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ふたつの修復。

 瞳は話を終えると、麗華に背を向け階段の方へ向った。麗華が後を追うと、踊り場にある鏡の前に立っていた。麗華はそっと近づき、瞳の背後から鏡越しに話し掛けた――


「瞳さん、そんなに鏡を見つめて、どうかしたの?」


「お嬢様…… ショットガンならまだしも、豆鉄砲食らったゾンビなんて、見た事ぁねぇだよ。おらはゾンビが豆鉄砲食らった様なツラでしょうか?」


「えっ? ぷっ、はははっ、ゾンビは豆鉄砲なんて、あはははは、痛くも痒くもないでしょ? あはははははっ、うふふふふふふっ、可笑しい、そんなこと誰が言ったの?」


「あの職人ですだ。お嬢様、笑い過ぎですだ、これでも傷付くですだぁ」


「傷付くなんて有り得ない。瞳さんを笑わせるために言ったのよ! 真に受けるなんて可笑しいわ。ふふふふふっ」


「お嬢様……これでお相子ですだよぉ」



 麗華と瞳が談笑している頃、康平は棟梁に電話をしていた――


「あっ、もしもし棟梁、康平です。それで、寸法取ったんで、はい、はい、屋根の材料は足りると思うんです。あー、まぁ。えっ? 大丈夫ですよ。そんな事より、その屋根なんですけど、銅葺で。一文字で。いやぁ、どうせ彼奴等も持て余しているんですから、へい。細けぇこたぁ戻ったら話しますんで。承知しておくんなさい」


 話し終えると、簡単な設計図と完成予想図を書くと、道具を纏めて麗華の居る本館に向った――


〝 カン、コーン、カラララ―ンッ! カン、コーン、カラララ―ンッ! ”


「ごめん下さぁーい。尾原様、大工でえくの康平です。開けておくんなさいませぇー」 


「お兄さん、もう終わっただか? 早いじゃあねぇか。寄ってくか? 飯食ってくか?」


「こりゃ有難い。でも、そうは言ってられねぇ。仕事の段取りを付けましたので、今日は帰ります。あっ、お嬢様にこれを渡して下さい」


「こりゃ、なんだぁよ?」


「ラ・ブ・レ・タ・ー。ヨロシク!」


「あんだぁ! この身の程知らずがっ! 職人の分際で、お嬢様に指一本でも触れたら、只じゃ済まねぇぞっ!」


「おぉっ、おっかねぇなぁ! 勘弁しておくんなさいよ。冗談も通じないとはねぇ。設計図と完成予想図ですよ。お嬢様が幾ら美人だからと言っても施主だ、色目を使う様な真似なんかするもんかいっ! 人を見縊みくびって貰っちゃあ困るぜ、痩せても枯れても宮大工の丸山康平はそんな……」



 〝 ぐぅうぅ――――っ! ″



「腹が減ってるだな」


「けっ、こんな時に鳴りやがって、腹ペコなのがバレちまったじゃねえか」


「うん。許してやっから、飯食ってけ。勿論、お嬢様には内緒だ。バカ垂れっ! ダイニングじゃねぇ、台所の脇だぁよ」


 瞳は康平が急いでいる事を考慮して、夕食の食材をサッと丼ぶりに仕立てた――


「良い臭いだなぁ……おっ、丼ぶりとは有難てぇ、これなら直ぐに掻き込んでん仕事に戻れるって寸法だ。ほぉ、瞳さんこりゃ、なんだい?」


「牛ヒレ肉のロッシーニ風丼ぶりだ」


「かぁーっ、金持ちは違うねぇ。親子丼じゃねぇ事くれぇは分ったけどよ」


「庶民の口には入らねえだよ。余熱で火が入っているから、ソースとスープが出来るまで待ってるだ」


 程無くして、お預け状態の康平の前にコンソメスープとペリグーソースが運ばれて、瞳がどんぶりの蓋を開けてソースを掛けて仕上げた―― 


「こりゃぁ、旨い! こんな柔らかい牛肉を食べたのは生まれて初めてだぜ、この、柔らかいのも良い味出してる。コンソメにぶち込んだセロリも良いねっ!」


「最高級のフォアグラだぁよ。食べ終わる頃にはどんぶりの下の方にお肉のジュースとペリグーとフォアグラの脂が御飯に馴染んで旨いだよ」


「ペリグーはベリーグーッ!」


  康平はペロッと平らげ、時計を見るや慌てて棟梁の元へ向かった――



「おうっ、康平っ、戻ったな。お前ぇの言う通りに手配したから、心配すんな。で、どんな具合だ」


「へいっ、建屋は平屋の四軒、五軒で。片流れの屋根の形を少し変えて、設備はドアを交換するか、それとも、有るのを加工して障子風にするかってぇ所です。それと、単調なウッドデッキを見栄えの良い物に加工し直します。まぁ、二週間もありゃ何とかなります。へいっ」


「そうかい、分った、ご苦労さんよ。しかし、細けぇ手間仕事ばっかりだ。なぁ、丸ごと建て直す分けには行かなかったのかい? せめて屋根だけでも入母屋にするとかよ。おぉ?」


「棟梁、そりゃあ、相手は金なら幾らでも有る御大臣様です。けどねぇ、時間がねぇんです。『旦那様がお戻りになるまでに仕上げて欲しい』と頼まれちまったんですよ。入母屋なんて時間が掛かり過ぎてやってられません。第一それじゃあ、格好が付かないんで、へい」


「格好が付かねぇたぁ、どういう事でぇ、言いな」


「へい。乳母の瞳さんてぇ方に聴いた話ではお嬢様が御立腹で、職人が引き揚げちまったってんで、今度はそれを聞いた注文主の旦那様が御立腹になられたそうで、その上、急用でシンガポールとやらに行ってしまい、親子関係に亀裂がへぇって、何とか仲直りをさせてぇ、って訳なんです」


「そらぁ、分かってんだよ。だから、どう格好を付けようってんだい。おぉ?」


「ですから、注文主の旦那様もお嬢様も納得の出来る物を仕上げるってぇ、寸法ですよ」


「そうかい、当りを付けたんだな。おい……それにしても厄介な仕事を引き受けちまったなぁ。建物だけならまだしも親子関係の修復まで引き受けるたぁ……でもよぉ、職人にも意地ってぇモンが有るからよっ。康平、頼んだぜ」


「へいっ!」



 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――






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