……全てを失ってしまう様で」
「ふむ。七海ちゃんや、この地上で関った全ての人々が愛おしいって事か……めぐみさんらしいね」
「それに駿さんの事なんだけど、七海ちゃんが激熱なの。だから尚更なんだけどね……」
「めぐみさん、時の支配は邪神、悪神には最大の力を発揮すると云う事を覚えておいてくれ。そして、このオレでも生命の誕生が関わる事には手が出せない。出生に関する事に関与出来るのは駿だけなのさ。君の縁結びの力で引き寄せたと考えれば、この先どんな神々が登場するのか、先が思いやられ……いや、この先が楽しみだなぁ。あははは」
「気を使わなくて結構ですよっ。邪神、悪神は和樹さんが退治してくれれば良いのよ。私はもっとロマンチックな任務がしたいのっ!」
「分かったよ。さぁ、もう帰ろう」
和樹はテーブルの上の容器を持ってカウンターに行き後片付けを終えると、椅子に置いためぐみのダッフルコートを手に取り、袖を通してあげた――
「ありがとう……」
和樹は無言で顔色ひとつ変えなかった。めぐみは久しぶりに胸がキュンとして、頬が紅潮し、和樹の横顔に見惚れていた――
「どうかした? せっかくだから、送って行くよ」
「うんっ!」
和樹と他愛の無い話をしながら自転車を引いて歩いていると、後方からベスパの排気音が聞こえて、聞き覚えのある声がした――
「めぐみ姉ちゃ——んっ!」
〝 ベンベンッ、ベンベンッ、ベンベンッ、ベッベッ、ベッベッ、ベッベッ ″
七海は駿のベスパに乗り、背中にバックハグで抱き着いていた――
「兄貴と一緒っ! おふたりさん熱いねぇ、ヒューヒュー! ちょうど今からめぐみ姉ちゃん家まで行く所だったんよー、逢えて嬉しいぜっ!」
「今晩は。めぐみちゃん、和樹ちゃん、皆で一緒に夕飯でもどう? 食材は充分、買って来たからさ」
「今夜は牡蠣鍋だお。超絶旨いの作っからさっ!」
「あぁ、残念だな。オレはやる事が有るからこれで失礼するよ。めぐみさん、くれぐれも、オレの言った事を忘れないでくれよ。じゃあな、さらばだっ!」
「あんだおっ! 付き合い悪ぃなぁ、せっかく駿ちゃんが誘ってんのによっ!」
「七海ちゃん、和樹ちゃんも忙しいんだよ。めぐみちゃん、準備が有るから先に行ってるね。七海ちゃん確り摑まってね。行くよっ!」
〝 ベンベンッ、ベベンッ、ベッベェ――――ンッ、ベェ――――ンッ、ベェ――――ンッ ″
「ふぅっ。何で私だけひとりぼっち? でも、和樹さん……殺気が出ていた様に感じたけど……」
部屋に戻ると七海と駿が力を合わせて、夕飯を作っていた——
「あっ、めぐみちゃん、お帰りなさい。直ぐに出来るから待ってて。七海ちゃん、これをどうぞ」
「えぇっ、あっシに? 優しぃ――っ!」
「そんな事無いよ。当然じゃないか」
「だってぇ、あんまり優しくされた事無いからさぁ、何だかぁ、幸せだおっ!」
「七海ちゃんが幸せなら、僕も嬉しいよ」
「駿ちゃんが嬉しいんならぁ、あっシはそれだけで満足だお」
「本当?」
「だってぇ、初めての共同作業が出来たんだもんっ、虹色だお!」
「バラ色じゃなくて、虹色だなんて、七海ちゃんは色彩感覚が優れてるね」
「きゃはっ、駿ちゅぁーん!」
「コラッ! おまーらっ、何時までイチャこいてんだぁ、おぁっ! ったく、牡蠣が固くなるっつーのっ!」
「大丈夫だお。牡蠣はこっちに用意してあんの。平気なの。ったく、ヤキモチ焼いて水差すなっつーのっ!」
「まぁまぁ、七海ちゃんもめぐみちゃんも仲良くして。さぁ、皆で食べよう。焼き餅も水差しも用意してあるよ」
三人が牡蠣鍋を食べていると、遠くでゴロゴロ雷の音が聞こえた。そして、暫くすると大きな音がした――
〝 ゴロロロ――ォ、ドッ、ダァアアァア――――――――ンッ! ″
めぐみは和樹が誰かを始末をした事を悟った――
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次回もお楽しみに